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マグ拳ファイター!!  作者: 西順


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火蓋は切って落とされる

 光が見えると言っても、人間に見えているのは可視光と呼ばれる、俗に言う虹の七色という狭い領域であり、その領域外には、紫外線や赤外線、X線など人間には見えない領域が存在し、その存在の方が光の大部分だったりする。

 なのでエフェクトでファラーシャ嬢の魔力を赤外線の方へちょこっと移動させるだけで、見えないファイアボールは成功した。

 見えず、音も出ない、無色無音のファイアボールの完成である。


「やりましたね」

「やったわ! …………」


 完成して一度は喜んだファラーシャ嬢だったが、すぐに不満が顔に出た。


「どうかしましたか?」

「確かにこの魔法は凄いものだと思う。ただ……」

「ただ……?」

「撃って、爽快感は無いわね」


 うん、そういうのとは真逆だからね。

「爽快感を求めるなら、何か音だけ出るような魔法を開発しますか?」

「良いわね!」

「ただ……」

「ただ……?」

「創るのは今の問題が片付いてからですね。それまではそのホロウファイアボールで我慢してください」

「ホロウ……ファイアボール?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げるファラーシャ嬢。


「その無色無音のファイアボールの名前です。音もしなければ見えもしないからまるで存在しない、(ホロウ)のようでしょ?」

「ホロウファイアボール……。良いわね! 気に入ったわ!」


 気に入っていただけたようだ。オレ、ネーミングセンス無いからドキドキだったんだよねえ。

 ファラーシャ嬢はホロウファイアボールと言う名が結構なお気に入りだったらしく、「ホロウファイアボール!」と叫びながら、崖に向かって何度もホロウファイアボールを放っていた。

 さて、ファラーシャ嬢の方は一段落着いたが、マヤの方はどうかな?



「おお、結構デカくなってる」


 マヤが見せてくれたのは、縦横ともに5メートルはあろうかという鬼面の大盾だ。


「どう?」

「ふむ、大盾自体が大きくなってるってことは、エフェクトを使ったのか?」

「ええ。私の中の大きくなるイメージってこっちの方が近かったのよね」


 ちょっと意外だ。マヤは重量軽減のデバフが使えるから、マテリアルの方を選択すると思ってたんだが、大きくするイメージが沸きやすい方を選んだか。余程ホワイトナイトに影響受けてるんだな。


「じゃあ強度的にはバフを使うのか?」

「ええ。今、大きさと強度がどのくらいまでなら両立するか試してるところ」


 ふむ、まあいいんじゃなかろうか。今後塩害対策で子爵周辺がどうなるか分からないからな、戦力が強化されるのは良いことだ。


「あれ? リンどっか行くの?」

「散歩だよ。どっちも一段落着いたみたいだからな。息抜きに散歩してくる」


 マヤにそう告げると、オレは西の山野に分け入って歩いていった。



「出てこいよ」


 教会からしばらく行った所でオレがそう発すると、木陰から一人の男が出てくる。モーニングなんていう山野に相応しくないカチッとした格好。年の頃は二十代か?


「おや? 気付いていましたか?」

「まあな。オレたちを見張ってた、ってことは、あんたらサヴァ子爵派でいいのか、な!」


 とオレは小鬼の小手に仕込まれた刃を出して、後ろを斬りつける。そこにいきなり人が現れオレの刃から飛び退いた。


「おっとと、あぶねえ。シャーク、オレの擬態そんなにバレバレだったか?」


 後ろに飛び退いた迷彩服を着た禿頭の男は、オレの攻撃など無かったかのように、シャークと呼ばれたモーニングの青年に話し掛ける。


「いいえタコ野郎さん。私からはどこにいるのか分かりませんでしたよ」


 ずいぶんとアホな名前付けてんな。プレイヤーかこいつら?


「だよなあ。おい、あんた、何で分かったんだ?」


 オレにも普通に話し掛けてくるんだな?


「光学迷彩が、本来は熱光学迷彩だって知ってるか?」

「おいおい、熱が感知できるとか、蛇かよ?」


 確かに蛇にはピット器官という熱を感知できる器官があるが、別にそれを魔法で造り出した訳じゃない。人間の皮膚にも、温覚、冷覚という温度を感じる感覚器があるのだ。オレはそれをバフで強化してるだけだ。だから見えないホロウファイアボールも、オレには感じとることができる。


「オレも聞いて言いか?」


 モーニングと禿頭に挟まれながら、オレは尋ねる。


「何ですか?」


 応えたのはシャークと呼ばれたモーニングの男。


「あんたらプレイヤーだろ? そっちに付いたら、アカウント停止もあり得るんじゃないのか?」


 とオレの疑問に、二人の男が可笑しさを堪えきれないかのように笑いだす。


「何が可笑しい?」

「いえ、まだお子様には分からないかも知れませんが、ゲームだからこそ、こういったギリギリのプレイで攻めるのが面白いんですよ。まあ、人工宝石を造っている彼らは、捕まればアウトでしょうけど」


 う〜ん、厄介だな。享楽的なくせに、どこか理性的だ。


「ま、楽しくやろうぜ少年!」


 言って両手に持ったナイフで斬りかかってくるタコ野郎。それを小手の刃で受け止めるが、うう、名前が気になって戦闘に集中できない。そこに、


「パアーーーーッ!」


 響くラッパの音色。シャークの後ろから響くブルースの音色に皆の意識が向いた瞬間、マーチが人形でタコ野郎に斬りかかる。が、マーチの短剣は何かによって弾かれてしまった。

 軌道からその方向を見ると、遠くで誰かがサッと木陰に隠れるのが一瞬見えた。狙撃手か。


「ふふ。今日はこれぐらいにしましょう。では、サヴァ子爵の屋敷でお待ちしております」

「逃がすとでも?」


 オレがそう応えるのと同時に、教会の方でドーンッと爆音が轟いた。

 オレたちがそれに気をとられた瞬間、猛スピードで走り去っていく二人。


「くっ」


 追い掛ければ追い付けるかも知れないが、今は教会が気になる。追跡を諦めオレたちは教会に向かった。



「大丈夫か!?」


 山野から駆け戻ると、地面に焦げ跡こそついているものの、マヤ、ファラーシャ嬢、アジィ修道士、三人とも無傷だった。


「私たちは大丈夫。でも敵を取り逃がしたわ」

「こっちも同じだ」

「そう」


 どうやらマヤも山野の方の気配には気付いていたようだ。



「そっちでも宣戦布告をしてきたのね?」


 そっちもってことは、マヤたちの方もオレたちと状況は同じか。

 その後教会に入り互いの状況報告をした。マヤたちの方には爆弾使いともう一人現れたらしい。


「どうするの?」


 マヤの問い。全員の視線がオレに集まる。


「決まってる。ここにいてもまたサヴァ子爵の刺客に包囲されるだけだ。こちらから仕掛ける」


 オレの答えにアジィ修道士以外が頷く。そこに馬の駆け寄る音が聴こえてきた。全員が構えるが、扉から入ってきたのは血塗れのブリー青年だった。


「どうしました!?」


 慌てて駆け寄るアジィ修道士。オレたちもそれに続く。


「父が新たに雇い入れた冒険者に……お前はこれで用済みだ……と……」


 そう言ってアジィ修道士に手を伸ばすブリー青年。アジィ修道士がその伸ばされた手をしっかり握り返す。そこでブリー青年は気絶してしまった。


「リン……!」


 皆の視線がオレに集まる。分かってる、これは生き餌だ。こうしてブリー青年をオレたちの所まで来させ、義憤に駆られて正常な判断ができなくなったオレたちを、楽に倒す作戦なのだろう。でも、しかし、だからって、


「行くぞ!」


 オレの言葉に皆が頷く。

 やって良いことと悪いことがあるだろ!

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