夕餉
オレたちが常宿として使用させてもらっている宿屋は、ランクで言えば中の上と言ったところで、一階が湖に突き出したテラスになっていて、そこで食事が摂れる。
そこでオレたち四人は卓を囲み、ガツガツバクバクと遅めの夕餉を食べていた。
「ねぇ」
「何?」
「誰?」
「オレたちの新しい仲間だ」
「へぇ…………って、聞いてないんだけど!?」
「今言ったろ?」
「事後報告!?」
マヤは席を立ち上がり、ズイッと顔を寄せて凄んでくるが、オレたち三人の食事の手は止まらない。
「はぁ、まあいいけどさ。二人でやっていくのがキビしかったのは事実だし。せめて何者なのか紹介ぐらいしてくれない?」
マヤはどっかと椅子に座り直し、まるで何日も食事をしていなかったかのように食べ進める二人を見遣る。
髪を真ん中分けにした二人は、右側が金髪で左側が黒髪という中々エキセントリックな髪色をしているが、地毛だそうだ。顔は二人とも美形でそういった意味では逆にオレだけが四人の中で浮いている。服装は大道芸人らしくピエロのようである。
「そうだな。まず男の方が兄でブルース」
オレに紹介されて一応会釈だけするが、食べる手を止めないブルース。
「で、もう片方の女の子の方が妹のマーチ」
マーチの方は、会釈どころかマヤに目も合わせず食事まっしぐらだ。
「二人は暗殺者だ」
「ブーーッ!?」
いきなり飲んでいた果汁100%のジュースを吹き出すマヤ。
「汚いな」
「いや、そりゃ吹き出すでしょ!? な? え? 何で暗殺者と?」
「オレが暗殺されかけたからだが」
「はあ!?」
さっきからうるさいな。
「事情説明を要求します!」
はぁ。オレは事の経緯をマヤに説明した。
「な、なるほど。理解はできないけど納得はしたわ。あの大量の胡椒はそういう意味があったのね。しっかし、自分を殺そうとした人間を仲間に加えるとか、何考えてるの?」
マヤの瞳がギラリと光る。
「まあ、この先の冒険を考えて仲間が欲しかったってのもあるけど、それだけじゃない」
「でしょうね」
「マーチはさ、人形が操れるんだ」
「人形?」
マヤがマーチの背の後ろに視線を伸ばす。そこにはデカいギターケースのようなものがある。人形はそこに入っているのだ。
「なるほど、人形と合わせて五人になる訳か。お得ね」
「いや、オレが考えているのはちょっと違う」
「違うの?」
首を傾げるマヤ。それも考えてあるが、オレが考えていたのはもっと根本的な問題の解決だ。
「大道芸でマーチがまるで本当の人間のように人形を操っていたのを見てさ、オレ思ったんだよ。マーチに「オレ」を操ってもらったら、オレでも格闘術を使えるようになるんじゃないかって」
「はあ?」
「ほら、オレってどの修練場からも閉め出し食らってるだろ? でもマーチに無理矢理でも身体の使い方を叩き込んでもらえば、オレでも少しはマシになるんじゃないかって、ね?」
少し荒唐無稽過ぎただろうか?
「できないかな?」
マーチに尋ねると、マーチはやっと食事の手を止めてオレの方を向いてくれた。
「人間を操ることはできる。でもだからって格闘術ができるようになるかは分からない」
可能性が無い訳じゃない、か。それだけで十分だ。
「マヤの方はまだ修練場での修行続くんだろ?」
この質問に顔をしかめることで応えるマヤ。相当しぼられているようだ。
「じゃあ、マヤの修行が終わるまでオレはマーチの特訓を受けてるよ」
「それはそっちで勝手にすればいいけどさ、それより、どうするの? アレ」
アレ、というのは胡椒のことだろう。
「それについても考えてある。さしあたってブルースにマーチ、二人には小袋を作ってもらいたい」
首を傾げる三人だった。





