決勝戦
「ハア、ハア、ハア……」
「ずいぶん長いトイレタイムだったわね」
決勝の舞台でマヤは待ちぼうけていた。いや、マヤだけじゃない。オレが舞台に駆け込むと、会場中からワッと歓声が上がる。確かにこれは、中止になったら暴動が起きるな。
「ハァーーーーー、あの係員にスゲエ遠いトイレまで連れて行かれたんだよ」
「遠いってどこまでよ?」
「街の北出口」
完全に嘘つきを見る目になってる。まぁいいけどね。信じてもらえるとは思ってなかったから。
などとマヤと会話を交わしているうちに、決勝戦開始の銅鑼が鳴らされた。
直後、マヤが何かをオレに投げてくる。攻撃の手斧じゃない。
オレがまだ動く左手でそれをキャッチすると、それは赤狼牙のナイフだった。
「使って良いわよ」
そういえばマヤも赤狼牙のナイフ持ってたんだっけ。
「何のつもりだ?」
「できれば万全のリンと闘いたかったけど」
と言いながらオレの右手に視線を向ける。
なるほど、つまりこれはあれか、同情ってやつか。右手使えない上に武器まで失ったオレじゃ、決勝戦で相手するまでもない、と。
オレは無言で投げ返していた。
「何カッコつけてんのよ? 使いなさいよ」
また投げ返してくるマヤ。それをまた無言で投げ返すオレ。そんなやり取りが二度三度と繰り返された。
「要らねえって言ってんだろうが!」
「いいから使いなさいよ!」
「ハア!? そっちこそ何カッコつけてんだよ! あれか? 今から負けた時の言い訳作りか!?」
「ハア!? リンこそ何言ってんのよ!? 私がリンに負ける訳ないでしょ! 私はこの決勝が少しでもお客さんに楽しんでもらえたら、って思って渡してんのよ?」
「お客さんに楽しんでもらう〜? ハア、マヤも偉くなったもんだなぁ。観客にちょっとちやほやされるようになったからって、決勝をそんな上から目線で挑もうだなんて」
「そんなんじゃないって言ってるでしょ! もういいわよ! 使わないなら返しなさいよ!」
オレは赤狼牙のナイフをじっと見つめ、背後にポイッする。そして場外に落ちるナイフ。
「ハア!? 何してくれてんのよ!?」
マヤだけでなく会場中から起こるブーイングの嵐。が、知ったことじゃない。オレは不敵に笑顔をみせる。
「ああそう。そういうことするんだ? 秒で殺してやんよ!」
言って手斧を投げつけてくるマヤ。と同時に大盾に体を隠し突進してくる。手斧を避けても、大盾で確実に吹っ飛ばす作戦か。チッ、あんだけ煽ったんだからもう少し冷静さを失えよ!
心の中で愚痴を吐いたところで状況は好転しない。オレは投げつけられた手斧を左手でキャッチすると、宙返りでマヤの突進をかわし、俺の下を通り過ぎたマヤの後ろを取る。
そしてガラ空きの背中に向けて手斧で一撃を食らわす。がこれは180度反転したマヤの大盾によって防がれてしまった。
「結局、私の武器使うんじゃない」
「マヤこそ、なに冷静な試合運びしてくれてんだ。煽ったオレが、ただの悪者になっちゃっただろう」
「それはゴメン遊ばせ」
言ってマヤは追加の手斧で攻撃してくる。それをオレはバックステップでかわしながらポーチから大量の銅貨を吐き出し、マヤにぶつける。
当然これは大盾で防がれるが、大量の銅貨はマヤの視界を塞ぐ。その隙を突かせてもらう!
オレは手斧を空中に投げ上げ、左手に魔力を集中させる。はっきり言って今のオレに長期戦は無理だ。ここで決着をつける。左手を斥力ブレードに変え、大盾ごとマヤを横一文字にブッタ斬る。
だが、それはマヤに読まれていた。オレが斬ったのは大盾だけだった。大盾使いのマヤが、大盾を自身の身代わりに手放したのだ。マヤの両手にはそれぞれ手斧が握られている。
勝ちを確信したマヤの手斧がオレに迫る。それでもオレは笑顔のままだった。そこに微かな違和感を感じたのかもしれない。一瞬マヤの動きが止まる。
ザグッ!
そのマヤの左肩に、オレがさっき投げ上げた手斧が突き刺さる。
「うぐっ!?」
やったか!? と思ったが、マヤはそこで踏み留まった。オレの健闘もここまでだった。
そしてマヤは残る右手でオレの胴に一撃食らわせる。
次の瞬間にはオレは白い部屋におり、目の前にはgameoverの文字が浮かんでいた。





