05.真打ちは後から登場する
「アーサー……兄上……?」
「やぁ愚弟、随分と面白い格好をしているね。いつから君は床を舐めて綺麗にする趣味に目覚めたのだ?」
組み伏せられたクラウスを見て、アーサーと呼ばれた男は楽しそうに尋ねる。
「アーサー様、いえ、王太子殿下。床は職人が丹念に磨いているのです。クラウス様が舐めたら綺麗になる所か汚れます」
「真面目に返されると、どう返事して良いか困るのでやめてね? あ、でもスルーされるのも悲しいからね」
「……貴方は第一王子であり、王太子になられたのですから、もう少し真面目な態度をしてください」
「そこはフラニーちゃんにお任せする。それにボクは不真面目な優男と思われているから、今更真面目になっても誰も信じてくれないよ」
にこにこ笑顔で語るアーサーに対して、何人かの貴族が心の中で「優男ではなく魔王では?」と突っ込みを入れる。
勿論、口に出して突っ込まない。突っ込めばその後、どんな恐ろしい目に遭うか分からない。
「一応、真面目な態度をしようと思ったんだよ? でも、クロンから『貴様、アーサーの偽物だな!!』と殺されそうになったよ、はっはっはっ」
「兄上!!」
「ごめんごめん、話が盛り上がっちゃったね。ところで愚弟、今の君って芋虫みたいで……プチッと潰しがいがありそうだね」
アーサーの言葉にクラウスの顔色が青くなる。
冗談のような台詞で人を挽肉にすることぐらい朝飯前のアーサーから、潰しがいがあると言われれば身の危険の感じるなという方が無理がある。
「王太子殿下、まずは先に謝罪をさせてください。折角御協力いただけたのに、とてもつまらない茶番しか御覧に入れられませんでした」
「いいよいいよ。幾らフラニーちゃんが優秀でも、相手が愚弟だしね。最初の婚約破棄で流れが見えちゃって、予想外のことなんて起きないと察しちゃったよ」
「協力……? なぜ? 兄上はフランチェスカを嫌っているはずではないのか?」
「おいおい愚弟、勘違いしちゃ駄目だぞ。フラニーちゃんはフォーリーやゼッタ、そしてあのクロンですら『あの子は化け物だ』と評価した子だよ? 嫌いになるわけないじゃないか」
「……淑女に対して、その評価はどうかと思いますが」
「ボクらなりに褒めているんだけどね。ま、そろそろ続きお願いね、フラニーちゃん」




