第4進化とその手前
「案外早く終わってよかったよ。542層あると聞いた時にはゾッとしたけど」
「1ヶ月もかからずに終われたのはハルカのお陰だね。ありがと」
最後の魔物を殺して、迷宮での問題を解決した後ルリの持つスキルである、『迷宮管理一級権限』を使い、転移でリビングルームに帰ってきた。
久しぶりに感じるこの部屋はルリのダンジョンマスターとしての能力の1つで作られていて、迷宮とは関係ない亜空間にあるらしい。
缶詰め状態になっていたこの2週間の汗を流すため、2人でお風呂に入ってから、今はソファーでくつろいでいる。
別に汗が流れるような戦いはしてこなかったんだけどね?それはそれ。
「でもこれ根本的な解決にはなってないんだろ?いいのか?」
「今回で迷宮の魔力をごっそり減らせたから、次また同じようなことが起こるとしても2000年は少なくともかかるのよ。その頃にはぴーちゃんもだいぶ成長して私達の代わりをしてくれるようになると思うから」
「ぴーちゃん?」
「ハルカがここに転移する前に倒したフェニックスのぴーちゃんよ」
ああ、確か50層あたりのボスで、ネーミングセンスを疑いながらも殺したと思ったら、ひよこになって復活したあのフェニックスか。
もう一度殺そうとしたらどこかに転移してしまったんだよな。
「そういえばぴーちゃんって名付けたのはルリか?」
「うん、そうだよ。かわいい名前でしょ?」
「お、おう、そう思うよ」
「ぴーちゃん、出ておいで」
ルリがそう言うと、ソファーの前に置かれた脚の短いテーブルの上に小さな魔法陣が煌めき、パッと輝きを放って消えると、前に一度だけ見た手のひらに収まるサイズのひよこが召喚された。
「ぴーちゃんおいで」
「ぴっ」
ルリがテーブルに手を伸ばすと、トテトテと足音を立てながら一生懸命に短い足を動かして懸命にルリの手に近づき、精一杯足を持ち上げて手の上に乗り込んだ。
「ぴゅい〜」
ルリの手の上でホッと座り込んだフワフワなぴーちゃんを優しく撫でるとサラッサラな毛並みで軽く摘むとモチっとした感触がして、フェニックス特有なのか、時折紙切れ程度なら燃える程の熱量を手に感じる。
今は人間の姿をしているけども、能力値は亀の時と同じなので気にならないが。
「ぴーちゃんにはもっと強くなってもらってこの迷宮のラスボスになって貰うからね」
「ぴゅいっ」
撫でられて気持ち良さそうに目を閉じていたぴーちゃんはルリの言葉に小さな羽を広げて、まかせて!とでも言うように力強く鳴いた。
「なあルリ、ぴーちゃんってこのひよこ状態からどのくらいで元の姿に戻るんだ?」
「んーとね、だいたい半年経つか、レベルを上げると次第に大きくなっていくっぽい。私もぴーちゃんもまだフェニックスの転生についてよく分かってないけど、大体合ってると思う」
「ぴーちゃん強くなろうねー」
「ぴー」
帰ってすぐにぴーちゃんと戯れてしまって忘れていたが、ステータスを確認するのをここしばらくやっていなかった。
別に難なく勝てる相手しか迷宮にいなかったから、もしレベルが上限に達していて進化していようがいまいがはそんなに関係なかったけどね。
久々すぎて種族すら忘れそうな中ステータスオープン。
---------------------
name: ハルカ・ドウジョウ
race: 玄武【起源種】
level: 490
skill:
『天眼』
『装甲』
『魔の理』
『水と時空の支配者』『火と風と土と雷の管理者』
『成長限界突破』
『永遠の命』
『異世界の思考』
『魔王の因子』
『経験値プール』
---------------------
levelの文字が点滅してる!やっぱりあれだけ魔物を倒したから経験値も溜まるよな。
次の進化をする前に、増えたスキルを見よう。
この火山の迷宮には火属性モンスターばかりで、大抵火魔法を持っていたから管理者スキルに追加されている。
まあこれは全体から見たら誤差みたいなもんだ。
《魔王の因子。魔王スキルを自ら受け入れたことで発現。進化先やスキルに影響する。》
《経験値プール。レベルが上限に達した状態で得た過剰な経験値を進化後に還元する。》
経験値プールはわかる。獲得した経験値の余剰を溜め込んでおいてくれたありがたいスキルだ。
問題はもう一つの方。これは確実に先の戦いが原因だよなあ。ダメージ無効を持つオリハル金剛力士像を殺すために、ルリの持つ『魔王手』を俺と同期させたあの時に『魔王の因子』獲得の判定になってしまったのだろう。
進化先やスキルにこれから先何らかの影響が出てしまうってのが少し怖いな。防御貫通の黒エネルギーなら大歓迎なんだけど。
進化先も見てみよう。
《玄武の第4進化先
⇒玄武【古代種】
⇒玄武【創世種】
⇒玄武【魔王種】
⇒玄武【創世魔王種】
進化しますか?Y/N》
上の2つの進化先が灰色になってる。今までこんな事なかったのに何でだろう。
魔王って文字も見えるね。一つずつ見ていこうか。
《玄武【古代種】。ポテンシャルを最大限に引き出した玄武の進化先の1つ。全長が100mを超え、高さは80mを超える。かつてこの世界でたった1体で大地を創造した、四神の中で最古の存在であるその力は並ぶものがない。》
進化の度に出てくるね【古代種】。毎回他に面白そうなのがあって落選しちゃうけど。
《玄武【創世種】。【起源種】を経た玄武の進化先の1つ。世界を創ることができる。《創世魔法》を獲得。》
世界創れちゃうよ!説明短いけど世界創れるようになっちゃうよ!
《玄武【魔王種】。魔王の因子を取り込んだ事により進化先に出現。レベルアップに応じてステータスが伸びやすいが、デメリットは無い。魔王スキルを獲得する。レベル上限が無い代わりにどのタイミングでも進化することが出来る。》
魔王なのにデメリットないって…ただの称号ってこと?悪の親玉とか関係ないの?
ルリのレベルがやけに高かったのも最終進化じゃなくて進化してないだけだったのか。
《玄武【創世魔王種】。魔王の因子を取り込んだ事により【創世種】が変質。世界の創造及び変革ができる、《創世魔法》を獲得。レベルアップに応じてステータスが伸びやすいが、デメリットは無い。自身のレベルを消費して『水』の因子を持った魔物を創造する事ができる。》
上位互換だ。まさしく上位互換と化している。
しかも魔物を自分の手で創れるという心をくすぐるシステムもあるし、これで決まりかな。
今回も【古代種】は選ばれなかったけど仕方ないよね。なんで進化先が灰色に変色してるのか《鑑定》したら、
《『魔王の因子』により進化先が制限されています。》
だってさ。元々選べない運命だったという事で。
「ルリ、ごめん、今から進化するから半日ほど眠っちゃう」
「あ、私も進化するから大丈夫だよ」
「そうなのか。何選んだの?」
「私はね、朱雀【魔神種】っていう【魔王種】のパワーアップ版みたいなやつがあったからそれにしたよ。ハルカは?」
「玄武【創世魔王種】ってのにしたよ」
ルリがハッとした顔になった。
「もしかして私のスキル感染っちゃった?ゴメンね……」
「いや、見たところデメリットが無いどころか優秀じゃないか。逆にありがとうと言いたいよ」
「でも…魔王ってだけで敵意を向けられちゃうんだよ…」
「鑑定は防げるし、何よりそんなの気にならないほど強くなっただろ?問題ないさ」
不安そうな顔のルリの頭を撫でる。続けているうちにニコニコと元気そうな顔でこちらを見上げてきたのでキスを一つ落とす。
「次は半日後だね」
「ああ、それじゃあまた後で」
ステータスの玄武【創世魔王種】を選び、強く念じる。隣でルリも同じ事をした雰囲気が伝わってきた。
目覚めた。今までよりもステータスが格段に上がったのが分かる。新しい力が己の内に眠っていることも。
ルリはまだ眠っているようなので、毛布を持ってきて上にかけてあげる。しばらくしたら同じように目覚めるだろう。
さて、ステータスを確認しよう。




