03.茶番に付き合うのは疲れます
「もう……もうおやめください、フランチェスカ様!! これ以上、罪を重ねるのは御自身のためになりません!」
今までクラウスや彼の側近候補に隠れていたレティが前に躍り出ると、フランチェスカの目を見据えて悲痛な声を上げた。
全身をふるわせ、それでも勇気を出して前に出たレティをクラウスたちは慈愛の目で見る。
フランチェスカを慕う令嬢たちはレティの言葉に眉をひそめるが、当の本人であるフランチェスカは死んだ魚のような目をしていた。
(茶番だわ)
クラウスたちは騙されているが、フランチェスカはレティの目に自分への憎悪が宿っているのを見抜いた。
そして彼女は勇気を振り絞って訴えたのではなく、このタイミングで叫べば、フランチェスカの立場がより悪くなると計算した上での行動だと理解した。
だからこそフランチェスカは内心盛大なため息を吐いた。
「レティ様、クラウス様、そして他の方にもうかがいます。わたくしがレティ様を苛めていた証拠はございますの?」
至極当然の話だが、貴族を処罰するには裁判を行わなければならない。そして力のある貴族であろうと、裁判に家の力を持ち込むことができない。
それは貴族を処罰できるのが『国王の特権』だからだ。ゆえにフランチェスカが第一王子陣営と権力闘争をしても不敬罪にならなかった。
勿論、フランチェスカが第一王子から訴えられないよう細心の注意を払っていたのもあるが。
「そんなものは必要ない。レティが確かな証言をしている。それだけで貴様の罪は明らかだ」
証拠と尋ねてフランチェスカは後がない、と思ったのか、ここに来てクラウスが余裕の笑みを浮かべる。見えないように注意しているが、レティも笑みを浮かべていた。
それは可憐とはほど遠い、悪意の籠もった笑みだった。レティはフランチェスカにだけ見えるよう注意しながらも、ニヤニヤと侮辱の表情を向けていた。
(楽しいのでしょうね。自分の策が成功し、わたくしが転げ落ちてく様を見て、胸がスカッとしているのでしょう)
フランチェスカが嫌いなのか、上の人間が落ちていく様を見るのが好きなのか、理由は不明だ。知ろうとも思わないが。
「どうか罪をお認めください、フランチェスカ様」
先ほどの見下した表情を引っ込め、涙を浮かべながらレティはフランチェスカに手を差し伸べる。
(わたくしが手を取れば自分に屈したと言える。反対に突っぱねれば慈悲をはね除けたと更に悪者扱いができる。なるほど、小娘にしてはそこそこ頭が回りますね。庶民にはこのような駆け引きの場もあるのでしょうか。王宮だけ見ていても視野が狭くなりそうですね。もっと見識を深めなければなりません)
クラウスやレティを無視してフランチェスカは自分の見識不足を自覚する。
フランチェスカはクラウスやレティが夜会でどの様な言動をするか、おおよその流れを把握していた。
細かい部分では違いがあるものの、大筋は予定通りだ。それゆえフランチェスカは彼らに対して冷静に反論した。
それを理解したかは不明だが、レティは唐突に会話の主導権を握ってアドリブ対応をしてきた。
劇場型はインパクトがあり、冷静に考えたら穴だらけの理論でも説得力が出る。
失敗すれば己の立場がより悪くなるリスクはあるものの、主導権を握っているから不測の事態にも対応できるメリットがある。
(計画にない事を、その場で考えて実行にうつす。リスクを考えれば普通は実行しない。なのに彼女は実行し、わたくしの印象をより悪くした。中々の胆力と行動力です。ですが……その程度でわたくしを追い詰めたと思うのは早計です)
レティの思惑は成功か失敗かで言えば失敗と言えるが、リスクを恐れず実行した行動力にフランチェスカは感心した。
だがフランチェスカは勘違いしている。レティはリスクを恐れなかったのではない。リスクがある事すら頭の中になかっただけだ。
これは自身が直接手を下す事はなく、裏で暗躍するタイプのフランチェスカだから起きた勘違いだった。
自分を全く見ていないことに気付いたのか、レティが若干苛ついた表情をする。
ギリギリボロが出なかったので周囲は気付かなかったが。
考えが纏まったフランチェスカは居住まいを正すとにこりと微笑む。王宮勤めの貴族たちはフランチェスカの笑みを見て「あの女と第三王子は終わった」と悟った。
「まずはレティ様に感謝を述べます。わたくしは第一王子との件で慢心していたようです。世の中は広い、時には自分が想像もしなかったことが起こると学べました。ありがとうございます」
「え? あ、はい」
突然の感謝にレティが呆けた顔で返事をする。フランチェスカはさして気にせず言葉を続けた。
「しかしながら、そろそろこの茶番も終わりにしましょう」
「……は?」