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迷宮と苦戦

勇者達の回です。

 


 おはようございます。あー白い。


 昨日の夜に作った亜空間の中で目覚めたが、殺風景というかただただ白い世界が延々と続いている真ん中にただ1人ポツンと存在しているのは妙な恐怖感がある。


 この亜空間は自分好みにカスタマイズ出来るようなので、時間ができたら楽園に変えていきたいと思う。



 亜空間を出て空高く浮かび上がり、昨日一日で変わり果てた島を眺めながら今後の予定について考える。


 ぶっちゃけ前の人生で後悔したこともやり残したことも特にないので、住みやすい家を見つける他はしたい事がないのが現状なんだよなあ。


 だから唐突に神様が現れて「お前は今日から魔王だ。勇者達を皆殺しにせよ」と言われても「あ、やります」と返すくらいにはやる事がないのだ。神様がそんな事を言うかとかは兎も角。


 今は同郷の勇者達がテンプレに陥って面白い事になるかどうかが楽しみで毎日チェックしているが、この前の迷宮への遠足以来再び訓練パートになってしまった様で、チラッと覗いては変化なしでため息をつく日々が続いている。


 この前は王女さんが迷宮探索を早めようかなとか言ってたからぜひ早めてください!と心の中で願いの気持ちが溢れていた。



 その気持ちが通じたのか3日後に再び迷宮へ行くそうだ。今度は30階層までで、迷宮内で何泊かするらしい。

 王女さんも兵士に紛れ込ませた監視員に勇者達の素質を見極めさせて、今後足を引っ張りそうな人がもしもいたら切り捨てるそうだ。陰キャラ命の危機!


 陰キャラも地球だとサバゲーを趣味でやっていて、全国的な大会にも参加するほどの腕前らしいが異世界の現代文明では銃は発明されていないらしく、同じ遠距離攻撃ってだけで弓が選ばれたのはかわいそうとしか言いようがない。


 迷宮からはドロップアイテムが落ちる場合もあるって聞くから今回いい武器が手に入るように頑張れ!





 先日エンシェントドラゴンという強大な敵を倒したからか、ここ数日しばらく楽しさを感じる闘いがなく寂しい気持ちになっていて、これがエンシェントドラゴンロスか!とか思いながら『天眼』を使って迷宮に潜る勇者一行を観戦する。


 迷宮というのはとても不思議で、前回踏破したボスのミノタウロスがいる10層まではショートカットできる機能が付いているのだ。

 勇者達は迷宮入り口で11層を意識しながら潜ると、目を開けたら迷宮10層分飛んで11層に足が付いている状態になっているという奇妙すぎる現象について疑問を覚えることなく歩みを進めている。



 まあ迷宮が侵入者を全て記憶していて、脳波か魔力かを読み取って、侵入者の望む階層まで空間を歪めて繋げているだけだから、俺もやろうと思えば同じことが出来るんだぞと張り合ってみる。


 迷宮に意思があるのか、何の目的で侵入者を招き入れてるのかは俺にとってどうでもいい事なので調べることはしていないがいづれ未来で関わってきそうな予感もある。今度攻略してみようかな。



 勇者達の装備は前回とほぼ同じで訓練を重ねた結果かだいぶ使い込まれた様子もある。


 11層は10層までのゴブリン、コボルト、ウルフに加え、ビッグバットという、名前だけだと膨大な数の料理のレシピを提供してくれるサービスのような響きの巨大コウモリが天井から襲いかかってくるようになる。


 陽キャラは聖剣を抜き放ち、眩く輝きながら魔物に突貫する。腕の一振りでゴブリン5匹の胴体が両断され、魔女っ子のウィンドボールがビッグバットの羽にダメージを与えて地面に落とし、筋肉は助走をつけて飛び上がり、ビッグバット目掛けて肘を突き出しながら落下した。


「っっ痛ってぇぇぇぇぇ!」


 筋肉の狙い通りビッグバットに大ダメージを与えて殺すことに成功したのだが、ビッグバットにそこまでの威力は必要なかったので胴体を貫通してしまい、迷宮の強固な地面に強かに肘を打ち付ける結果となってしまった。


 全体重を乗せた攻撃で肘の骨が折れ、腕が変な方向に曲がってしまっている筋肉に近づいた聖女が困った顔で杖を向けて、曲がった腕に回復魔法をかけている。


 杖の先と肘が光り、折れた骨が再生し元の位置に復元されていくと、脂汗をかいていた筋肉の表情も次第に安らいで聖女にペコペコと頭を下げてお礼を言っている。



 その後は順調に魔物を倒していく勇者達はあっという間に20層に辿り着いた。20層のボスはガルーダという巨大な鳥で、空を飛ぶため部屋がとても広く作られている。



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 ガルーダ。大鷲の魔物。翼を広げると20mもの大きさとなり空を切り裂いて飛ぶ。

 level: 30

 skill: 加速Ⅴ 火魔法Ⅲ

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 勇者達は事前に情報を兵士から聞いているので慌てることなく上を見上げてガルーダを視認する。


「キュァァァァァア!」


 ガルーダも部屋に入ってきた愚か者に気づいたようで、鋭い嘴から甲高い鳴き声をあげて威嚇している。



「ヤツは口から火の玉を吐くぞ!気をつけろ!」

「おうよ!」

「はい!フィジカルブースト!」

「分かってるわ!ウィンドカッター!」


 聖女が全員にエンチャントをかけ、魔女っ子が空を飛ぶガルーダに風の刃を放つ。しかし空を泳ぐように移動しているガルーダには当たらない。


「クゥァァァァア!」


 今度はこちらの番とばかりに、ガルーダが嘶くとともに顔を勇者達の方へ向けて火の玉を生成して飛ばしてきた。


「うおおおおお!《硬化》!」


 筋肉が前に走って飛び出し、腰を捻り握りしめた右腕を近づいてくる火の玉に向かってまっすぐ伸ばし殴りかかると、火の玉は爆散して消え去った。


「ナイスだ礼央(レオ)!ライトアロー!」


「キュルルルルル!」


 陽キャラから放たれた光の矢がガルーダの頭を掠めて羽毛を微かに削ることとなったが、それはガルーダを怒りで染めることとなり、勇者達に向かって羽を広げ急降下してきた。


「各自気をつけろ!タイミングを合わせて俺が斬る!」


「クァッ!」


「なっ!伏せろ!」


 徐々に近づいて見えたガルーダはいきなり《加速》を使って勇者達のタイミングをずらし、立派な脚の鋭い爪を立てて攻撃してきた。


 狙われたのはずっと後ろで魔法を使っていた魔女っ子で、回避が間に合わないと悟った魔女っ子は何とかダメージを減らそうと壁を呼び出す。


「アースウォール!きゃっ」


 土から伸びた壁に減速されるもガルーダの勢いは止まらず魔女っ子に爪が振り上げられる。

 もうダメかと思ったのか目をぎゅっと瞑った瞬間に足元を滑らせて後ろに倒れこみ、顔のギリギリ前を爪が滑っていった。


「大丈夫か(ナギサ)!ライトバインド!」


 陽キャラの拘束魔法が地上付近を滑空していたガルーダの羽に絡みつき地上に落とした。


「くらえ!おらっ!」


 走って勢いをつけた筋肉の《硬化》をした蹴りがガルーダの頭部を吹き飛ばし、ガルーダは生き絶えた。



「渚!大丈夫!?」


 地面に寝転がったまま呆然とする魔女っ子に聖女が《回復魔法》をかける。怪我は特にしていなかったが魔女っ子が動きださないのが不安なようだ。


「あぁ、助かったんだ………よかった」


 上から覗き込む聖女に魔女っ子が焦点をようやく合わせ弱々しく声を出す。


「あそこで偶然転ぶなんて運が良かったな渚」

「偶然……だったのかな。でも生きてるよあたし。よかった、本当によかった……」



 あ、転ばせたの私です。死亡シーンが来るにはまだ早いかなと思って助けてしまいました。

 今回の探索で弓矢を使って牽制とたまにトドメを刺していた、目立たなすぎる陰キャラの出番はいつなのかとドキドキしながら見ていたら、この先鬱展開まっしぐらな所に出会ってしまったので仕方なく魔女っ子の踵の辺りの地面を削ってバランスを崩して転ばせたのだ。


 彼らの物語の真の主人公である、あの陰キャラにイベントが起こるまでは俺すら死ねないのだ!(迫真)



 ずっと見てても予想以上に迷宮に苦戦しているなあ勇者達。今日はガルーダを倒したここ20層でテントを張って夜を明かし、明日30層まで行くつもりだろうが経験的にもレベル的にもまだまだ早い気がする。


 でもこれが王女さんの狙い通りなのだろう。勇者を追い込んで成長させ、勇者特有のスキル《覚醒》を目覚めさせると言っていたがその前に死んでいきそうな強行軍だ。


 30層は20層とは比べものにならないボスも控えていることだし引くなら今のうちだが、何としても王女さんは勇者を戦力にしたいようだ。


 夜営の準備を終わらせた兵士と勇者達は見張りは兵士達に任せてぐっすりと寝入った。


 ついに明日、彼は絶望と直面する…!


 ………とありがたい。


 俺も寝よう。おやすみ。




感想ありがたく読ませていただいています!

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