13.生半可な言動は身を滅ぼす
挑発するような口調でレティはニヤニヤと笑う。彼女の言葉を聞いていた貴族の何人かは顔をしかめたが、フランチェスカは小さな違和感を抱いていた。
(変ですね。彼女からは余裕が見受けられます。クラウス様の他にも仲間が? いえ、アーサー王太子殿下とグデーリアン公爵家を敵に回してまで、彼女を救うメリットはありません。わたくしが敵側なら、失敗して使い道を失った彼女を助けるのは無駄と見捨てます。むしろ余計なことを喋る前に消します)
何処から余裕が出てくるのか考えていると、アーサーが音も立てずフランチェスカの背後に立ち、彼女に聞こえるだけの声量で呟く。
「自分の親が助けてくれると思っているんじゃない。保釈金を積めば留置所から出られるしさ。ま、彼女の場合はゼンケル伯爵家が傾くほどの保釈金になるだろうがね」
「そもそもゼンケル伯爵家当主様が出すと言っても、周囲が絶対に反対しますわよ。騙されたのではなく、自らの意思で国を売ったのですからね」
アーサーの指摘に納得しかけたが、すぐに有り得ないことだと結論づける。レティは国家反逆罪に問われる人間だ。たとえ保釈金を確保しても、釈放したいと思う人間はいない。
ゼンケル伯爵家当主が何を言っても、周囲の人間は頷かない。下手をすれば現ゼンケル伯爵家当主は家を破滅に導く危険な存在、として当主の座から引きずり下ろされる。
一体、何を根拠にレティは余裕を保てているのか、フランチェスカはレティの一挙一動を注意深く見る。
「さ、早く牢屋に入れてくれないかしら。あんたの説教なんて聞きたくないものね」
二人の冷たい視線を受けてもなお、レティは挑発的な口調をやめない。彼女は何かを企んでいる、と察したフランチェスカは素早く彼女の目的を推測する。
「そうですね。これ以上は場に相応しくありません」
「だからさっさとしろーー」
「ですので、続きは黒の塔で行いましょう」
黒の塔という単語が出た瞬間、レティが目を見開く。その様子にフランチェスカは自身の推測が間違っていなかったことを察する。
レティの様子を不思議に思ったアーサーだが、すぐにフランチェスカが何を仕掛けたか知る。悔しいほどに優秀だとフランチェスカは内心舌を巻いた。
「そうだね。君はラムダ帝国のスパイさんだし、『お友達』も多そうだから黒の塔が一番だね」
「あっ……な……な、ぜ」
「おや、どうしたの? 黒の塔は高貴な身分の人が幽閉される場所だよ?」
レティが驚く理由が心底分からない、という態度でアーサーはとぼける。
黒の塔に入るのは国家に対して重大な犯罪を行った者のみだが、拘束される部屋は常に清潔に保たれ、食事は過不足なく提供される。
そして黒の塔に入れるのは王族か公爵家のみである。伯爵家が入ることはまずない。
ただ例外として『王族が認めた者のみ、身分に問わず幽閉することが可能である』という暗黙の了解がある。
正確に言えばフランチェスカは公爵家の令嬢で王族ではない。だがアーサーが認めたことにより、レティを黒の塔へ幽閉することが可能となった。
(恐らく一般の刑務所に入れると、ラムダ帝国が『かの者は我が国で裁く』とでも難癖を付けて犯人引き渡しを要求してくる話になっているのでしょうね)
愚かな子、とフランチェスカは思った。フランチェスカとアーサーを挑発してわざと怒りを買い、劣悪な刑務所へ入れさせる言質を得ようとしたのだろうが、それが逆に二人の警戒心を高める結果となった。
(何も語らないで大人しく従っていれば一般刑務所へ行けましたよ。貴女にそれを教える義務も義理もないから黙っていますけどね。後、レティ様はラムダ帝国に行けば生きられる可能性があると思っていますが、勘違いも甚だしいです。用済みになったスパイの末路は一つです)
「じゃあその子もよろしくね」
アーサーの言葉は断罪の終了の合図。つまりレティはこれから黒の塔へ幽閉されることが確定した。そのことにレティは激しく動揺し、訳の分からないことを口走る。
だが、今や化けの皮がはがれ、さらには敵国のスパイと判明したレティの言葉に耳を傾ける者はいなかった。
「さようなら、レティ様」
扉が閉められる直前、フランチェスカは最上の礼儀をもってレティに別れの挨拶を述べた。
本話で本編完結です。次話はアフターストーリーになります。




