全抜き
「今日の予選はナイフだけで通過して」
「え?」
武闘大会本大会当日、予選直前にマーチに思わぬ提案いや、指令を出された。
「今日の予選はナイフだけで通過して」
うん、聞き間違いじゃなかった。全く同じトーンで同じ言葉を繰り返された。
「どゆこと?」
どうやら決定らしいので、とりあえず理由だけを訊いておく。
「リンの戦闘強度を上げておきたい。礫弾にばかり頼った闘い方だと予選は通っても本選で苦戦することになる」
なるほど、本選に上がってくる強者はそのレベルですか。
「分かったよ」
オレは腰のポーチをマーチに渡す。これでオレが使える武器は赤狼牙のナイフだけになった。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
マーチに見送られてオレは舞台に上がった。
ちなみにマヤはオレたちと距離を取った場所で修練場の人と一緒におり、ブルースはフーガたちを見張っている。
オレが石畳の舞台に上がると、周りの観客や他プレイヤーがざわざわし始めた。どうやらそれなりの周知がなされてきたようだ。同じ舞台に上がったプレイヤーたちからもキツイ視線を向けられている。
う〜ん、何と言うかムズムズする。ポーチも持たないオレって、何か裸を見られているくらい恥ずかしい。
そんなオレの羞恥心なぞ知ったことか、と開始の銅鑼が鳴らされた。
だが今回は開始と同時に攻撃を仕掛けられることはなかった。二十人と人数が少なくなったことも関係しているのかもしれない。皆が一定の距離を取ってお互いを牽制している。
さて、どうしたものか? と思案をする時間ももったいないな。何せナイフを振るうしかやることがないんだから。
とりあえず、一番近くにいた長剣と丸盾を持った男に近付く。恐がられないように笑顔で。何故だろう? 向こうの顔がひきつっている。
大振りで長剣を振り上げた男の腕を切り落とし、その軌道のまま首をはね飛ばした。これで一人脱落、と。
次に近いのはあの青い髪の女性か。両手にナイフを持っている。スピード重視かな? これは攻撃に移られる前に潰さねば。とオレは一気に距離を詰め、その勢いのまま喉を一突きする。これで二人目。
さて次は魔法使いか。魔法の種類は分からないが、使われたら厄介だ。なので一度相手の眼前で左右にフェイントを入れて後ろを取り、心臓をザクッと。これで三人。
「「うおおおおおおっ!」」
と後ろからいきなり二人が斬りかかってきた。オレは振り返り様に両手斧使いの攻撃を避け、両手剣使いの喉を一閃。首を飛ばす。更にその遠心力を使って両手斧使いの頭骨をザクッ。これで五人。
「ああああああっ!」
次は炎使いか。両手に炎を持って突っ込んでくる。ゴブリンリーダーほどじゃないな。オレは半身になって攻撃を避け、その額に一撃加える。六人。
ビュンと飛んできた矢を回転して避ける。視線を飛んできた方に向けると、次矢をすでにつがえていた。距離がある上に間に四人。オレは弓使いの攻撃を右へ左へかわしながら間の四人の心臓、喉、頭、更に頭、と一撃与えて始末しながら弓使いに接近、まず厄介な弓を斬り壊し、返す刃で頭をザクリ。これで十一人。
ズウンッ!
凄音とともに電撃がオレ目掛けて地を走り迫ってくる。それを間一髪で避けると、横薙ぎの片手剣がオレの眼前にある。それをナイフで受けるが、膂力の差だろう、吹き飛ばされるオレ。何とか態勢を保ったものの、そこに槍を突きたてられる。跳ね、回転しそれを避け、槍を握り槍使いを引き寄せ、肩から心臓へズムッ。十二人目。
「ふう」
と一息吐いたところに、また電撃。避けると今度は水の鞭に足を取られる。
「うわぁ!?」
と片足立ちのところにまた片手剣が大上段から振り下ろされる。それをナイフで受ける。が態勢が悪い。それを回転することでいなし、片手剣使いの頭に蹴りをお見舞いする。相手も態勢を崩すが、そこで水鞭使いに引っ張られる。が、その勢いを利用して水鞭使いに接敵。蹴りをお見舞いし、更に勢いに乗って頭にナイフの一撃。これで十三人。
振り返ると電撃使いが電撃を出す瞬間だった。オレはナイフを投げて仕留めるが、電撃は止められず、避けたところにまたまた片手剣。オレは片手剣使いの手を握るとそいつをひねって剣を取り上げ、奪った剣で首をはねる。これで十五人。残り四人。
振り返るとそこに無手の男。魔法使いか格闘術の使い手か? 関係ない。やられる前にやる。オレは一直線に距離を詰めて男の喉に一撃与える。これで十六人。
残るはマヤと同じ大盾使いの男に女魔法使い、両手に片手剣を持った両刀使いの男。
オレは防御力は高いが攻撃力は低そうな大盾使いと魔法を行使するのにラグがある魔法使いを後回しにして、両刀使いに斬りかかる。両刀使いは左右の剣を器用に振るい、オレに攻撃してくるが、これならマーチの短剣の方が数倍速い。オレはザクリと両刀使いを袈裟懸けに斬り倒す。十七。
そこに何かが迫る気配を察知して避けるが、何も見えない。が石畳が切れている。かまいたちだ。来た方を見れば、女魔法使いが大盾使いの後ろに隠れている。共闘か。オレも普段はあんな感じで闘ってるんだろうなぁ。などと変な感傷を覚えつつ、歩きながら二人に近付いていく。剣を振れば届く距離。そこまでに何度かかまいたちの攻撃をされたが、オレの気配察知はかなり鋭敏に働いてくれていた。見えない刃も難なくかわせたのだから。
大盾使いを前にして、右へ左へ動いてみても、はたまたフェイントを入れても、大盾使いは隙を見せない。
(う〜ん、できるかな?)
オレは剣に込めるバフを最大にして大盾使いに振るう。さすれば鋼の大盾ごとその大盾使いは一刀両断されて消えた。十八人。
「ギブアップ!」
かまいたち使いの女が一瞬早く音を上げた。オレの突きは女の心臓手間で何とか踏み留まった。
「フゥー」
全部が終わりオレが息を吐くと、
「そ、そこまで!」
試合終了の合図が告げられた。
「ああ~、何とかなった」
赤狼牙のナイフを回収し、マーチのところへ戻ると、道中観客やプレイヤーが避けてくれる。ありがたいことだ。
「リン、まだまだね」
マーチの採点は厳しかった。オレは頑張ったと思うんだけどなぁ。





