ファイアボール
「落ち着かない」
「です」
は?
「それを聞いてオレにどうしろと?」
ブリー青年に塩害対策を教えてから三日が経った。その間アジィ修道士の元でお世話になっていたのだが、無為な日々に飽きたのだろう、マヤとファラーシャ嬢がオレに談判してきた。
「魔法を思いっきりブッ放したい」
「止めてください、迷惑です」
「盾を大きくしたい」
「言ってる意味が分からん」
いくら人里から離れているとはいえ、ここで爆音轟かせたら、誰かしらここに見にくるかも知れない。そんなことやらせられない。
盾を大きくと言われてもな。マヤの盾は大盾で、人が隠れる程大きいのだ。それ以上大きい盾だと取り回しに問題が出そうなんだが。
「ホワイトナイトみたいに、盾を大きくしたり小さくしたりしたいの」
そういうことか。映画「ホワイトナイト」の主役ヴィクトリアは盾使いだ。その盾は魔法の盾で、魔力次第で大きくなったり小さくなったり変形したり、とかなりご都合主義が透けて見える。
ホワイトナイトに憧れてこのゲームでロールプレイをしているマヤには、盾を思うように変形させるというのは、一つの目標なのかもしれない。
「マヤの意見を取り入れて願いを叶えるとしたら、今取り得る方法は二つだな」
「おお。三つ目は?」
「ホントにホワイトナイトみたいな盾を手に入れる」
「確かに現実的じゃないね」
マヤも三つ目の方法は諦めたみたいだ。どこかにあるかも知れないが、どこにもないかも知れない盾を探し回っている時間は、今のオレたちには無い。
「それで残る二つって?」
マヤが目を輝かせながら先を促す。
「基礎魔法のエフェクトか、マテリアルだ」
「おお」
「エフェクトの場合、盾が大きくなるように変形させる。イメージとしては、ゴムのように伸縮するようにイメージするのがいいだろう」
「ふむふむ」
「マテリアルの場合、それこそ物質生成だからな。盾の周りに物質をくっつけるイメージかな」
「なるほど。どっちがいいの?」
マヤが首を傾げて聞いてくる。
「どっちも一長一短だよ。エフェクトの場合、盾自体を薄く広く伸ばす訳だから、盾そのものが脆くなる。対してマテリアルの場合、物質を生成するんだから、その生成した物質の分だけ盾が重くなる」
「ふ~む」
オレの意見を聞いて、マヤは腕を組んで悩み始めてしまった。まあ、悩んでるうちに日が過ぎるだろ。
「私はどうすれば?」
ファラーシャ嬢の問題が残ってたな。
火の魔法というのは魔力をエフェクトで燃焼材に変質させ、酸素と化合させることで燃焼させる。その時、熱で酸素の体積が爆発的に大きくなるため爆音が起こる。
「今はこの爆音が問題な訳だが……」
「なぜオレを見る」
ブルースは不機嫌そうに返事をした。
「ブルースは音の専門家だろ?」
「いつから専門家になったんだ?」
「違うのか?」
「オレは音楽を習ったことがない。独学だ。スキルも感覚に頼ったもので、教えられるものじゃない」
感覚であれをやってたのか。天才肌だったんだなブルースは。
ブルースが当てにできないとは、当てが外れたな。
「う〜ん。音を吸収する魔法、創れないか……」
ファラーシャ嬢と二人腕を組む。
いや、待て。音は音子が伝えるものだ。ということは、音子にバフを掛ければ、
「わっ!!!」
うわっ! 思った以上に響くな。自分で声出しといて耳がキーンとなった。うん。みんなの視線が痛いな。ごめんなさい。
次に音子にデバフを掛けてみる。
(わっ!!!)
おお! 全然響かん! これは使えるな!
「ファラーシャ嬢、 今のを覚えてくれ。これは使えると思う」
がファラーシャ嬢は困惑の表情を浮かべる。
「今の、と言われましても、大きい声と小さい声を出されただけですよね?」
ああ、自分の中だけで完結してた。ごめんなさい。
オレはファラーシャ嬢に音子の説明をする。
「ファイアボール!」
海に向かって撃ち出されたファイアボール。しかしてその火の玉は、まるで音を出さずに直進し、しかるべき場所で静かに弾けた。無音のファイアボールの完成である。
「「おお〜!」」
オレはファラーシャ嬢と固く握手をする。
はっきり言ってこれだけでは隠し芸みたいなものだが、次がある。
「次は無色のファイアボールですね」
「ええ!」
これが成功すれば、見えず聞こえぬ無色無音のファイアボールの完成である。
ちなみにマヤはまだ悩んでいる。





