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狩り 其の一 喰う者、狩る者(前編)

 俺は桜の綺麗な少し大きめの公園に居た。

 別に観光しにきたのではない。目的は狩りだ。

 目の前には少しグロテスクな化け物がいた。毛むくじゃらで黒色の身体に盛り上がった筋肉が特徴的だ。

 化け物の周りには食い散らかされた人だった物が散乱していた。

 中には内臓が飛び出していたり、脳みそが潰れた人もいる。

 俺は強い怒りを感じた。また、犠牲者を増やしてしまった。俺は弱いままだ......だが、同時に命が危険なこの状況を楽しむ自分が居た。


 俺は懐から少し大きめで厚みのあるビーカー型のバッジを取り出すと、腕に着けた。

 すぐにバッジからベルトが射出され、腕に固定される。

 おっといけない。大事な物を忘れていた。

 懐から注射器を取り出すと、先端のキャップを口に咥えて乱暴に外す。

 続いて注射器をビーカーの入り口に当たる部分に差し込む。

「エフェクト」

 腕輪となったバッジから機械音声が鳴り響く。

「注入!!」

 叫ぶと同時に注射器を押し込む。それに連動して腕輪から針が飛び出して肌に刺さる。


 少しの痛みの後に全身が熱くなってきた。

肉体が薬品によって変異していく、その過程を楽しむ。少しだけ口角が上がるのがわかった。

 筋肉は大きく増幅し、通常時の何倍もの力を出せるようになる。

 数秒で変異は体表まで到達した。細胞が硬くなり、鎧となる。


 金属のような冷たさを感じる銀色の皮膚に燃えるような赤色の目、そして内臓を保護するための胸元に存在する黒色の鎧。

「エフェクト、狩り開始」

 確認するかのようにそう呟く。

 これこそが俺......朝倉刃の正体、エフェクトだ。

 存在理由は目の前にいる化け物、イーターを狩ること。


 興奮状態のイーターが突っ込んでくる。そのまま右腕を振り上げて落とそうとしている。

 俺は左手を上げて振り下ろされるのを待った。

 すぐに腕が振り下ろされた。体に当たる前に左手で掴むとそのまま地面を蹴った。

 左手を軸にして右足で蹴りを叩き込んだ。 

それと同時に手を離す。

 衝撃でイーターが吹っ飛んだ。だが終わらせる気は無い。


 ビーカーを45度回転させる。

「エフェクトワン」

 機械音声が鳴り響き、両腕の形状が変化する。

 分子レベルでより鋭利な金属に変化する。

 手に備え付けられた剣、と言ったところか。

 起き上がろうとするイーターを狙って右手で斬りつける。手は相手の左肩に命中した。

 だがあまり深い傷にはならなかったようだ。手応えが浅い。


 もう一度斬りつけようとした時、腹部に鈍い痛みが走った。

 直後に体が宙を舞う。

 この飛び方はパンチの威力じゃない、蹴られたか?

 背中から地面に激突する。少しフラつきながら立ち上がると、イーターが毛を硬くして飛ばしてきた。

 素早くビーカーをさらに45度回転させて両腕を手の甲を見せるように前に構える

「エフェクトツー」

 機械音声と同時に腕が変形を始めた。

 すぐに腕が頑丈な盾になる。

 盾となった腕には神経が通っていない。完全なシールドとして効果を発揮する。

 だが......これではキリがないな。反撃したいが、一人では無理だ。

 そう、俺一人だったらな。


 遠くからバイクの音が聞こえてきた。

 やっと来たか。

「注入!!ファクター!!」

 声が聞こえると同時に横からバイクが飛び出して来て、イーターに衝突する。

 その直前、操縦者が飛び降りて俺の横に立った。

 俺とは対照的に鈍くて黒い体、冷たさを感じる青い目と銀色のアーマー。

 腕には同じくビーカー型の腕輪と差し込まれた注射器がある。相棒のファクター......相葉ヒカルだ。


「遅いぞ、ヒカル」

「すまん、抜け出すのに苦労した」

 ヒカル、と俺が呼んだ人物は答えた。

「そうか。終わったら戻るのか?」

 軽く会話を試みる。これは無駄話ではなく、息を合わせるためのいつもの行動だ。

「いや、今日はもうふける」

 冷たい声で答えが返ってくる。

「そうか、不良だな」

 軽くジョークを投げた。

「お前こそ単位ヤバイんじゃないのか?人の事言えんぞ。サボリ魔さん」

 返答が返って来た。

「トゲを感じる言い方だな。どうせ俺はもう留年確定だ......行けるか?」

「聞くまでもない質問をするな」

 絶好調のようだ。


 イーターが起き上がり突っ込んで来た。

 ヒカルがビーカーを回転させる。

「ファクターワン」

 機械音声と同時にヒカルの手に小型の拳銃が握られる。それを見てから俺もビーカーを45度戻す。

「エフェクトワン」

 変形する右腕を大きく振り下ろし、イーターに命中させる。と同時に腕の変形が完了した。

 今度は深く斬り裂けたようで、イーターの肩から血が流れ出した。

 よろけるイーターにヒカルが銃撃を浴びせる。

 イーターが苦しいそうな呻き声を上げる。

 チャンスだ。

「トドメ、行くぞ」

 ヒカルが腕輪から注射器を引き抜き、銃の後ろに空いた穴に差し込みながら言った。

「よっしゃ、行くぜ!!」

 高揚する感情を確かめながら注射器の中身を再び流し込んだ。

「ファクターライトニングシュート」

「エフェクトバーストアタック」

 機械音声が同時に鳴り響く、それと同時に足に強いエネルギーが溜まっていくのを感じた。

 ヒカルの銃から一筋の光が放たれ、イーターに直撃する。と同時に走り出し、体を左にひねりながら大きく跳躍する。

 そのまま右足で腰に強烈な蹴りを食らわせる。

 蹴りと同時に叩き込まれたエネルギーが相手の体を腰を中心として上下に分割させた。その結果周りに鮮血が吹き出して、イーターだった物の内臓が周りに飛び散った。

 血が大量に掛かる嫌な感触を背中に感じる。

 いつになっても慣れないものだ。


 そのまま腕輪から注射器を引き抜くと、ヒカルに向かって拳を差し出した。

 ヒカルも無言で拳を差し出し、ぶつけて来た。

 そのまま親指を上げてもう一度ぶつけあう。

 次は逆に親指を下げてぶつけあった。最後に上下でぶつけ合うと、イーターの死骸に向き直る。

その死骸を見つめ、俺は過去を思い出していた。この戦いが始まったあの日......復讐を誓った運命の日を......

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