名前と一旦
(´・ω...:.;::..
この2週間でサーチアンドデストロイを極めていた俺たちは540層のボス部屋前で、疲れてはいないが一先ずの休憩をしていた。
「やっと終わりが見えたな」
「ありがとう、こんなに早く進む事が出来たのは殆どの魔物を一撃で倒したハルカのおかげよ」
「まぁ魔力が減るわけでもないし、ただ魔物を探す作業が1番大変だっただけだからな。それもルリのおかげで効率よくなったし」
「結果お互いが居てこそってわけね!」
俺は地上にいる魔物なら岩の陰に潜んでいようが『天眼』で見つけて殺すことは容易いのだが、マグマの中に潜られてしまうと途端にその難易度が上がってしまうのだ。
ルリは『火の支配者』のお陰でマグマの中だろうと魔物を見つけるのは朝飯前なのに、ほぼ全ての魔物に火属性を無効化するスキルが付いてしまっているので速殺が出来ないのだ。
そこで役割分担をして、ルリは捜索、あぶり出し、俺は殺す役で効率良く迷宮攻略を進めていった。
この方法はうまくハマって労力を比較的かけずにどんどん攻略できたのだ。
それでもここまで2週間かかっているのは、途中からボス戦だけはちゃんと戦おうという事になったからだ。
俺は固定砲台として、空間捻じ曲げて遠隔で殺せていればいいかなと思っていたのだが、ルリ曰く、
「何の楽しみもない!一緒に戦った感がない!」
と言っていたのでそれからはボス部屋に一緒に入って戦っているのだ。
現在も540層、つまりボス部屋に突入するために転移でやってきたのだ。このアストロード迷宮は全542階層なので、ここが実質最後のボスとなり、レベルも1番高い敵になるだろう。
「それじゃあそろそろ行こうか」
「うん!なら一緒に開けよ!」
「近づくと開いちゃうから一緒は難しいかな」
ルリのためにも出来るだけ一緒のタイミングになるように近づいて扉を開かせる。例の如く重々しい音とともに開いた隙間から魔力が噴き出してくる。
何度もしてきた動きなのでとっとと中に入る。中で見えるのは全身が虹色に輝く金属の--彫像?
仁王立ちで堂々とこちらを見下ろす、キラキラと輝く彫像が右手に持つのは、身長ほどもある15mの棒の先端に輪っかが3つ付いた、これまた虹色の金属棒だ。
どっかで見たようなフォルムだな。よし、《鑑定》。
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オリハル金剛力士像
level: 940
skill: 剛力Ⅹ 硬化Ⅹ 天下無双Ⅹ 土魔法Ⅹ 魔力吸収Ⅹ 魔力自動回復Ⅹ 瞬間再生Ⅹ 膂力超向上- 仁王立ち- 並列思考Ⅲ 火属性無効-
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おう…
魔物の名前って誰が考えているのだろうかと人生で一番強く思った瞬間だ。
オリハルコンと金剛力士像を混ぜたのは分かるんだけど……少し雑じゃない?
強いのはスキルを見ても分かるけど…名前酷いな。
まあ気を取り直してスキルを見ていこうか。
《天下無双スキル。魔力を激しく消費することで、ダメージ無効と防御貫通攻撃、もしくは敵に当てた攻撃全てに割合ダメージを与える。》
《瞬間再生スキル。部位が欠損したとしても瞬時に魔力で代替して再生させることができる。》
《仁王立ち。仁王立ちを維持している限り体力、魔力回復速度超上昇。》
《天下無双》スキルが魔力を使って強力な効果を発揮するのに対して魔力回復系のスキルが充実しているな。実質《天下無双》が魔力切れで途切れることは無いんじゃなかろうか。
あと割合ダメージを与えるってのがヤバイな。どんなに体力があろうと小さな攻撃を何度か受けてしまうと死ぬってことだもんな。俺らは死なないんだけどね。
「ハルカ、あいつのステータス見た?」
「ああ、見たぞ」
「(スキルが)すごいね」
「ほんとに凄いな(ネーミングセンスが)」
なんかニュアンスが噛み合ってない気がしたが大丈夫だろう。張り切って頑張ってこ。
「ボォォォォォォォォォォォォン!!!」
大晦日に聴こえる鐘のような、お腹に深く響く絶叫が戦いの合図となった。
俺の放った、大抵の魔物の頭を吹き飛ばしてきた定評のあるライフル弾が《天下無双》で無効化され、逆に金剛力士像の《土魔法》が拡散するように小さな弾を飛ばしてきた。
割合ダメージはおそらくこの攻撃にも乗っているがそもそも敢えて当たってやるような神経は持っていないので、ルリごと転移して離脱する。
一般的な無敵マンにダメージを与える方法の一つといえば飽和攻撃かな。
「ルリ、ちょっと大きめの攻撃するから10秒ほど稼いでくれるか?」
「おっけー、『魔王手』」
ルリの全身が漆黒の炎に染まり、時折電気のような青い光が走る翼を大きく広げて金剛力士像に牽制のための雷の槍をいくつも放つ。
「ォォォォォォォン!!!」
『魔王手』の効果により防御無視攻撃となった黒雷の槍は、《天下無双》を発動させていた金剛力士像の無効化を貫通し、各所に貫通痕を作った。《瞬間再生》で何もなかったことにされてすぐに魔力も回復したが、確実に一瞬だけ魔力が目減りしたことが感じ取れた。
ルリの陽動の裏で俺も準備を進めていた。
今一番威力のある攻撃はレールガンとブレスだが、魔力をガン積みするレールガンだと金剛力士像の《魔力吸収》でただ吸い込まれるだけの可能性があるので選択肢から外す。
圧縮した水を放つだけのブレスなら多分いけるだろうってことで早速作っていく。
ブレスとは言いつつドラゴンのスキルの真似をしているだけで口から放っているわけではないので、周囲に100を超える数の水球を浮かべて置いておく。
手で握れるサイズの球の中に、50トンを超える水が圧縮され、少しの衝撃でもあれば大爆発を起こしそうなほどの不安定さを抑えつつ全ての水球を《時空魔法》と《風魔法》を使って方向調整をする。
「ルリ!準備できたから3秒後に離脱してくれ!」
「わかった!ほーら、目くらましだよ!」
ルリが金剛力士像の顔のところで小さな爆発を何度も起こして目くらましをしてくれている。火属性が無効化されていようと視界は炎で覆われるので好都合だ。
「よしいけ!」
ドン!ドドドドドドン!!!!!!!!!!!!!
もうビームにしか見えない水ブレスが金剛力士像に当たるが、仁王立ちのシルエットが崩れていない事から失敗を悟った。
《天下無双》のダメージ無効と魔力回復の釣り合いが取れる範囲に入ってしまったようだ。
貫通攻撃が手持ちにないのが痛いな…
「ルリ!『魔王手』って俺にも適用出来るかな?」
「うーん、わかんない!やってみる?」
「ああ、頼む!」
無いなら人に貸してもらおうって事だ。
「あーっとね、多分触れてさえいれば『魔王手』を共有できると思う!」
「お願いできるか?」
「いいよー」
ルリがその巨体に見合う大きな脚で亀の体をガシッと掴み、『魔王手』を俺ごと発動する。
成る程、これは便利だ。
黒いエネルギーが亀の体を覆って、カーボン製になったかの様な配色の黒い亀に大変身した。
いや、似合わないな、地味すぎる。
ダメージ貫通が大事なので、そんな事は少ししか気にせずに再びブレスの発射準備をする。
ダメージの一切ない金剛力士像は虹色に輝くボディを仁王立ちのまま、唯一の遠距離攻撃である《土魔法》でさまざまな大きさの槍や矢を形成して飛ばしてくるが、ルリの超高温の炎で溶かされたり、大気を押し固めて壁としたりで一切寄せ付けていない。
俺も先ほどと同じ要領で水球を作ると、真っ黒に濁ってしまった。表現が悪いが墨汁の様に黒い。
先程は水球100個で効かなかったので今回は500個用意し、並列思考の要領ギリギリの制御で方向を全てオリハル金剛力士像の各部位に100ずつ集中的に当たる様に微調整する。
「じゃあ行くよ」
「頑張ってー」
--発射
ズゴォォォォォン!!!!ドン!!ドガン!!!ガン!!!
漆黒のレーザーのように一瞬で金剛力士像に辿り着いた防御貫通ブレスは仁王立ちしていた首を切断して吹き飛ばし、両腕と両足を胴体からオサラバさせた。
明らかに先ほどとは違う音に手応えを感じつつオリハル金剛力士像を見ると、再生不可能なほどバラバラになったらしく、ただの、金属の塊の如く動かなくなってしまった。
俺もレベルが上がった感覚がある。倒せたようだ。
「倒せたんだね!やったね!」
「あぁ、ありがとうな。ルリがいて助かったよ」
「いいってことよ!困った時はお互い様だもんね!」
元気なルリに癒されつつオリハル金剛力士像の残骸を回収する。
後は流し作業で541層と迷宮最後の階層である、542層を一掃すればいいのでそう時間をかけずに攻略を終わらせる。
542層の最後の魔物の頭を撃ち抜いてこの迷宮ですべき事が全て終わった。
もうひとつ書いている方も更新しました。
光魔法の亜種を手に入れました。〜あ、勇者はいらないです〜
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