ルリエリント・アストロード
土日でドラマのエキストラに参加してました。たった10分15分のシーンに2日もかけるとは知らなくて、ドラマは演者スタッフ含めすごい労力の結晶なのだなぁと体感しました。
「キミはニホンから来たのかい?それともチキュウからかい?」
「どっちも正解だな。俺は地球という星にある日本国から来たんだ」
「そうなんだ。2つは別の世界かと思ってたけど同じ世界の事だったなんて、勉強になったなー」
ソファーで寛ぐ俺の対面で、これまた高級そうな1人掛けの椅子に、ハーフパンツから伸びたスラリとした生足を組んで座る美少女がいる。
燃えるように鮮やかな赤い髪がよく似合う笑顔がキュートな15歳くらいの女の子だ。見た目通りの年齢じゃないことはすぐに分かったが。
この少女はこの部屋に入ってきた時からやたらフレンドリーで、気づいた時にはお互いの自己紹介が終わっているようなコミュニケーション能力高めガールなのだ。
そして彼女の名前はルリエリント・アストロード。あの点をも貫くような大火山の火口にある迷宮、アストロード迷宮のダンジョンマスターだ。
迷宮の生まれた二万七千年前からずっと迷宮を管理していたそうで、会話のできる誰かと話したのも実に2000年ぶりだそう。
その反動もあってか彼女の話がとめどなく続いている。
俺も名前を述べようとすると、手を前に突き出し、ショートの赤髪を揺らして制止された。
「いいって、キミが迷宮に入った時から見てたし。それに《鑑定》させて貰ったからね」
何と彼女も《鑑定》を持っていたのだ。今まで使い忘れていたスキルを発動すると----
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nam
途中でステータス表示が止まってしまった。
何が起こった?と混乱していると、目の前で彼女がニヤニヤしているのが目に入った。
「一体何をやったんだ?」
俺がそう尋ねると、DかEはありそうな大きな胸を張って誇らしげに答えてくれた。
「これはね、鑑定妨害っていう私が編み出した小技よ。ステータスを《鑑定》される時って実は兆候が感じられるから、うまくタイミングを合わせて魔力を放出すると相手は私のステータスを見る事ができなくなるの」
「全然見れなかった。すごいな」
「そうでしょー!私すごいの!」
半袖から伸びた細い腕をバッと上にあげて、過剰なほどテンションが上がるこの子を見て、それほどまでに人に飢えてたのかと悲しくなる。
「あの…そんな可哀想な人を見る目で見ないで…今度はステータスを隠さないから……ね?」
途端にシュンとした彼女がそう言うので改めて《鑑定》をする。
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name: ルリエリント・アストロード
race: 朱雀【魔王種】
level: 2332
skill:
『天眼』
『魔王手』
『火と天空と創造の支配者』『風と雷と光の管理者』
『不死の炎』
『迷宮管理一級権限』
option: アストロード迷宮ダンジョンマスター
世界の敵
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「どう?すごいでしょう?」
「本当にびっくりした。レベルも一桁違うし」
「えっと。それはね、ダンジョンマスターになると一年毎にレベルが1つ自動で上がるんだ。私は二千年以上ここに篭ってるからそれは当然だね」
「チートかよ」
何もしなくてもレベルが上がるなんて有能すぎるなダンジョンマスター。高いレベルになればなるほど経験値が必要になる分、その恩恵がでかくなるからな。
なんとかその事を置いておくとしても、気になるのはやはり種族だ。
「お前は朱雀だったんだな。あの四神の」
「私は朱雀だけど、四神ってなんのこと?それはキミの世界の何かを示しているの?」
何かを思い出すかのように目線を上に向けた彼女は何も思い出せなかったようで、首を傾げてこっちを見ている。
本人が分からなかったら俺も不安になってくるぞ。
「朱雀って言うのはな、俺の種族の玄武と同じように地球のどこかの地域で、相当古い時代に信じられていた4柱の神様の名前なんだ。他に神様とされていたのは白虎や青龍だな」
「あ、白虎は聞いたことあるよ!」
え?いるの?白虎。
「私が前に地上で遊んでた時に、いっぱい人が集まってるところがあったから、なんだろうって思って近づくとね、白い豪華そうな建物の中でお祈りしてたの」
白虎様〜、白虎様〜って言いながら手の平を合わせてすりすりしてたの、と当時の真似をしてくれる彼女を見て思う。
白虎本当の神様になってんじゃん!信仰の対象に!
この流れだと青龍もどこかにいそうだ。案外すぐに出会えたりしてな。
「なあスキルをそれぞれ《鑑定》していいか?面白そうなスキルがあるし」
「えーどうしよっかなー」
と、こちらをチラ見した後に、顔を赤くしながら言った。
「いいよ、私の全てを見て!」
「言い方がわざとらしいわ!」
恥ずかしそうなフリをする彼女の頭をはたきつつ再び《鑑定》をする。まずは全く想像のつかない『魔王手』からだ。
《魔王手。【魔王種】に進化した際に獲得。装甲系スキルの派生系。黒のエネルギーを全身または一部に纏い、全ステータス大幅上昇。防御を無視してダメージを与える。》
黒のエネルギーってなんだ?
「見せてあげるよ、この腕を見ててね」
どうやら声に出てしまったようで、彼女が『魔王手』を見せてくれるようだ。
ブゥゥン
彼女が伸ばした右腕を見ていると素肌の上に気のようなオーラのような、なんとも形容しがたい黒いエネルギーが集約し、やがてそれは硬質な素材でできたパワードスーツにも見える真っ黒の鎧のようになった。
「カッコいいなそれ…」
「そうでしょ!カッコいいよね!私が鳥モードの時はね、さらにかっこいいんだよ!」
頬を上気させてスキルの魅力を語っている彼女はかわいい。大きいのに形のいい胸もくびれた腰もモデルのように長い脚も、何より前世では出会えなかった100点満点の美少女っぷりを発揮する完璧な顔も合わさって、彼女よりも魅力的な女の子はいないのではないかと現在進行形で確信している。なんならお持ち帰りしたいくらいだ。
「それでね、その時の私が……って聞いてる?」
「ちゃんと聞いてるよ」
並列思考がね。
まあ話を要約すると、彼女言う鳥モードでスキルを使うと全身が真っ赤な炎から、漆黒と青の混ざったイケイケ炎に変化するらしい。
「そういえば、何で魔王種になったんだ?世界の敵ってのもステータスに書いてあるし」
「あぁ……それはね……聞いても嫌いにならない?」
目線を落として小さな声で聞いてくる彼女に今度は胸を張って答える。
「もちろんだ。今日出会ったばかりだがお前以上に魅力的な女性はいない。好感度がぶっちぎってるんだ、何があろうと嫌いになることはないよ」
少し涙目になった顔をこちらに向ける彼女はポツリと話し始めた。
「人と話すのが二千年ぶりって言ったの覚えてる?その二千年前にあった事件で私は【魔王種】になったし世界の敵ともされたの」
迷宮をいじりながらいつも通り『天眼』で暇つぶしに世界中を覗き見してたの。そしたら国同士でいつの間にか戦争が起こってて、血がいっぱい流れて兵士だけじゃなくて、関係ないおじいちゃんとか子供とかもいっぱい殺されて。
あまりにもかわいそうで思わず迷宮を飛び出して、戦争を止めるよう言いに行こうと思って魔法の飛び交う戦いの中に鳥モードで近づいたらね、お互いの兵士が私のことを敵国の召喚した魔物だと叫んで戦いがさらに激化しちゃって。
どっちの兵士達もお国のために!って言いながら死んでいくのを見て私は、この戦争の主導者を殺さないと止まらないんだって思ったから戦争してたいろんな国の1番大きなお城を爆破したの。
結局戦争は終わったんだけど、突然現れた私が王を殺した史上最悪の魔物って呼ばれて、気づいたら魔王ってみんな言ってて、果てには私のせいで戦争が起こったんだって恨まれて。
その時に経験値が溜まって進化する時になっても選択肢には【魔王種】しかなくて、その時に見たステータスには世界の敵と書かれてて。
私がやったのは間違いだったのかなあってずっと悩んでるんだ。昨日も今日も。多分明日も。
そう言って泣き出してしまった彼女に近づき、正面から抱きしめる。
思ったよりも華奢な体には重すぎる苦しみを抱え込んだ彼女が涙を流して少しでも軽くなれるように。
10分、20分経っただろうか。俺の首に回していた腕をほどいて俺の頬に両手を当てた。
目元が腫れて赤い彼女が照れながら口を開く。
「えへへ、恥ずかしいところをお見せしちゃったね」
「恥ずかしくなんかないぞ。少なくとも俺にとってはこの世で1番素敵な女性はお前だって胸を張って言える。それに、俺にステータスを全て見せたのも話を聞いてもらいたかったからだろ?世間が何と言おうと俺は味方でいるから、安心して朝起きてご飯食べて夜寝ろよ」
まだ微かに不安げな感情が潤んだ目の奥に見えたので感情が伝わるようにしっかりと今の気持ちを吐き出す。
「お見通しかあ。うん、スッキリしたよ、ありがと。安心して生活するけどその中にキミはいるのかな?」
悪戯っぽく聞いてくる彼女に真剣な顔で答える。
「お前が望むのなら。いや、俺がそう望んでいるんだ。これから先、ずっと一緒にいてくれないか?」
びっくりした表情で固まった彼女を引き寄せて唇を奪う。抵抗なんて無く、むしろ積極的に絡ませてきた。
「ぷはぁ。強引だなぁ、これじゃあ責任取ってもらわないとね」
「そうだな。責任を取ってお前を幸せにするよ」
嬉しそうな表情で再びキスを迫る彼女に我慢が出来なくなり、激しい口付けの合間に尋ねる。
「ここって寝室はあるのかな?」
「今創るね。ほいっと」
彼女が指を鳴らすとそれまでリビングだったこの部屋が、一瞬にしてキングサイズのベッドがドンと中央に鎮座する寝室に様変わりした。
「便利だな、それ」
「いいでしょ。ほら、私を運んで」
お姫様抱っこを要求する彼女のお望み通りにしつつベッドに寝かせる。
「一目惚れなの、私の王子様。今日は寝かさないからね」
「俺も一目惚れだ、ルリ。そして俺のセリフだよなそれ」
こうして俺はルリに愛の言葉を囁きつつ、その抜群の肢体に覆い被さった。




