ポーション
ポーション━━。
傷に塗れば傷がたちどころに快癒し、飲めば体力、魔力が回復する。アキラ曰く、塗って良し飲んで良しの万能霊薬。
塗り薬なのか飲み薬なのか、いまいちはっきりしないのと、そのくせ値段が試験管一本で百万ビット=約百万円するという高額のため、オレたちパーティーは持っていなかった。そんな貴重な霊薬を、
「うえっ!?」
思わず変な声を上げてしまった。
教会の奥に引っ込んだアジィ修道士は、手に持って戻ってきたポーションを、躊躇いもなくブリー青年にぶっかけたからだ。
「さあ、あなたたちもこれを飲んでください」
そう言ってオレたち一人に一本ずつ、霊薬を差し出すアジィ修道士。
ここは飲むべきなのか? とマヤ、マーチ、ブルースと見るが、皆手に持ったまま固まっている、と思ったら、さすがはご令嬢、ファラーシャ嬢は何の躊躇いもなく蓋を開けてポーションをゴクゴク飲み始めた。
その姿に、スゲエなぁ。と四人で感心していると、
「さあ、あなたたちも飲んでください!」
とアジィ修道士に急かされ、オレたちは初めて霊薬を口にした。味は、ミントとシナモンを合わせたような、スカッとする味だったが、
「うえっ!」
マヤには不評だった。
飲んだ後に、ああ、後の戦闘に取っておけば良かった。と後悔したが、時すでに遅しだ。パワー全開なことを前向きに捉えよう。
傷が癒えて気絶から目を覚ましたブリー青年から聞いた話によれば、サヴァ子爵の屋敷は南に海岸線を下り、また現れる崖の上にあるそうだ。しかも一本道だとか。
「どう?」
マヤが、屋敷の位置を探るオレに声を掛けてくる。
オレたちが今いるのは屋敷とは村を挟んで対岸の崖、修道教会がある崖の方だ。
しかしこうして見ると、村の惨状とでも言うべきものがよく見える。何せキレイさっぱり緑が見えないのだ。
村は西の山野からなだらかな傾斜で東の海へと下っており、村の中央には川が流れていた。その川周辺に細々と緑が生えているだけで、あとは、川から引いた用水路があるにも関わらず、畑にも緑らしきものはなかった。
だが、その理由もよく分かった。村は崖と崖に挟まれた窪地の上に、潮流が激しいのか波が高く、潮風が強風となって絶えず村へ吹き付けているのだ。こりゃ、オレの塩害対策でどうにかできるとは思えないなあ。
「で、どうなの?」
マヤがもう一度聞いてくる。
「ああ、ブリーさんが言ってた通り、一見した感じ、一本道が村から屋敷に通じているだけだな」
オレが視力をバフで強化して見てみた感想をそう述べる。
「ここはやはり正面突破しかないでしょう!」
「…………」
熱いファラーシャ嬢は、拳を握って強い語気でそう言うが、皆からは賛同が得られなかった。
「やめた方が良い」
「何故ですか!?」
オレが否定的な意見を口にすると、ファラーシャ嬢の矛先がオレに向けられる。
「屋敷の周りを、海賊たちがぐるっと囲っているからさ。一本道での戦いとなれば多勢に無勢、屋敷に着く前にこちらが物理的にも精神的にも疲弊させられて、屋敷に着いたところで新参の用心棒であろう冒険者にやられるだけだ」
「むむう!!」
オレを睨まれても現状も結果も変わらない。
「向こうには狙撃手もいるし、できるなら、あの一本道は通らずに屋敷にたどり着きたい」
「崖を登るってこと!?」
とファラーシャ嬢。いや、そんなバカな。それこそ射手と狙撃手に狙い撃ちにされる。
「屋敷に着くまで、見つからなければ良いのよね?」
そう応えたのはマヤだった。





