08.断罪される元婚約者
それはクラウスにとって青天の霹靂であった。王族ではない、それは王位継承権を剥奪され、一族から追放されることを意味する。
あまりのことにクラウスは呆けた顔をする。
間抜けな顔をさらしているクラウスを見て、先ほど似たようなことを告げたのに、と呆れつつフランチェスカはアーサーから一枚の紙を受け取ると、それをクラウスに突きつけた。
「わたくしの寝言ではなく王命です。この紙に王命が書かれていますが……端的に申しますとクラウス様は王位継承権を消失、その上で王族からの追放処分となります。それだけではなく国外追放処分も合わせて書かれています。おわかりいただけましたか? 貴方様は既に平民なのです。勿論レティ様も平民に降格ですので御安心ください」
「そんなっ!」
「馬鹿な!! ありえぬ!」
「驚かれるとは心外です。王たり得ない者は追放される、古今東西何処でも起きたことです。別に珍しくもないでしょう?」
クラウスとレティの悲鳴にフランチェスカは淡々と答える。そろそろ耳障りなレティを黙らせたいな、と思い始めているとアーサーが横から口を出してきた。
「誤解なく言っておくと、愚弟の王位継承権消失は半年前に決定していたのだよ。それも王族だけでなく議会も満場一致でね。それが半年も後に回されたのは、フラニーちゃんが周囲を説得して、愚弟にやり直す機会を与えたからだよ。結果はまぁ御覧の通り、フラニーちゃんの努力は無意味だったけどね」
「……」
「王太子ではなくなるだけと思っていた? 馬鹿だね、君がしてきたことを考えれば断頭台が一番だよ。いろいろとあるけど、国庫を使ってその尻軽女に貢いだのが一番だね」
「あれはっ!」
「未来の王妃だから問題ない? 愚弟は何処まで馬鹿なのかな。国庫を国のため以外に使うのは横領だ。それは王族であろうと罪に問われる。いや、王族だからこそ他より厳しく見られる」
「ッ! ではフランチェスカはどうなのです! あいつだって王族ではない! なのにあいつのドレスや装飾代は父や母が出していた!! あれも国庫から出ていたのだろう!」
「ん? ああ、アレね。なんだい愚弟、その程度も知らなかったのかい。フラニーちゃんは公式行事に必要なドレスや装飾品は、全部自分で払っていたよ。だけどそれを聞いた父や母が『自分たちが払う』と言い出したんだよ。で、結局フラニーちゃんが根負けして、以降は父や母が買い与えていたんだよ。境界線が分かりにくいけど、父や母は王家の資産で買い与えていて、国庫には手を出していない」
「……」
「そして父や母がフラニーちゃんへドレスや装飾品を買い与えているのは議会も認識しているし反対もしていない。むしろ彼女の功績を考えれば国庫から支払っても良いとさえ言っている。だけどね、フラニーちゃんは一度として自分からねだったことはないんだよ。愚弟の大好きな尻軽女のように、茶会のたびにドレスが欲しいなんて浅ましい真似もしてないからね。母がもっと我がまま言っても良いのに、と結構鬱陶し……コホン、愚痴を口にしていたね」