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耳と魔石

無双は次回です。

 

「さて、登録も終わったし依頼を見てみようか」

「そうだね、お金も稼がないとだしね」


 ルリを連れて掲示板に向かう。今はテンプレ待ちだがお金がないのも事実。稼がないと今夜寝る場所も確保できないのだ。


「なんかぱっと見だと素材調達の依頼が多いね」

「迷宮に出現する魔物のものがほとんどだが、街の外にしかない薬草や特殊な魔物の討伐なんかもあるみたいだぞ」


 《Fランクで受けられる依頼をいくつか見繕いました。》


 無造作に貼られた沢山の依頼書を一つずつ確認していると適当なのを天が選んでくれたようだ。時短になるしありがたい。


 《アキュア草の採取。10本1束100オン。こちらは街の外での採取ですね。


 アポイズ草の採取。10本1束200オン。こちらも街の外です。


 ゴブリンの討伐。左耳1つにつき30オン。迷宮にも街の外にもいますね。


 Fランクだとこの程度しかお金になるものはございませんね。》


 アキュア草は回復ポーションに、アポイズ草は解毒ポーションになるそうでここ最近需要が増えているそうな。

 あとオンっていうのはお金の単位で、1オンは1円換算でいいらしい。


 そっかー、ゴブリンも売れるのか。

 いや待てよ?俺って《無限収納》に素材をだいぶ溜め込んでるよな?


 《はい。普通のゴブリンだけでも8319匹います。》


 多い。でも単純計算で25万近く手に入ることになるな。


 《しかしマスターはヘッドショットと称して頭を吹き飛ばしていたので左耳の数だけで換算すると、33840オンにしかなりません。》


 過去の自分!なんてことをしてくれたんだ!

 仕方ない。騒ぎにならない程度に出してくれるか?


 《かしこまりました。

 750オン分となる25個の左耳を用意しました。もう一つ、ホブゴブリンの討伐証明となる魔石も体内から取り出しておいたのでもし何かあればお使いください。》


 たった25個か。いやそっか、Fランクがゴブリン25匹に襲われて返り討ちにしたのは普通に考えて快挙だもんな多分。


 《ゴブリンの討伐は常設依頼なので、素材買取カウンターに持っていけばすぐに換金してもらえますよ。》



「すみません、登録したばっかりなのですが、ここに来る途中で倒したゴブリンって買い取って頂けるんですか?」

「はい、大丈夫ですよ。ゴブリンは左耳が討伐証明部位になります。お持ちの分だけこのトレーに乗せてください」


 できるキャリアウーマンのようにピシッとした雰囲気のギルド員さんが手で指した銀のトレーに、耳を25個まとめて乗せる。


 これからの事も考えて《無限収納》から直接取り出す。


「《収納》持ちですか。羨ましいですね」

「ありがたいことに運が良かったのです」


 《収納》とは《無限収納》の下位互換のようなもので、各人の魔力量に比例して亜空間に収納できるのだ。このスキルは持ってる人は少ないものの、いないワケではない。


「それにしても多いですね」


「たまたまゴブリンの団体に遭遇してしまいまして。でも何とか生き残りましたよ」

「Fランクの冒険者はゴブリンを1匹倒すのもやっとなのですが」

「運が良かったんですかね」


 何か言いたげなギルド員さんは話している間も手を動かし続け、トレーの上の個数を数え終わったようだ。


「総計25個で750オンになります。こちらをお受け取り下さい」

「あ、そうだ。ホブゴブリンも倒したんですけどこれも買い取っていただけますか?」

「は?」


 綺麗なギルド員さんの顔が口を開いた状態で固まってしまった。ホブゴブリンはやり過ぎたか?



「おいボウズ、ホブゴブリンだって?気持ちは分かるが嘘言っちゃいけねえな」



 キター!

 待望していただけにニヤケそうになる顔を引き締め、ゆっくりと振り返る。



 えっと、誰?


 見上げるほどの身長に、頭部をスキンヘッドにした男がすぐ近くに来ていた。この男がさっきのセリフを言っていたのは明らかなのだが一体誰なのだろう。

 妙に優しげな雰囲気を出して、あたかも俺たちを手のかかる息子を見るかのような目で見てくるのはなんともむず痒い。


 テーブルにいた彼を確認すると、何ともやりにくそうな顔でこっちの様子を伺っていた。


 あ、スキンヘッドさんは彼より年長者だから絡みに行けないのか。


「えっと、どなたですか?」


 おっとルリが果敢にも名前を聞く!

 よく言ったルリ!

 優しげスキンヘッドさんの正体は俺も気になる。あの乱暴そうな彼を抑えるほどの立場か力を持っているってことだもんな。なんだか年長者だからってだけではない特別なものを優しげスキンヘッドさんから感じる。


「俺はガントス・メーレゼフ。B級冒険者だ。この辺で分かりやすく言うと《瞬光》という二つ名で通っている」


 横のルリを見る。首を振っている。

 この辺で有名と言われても来たばっかりだしな。分からないのも当然だ。俺も初見だし。


 こんな時はステータス見るのが早いな。


 《人間にしては面白いスキルを所持していますよ。》


 なになに気になる。


 --------------------

 name: ガントス・メーレゼフ

 race: 人族

 level: 68

 skill: 瞬歩- 腕力上昇Ⅴ 機動力上昇Ⅵ 疲労耐性Ⅵ

 option: 《瞬光》

 --------------------


 《瞬歩というスキルは、自分を起点とした半径50m内であれば任意で時間差なく移動できるという能力です。範囲制限のある瞬間移動といえるでしょう。》


 確かに街で見かけた一般人にはない尖ったスキルを持っている。これって50mの移動を何度も繰り返したら100kmの距離だろうが超速で行けるよな。


 《多少なりともスキル発動時に疲労感を感じるようです。疲労耐性を持っているのである程度は軽減されていますが。》


 なるほど。彼の二つ名の由来もここからだろうな。光のような速さで瞬間移動するから。いや頭部が光るからもありそうだな。見事なスキンヘッドだもの。


「ボウズ、若い頃は誰しも自分を大きく見せようとしてしまうものなんだ。それを悪いこととは言わない。ただ過ぎたそれは時に破滅を招いてしまうぞ。冒険者の何割かは過信と慢心で死んでいる。俺は君たちにそうはなって欲しくないんだ。どうか分かってくれないだろうか」


 すげえ諭すように神妙な顔で話されるので、こちらもそれ相応の顔で聞いていたがどうしたもんかね。



「えっと、魔石は持ってるんですけど…」

「自分で買ったか知り合いの冒険者に譲ってもらったのかい?過去にその方法でランクを上げた若者がいたが、すぐに実力がバレてギルド証を剥奪される処分となってしまったよ」


 なんかこの人は優しさが空回りしている感じだな。


「実力が証明できれば買い取っていただけますか?」


 この数分で空気となっていたギルド員さんにそう尋ねる。ギルド員さんはどこから取り出したのかメガネをくいっと指で上げて言った。


「魔石があるのならば買い取ります。それがルールですので」

「あ、別にいいんですね。ありがたいです」


 あるだけ買い取ってくれるなら別にいいや。

 天、今いくつある?


 《75個は取り出してあります。残りの2870個もすぐにご用意できますが。》


 ホブゴブリンでしょ?結構あるね。


 《魔石があるのは人間でいう心臓付近なので頭を吹き飛ばそうが関係ないのです。》


 胴体を狙わなかった過去の自分ナイス!

 さっきもこんなの無かったか?まあいい。



 銀のトレーに手をかざし、魔石をジャラジャラと積み重ねる。親指サイズで紫色に半透明な石が滝のように出てきた。いや滝のようは少し盛った。


「な、何ですかこの数は!」

「人生で今まで貯めていた分です。量が量ですが換金はしてくれるんですよね?」

「は、は、はい…」


 恐縮するかのように小さくなっているギルド員さんを見ると俺が脅しているかのようで少し気まずく感じる。


 急にたどたどしくなってしまった手つきでトレーの中を数えるギルド員さんを見かねたのか冒険者の1人が立ち上がった。


「マーズさん!そんなの数える必要なんかねえよ!どうせ不正か偽物に決まってる!」

「そうだそうだ!」

「あんなにホブゴブリンの魔石を集めるなんて出来るわけない!」


 立ち上がった冒険者に触発されたのかさらに何人かが声を上げる。


「変な空気になっちゃったね、ハルカ」

「テンプレを楽しみたいって理由で巻き込んでごめんな」

「いいっていいって。私たちに時間は無限にあるんだからそんなこと気にしなくていいよ」

「ありがとう、ルリ」



「おいテメエ、俺と勝負しやがれ」


 おっとこういう展開か?



明日か明後日に無双回

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