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決着と例の

今回も勇者出てきません、とかまた言うと勇者メイン小説に思えてきますね。

 



 ガンッ


 ガンッ


 漆黒の巨躯を怒りで震わせるドラゴンが視線を向ける先には1匹の亀がいる。

 その亀は先程からずっと高速で放たれる氷の弾丸をドラゴンに当てているが、少しも効いた様子がない。


 時折ドラゴンが口を開き、そこから光が凝縮されたようなビームが亀に向かって飛んでいくが、亀は一瞬にして消え失せ、別の場所に現れて氷の弾丸を何度も撃ち込んでいる。


 よく見ると亀の攻撃は何かを探っているかのように満遍なくドラゴンの全身を叩いている。


 ダンッ!


「ギュァァァァァァァア!」


 喉元の鱗の1枚に直撃した弾は今までとは違う音を残して深く突き刺さる。今までにない大ダメージを受けた巨大なドラゴンは堪らず絶叫の咆哮を上げ仰け反った。






 やっと見つけた。


 思ったんだ、竜なら逆鱗があるはずだって。


 逆鱗が無いとしても、他と比べて脆い部分があればいいなという気持ちでやっていた作業だが、俺はツイてたらしい。


 長い首もびっしりと強固な鱗で覆われているがそのうちの1枚が最大の弱点のようで、そこだけは再生せずに未だに血が溢れ続けている。



 悲痛な声で泣いているドラゴンに追い打ちをかけるべく、少し前に森の生態系を破壊するのに一役買った、“転移の応用で作った2点の空間を繋げてこちらの攻撃が届くようになる窓”、略して“転移窓”をフル活用して様々な位置から逆鱗を狙う。


 ドラゴンも《風魔法》を使って、圧縮された空気の壁を体に這わせるように作り出した。空気の壁と弾丸がぶつかり砕ける音がパァン、パァンと鳴り止まない。


 ライフル弾とショットガン、最近使い始めた徹甲弾など様々な弾を使って、文字通り風穴を開かせようとしているがドラゴンの壁も固い。


 強度もそうだが、物量で何とか押し切ったとしてもぶち抜いた壁の下に第二、第三の空気の壁があって逆鱗まで到達しないのだ。



 なかなか攻めあぐねていると、ドラゴンも同じ気持ちだったようで、ガバッと口を広げて今までとは違うブレスを放ってきた。今までは光の伸びるラインが見えるビームのようだったのだが、何とかして俺に1撃当てたいのだろう。ドラゴンの口という起点から離れるほどに急激に破壊範囲が拡大していく、膨張するブレスが放たれたのだ。


 もちろんドラゴンの後ろに回れば当たる訳がないので尻尾の付け根付近に転移する。


 ブレスは大地を地響きと共に削り取っていき、一瞬の出来事だったにも関わらず正面に見えるのは遠くへいくほど広がっていく土色のクレーターだけとなった。




 時間がかかる割にお互いに有効打が出ないので、もう賭けに出ることにした。今まで触れてこなかった漆黒のドラゴンの体表に張り付き、直接逆鱗に攻撃するのだ。

 レベルⅩの《風魔法》だとしても触れるくらい近づけば無効化できるはずなので、こちらを振り向こうとする首元に転移する。


 《風魔法》の強固なバリアを『魔の理』で奪い取り、魔法制御を自分の元に置く。


 いつかの大タニシ戦であった《雷魔法》獲得の時と同じように、構造から使い方、この世に普遍的に存在する風を自然と理解する。見てはいないが、俺のステータスにスキルが追加された気がする。


 ドラゴンの《風魔法》を獲得したので、本命の逆鱗への攻撃を開始する。


 ドラゴンの首元に張り付いて未だに《再生》が追いついていない鱗に狙いを定めて口を開く。


 しれっと《混沌に触れた者》であるドラゴンに触れたが大丈夫のようだ。これが『永遠の命』の効果なのかは分からないが都合がいい。



「グゥォォォオン!!」


 長らく感じていなかっただろう身の危険を察知したのか、俺を首から引き離そうと体を地面に叩きつけ大暴れし始めたのだがもう遅い。


 所持スキル『装甲』で鱗にガッチリ固定するツメを生やして逃れられないようにして、再び物真似ブレスを口内に溜めつつ、今度は電気マシマシの魔力ガンガンで威力だけを重視した攻撃を解き放つ。


 初速が目で終えないほどの水と雷のビームは容易く逆鱗の傷口を広げ、首の反対側に付いてた鱗を弾き飛ばして貫通した。


 トドメとして、ビーム放出中の頭を上下に大きく振るうと、それに連れられたビームが肉を裂いていき、両断された頭部が地面に落ちた。

 睨みつけた表情のまま命を失った大きな瞳はただ1匹の亀を写していた。




「グゥァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!」


 あ、喜びのあまり変な声出た。亀ってこんな声出すっけ?まあいいや。


 やっと最大の敵を倒したぞ。獲得した魔法もあるし、レベルもどれだけ伸びただろうか。楽しみだ。


 ---------------------

  name: ハルカ・ドウジョウ


 race: 玄武【起源種】


 level: 189


  skill:

『天眼』

『装甲』

『魔の理』

『水と時空の支配者』『風と雷の管理者』

成長限界突破(進化に終わりはない)

『永遠の命』

『異世界の思考』


 --------------------


 レベルが随分と上がったな。今朝は進化したてでレベル1だったのに1日で200手前まで行くとは、さすが島一つを破壊しただけある。


 スキルもさっそくまとめられて『風と雷の管理者』になっているし、どんどん戦略の幅が広がるなあ。



 今日はもう自分的に頑張ったから終わろう。まだまだ日が出てるけど急いでも仕方ないしね。というかこの島での目標が達成されたからすることがないんだ。


 《無限収納》に殺したばかりのエンシェントドラゴン【混沌種】を詰め込んで転移でマイホームに戻る。






 ……………………?


 あっ


 ここもブレスの範囲だったのか!

 せっかく気に入り始めた拠点だったのになあ。


 ただの削れた土地で休みたくはないし、なにより巻き上がった砂で視界が悪いから仕方ない。


 今日は亜空間作ってそこで寝よう。

 亜空間は殺風景すぎて気が病みそうになるから2日もいられないからなあ。


 明日からは家探しだ!





 ♢♢♢♦︎♦︎♦︎♢♢♢

 アルメルフェンド城第一王女フェリシアの部屋


 豪華な調度品の数々が揃ったこの部屋には、いつも通りドレスを着てイスに座った王女の他に、格の合わないただの黒いローブをまとった男が2人いる。


 2人は背丈も声色も似ていてどうやら双子のようだ。


「今回初めて勇者達に殺しを教えに迷宮に行かせたのだけど、調子はどうだったかしら。」


 王女が黒ローブに問いかけると、向かって右に立っていた方が答えた。


「5人とも()()した直後は体の不調を訴えたり帰りたいと泣き叫んだりしていましたが、いち早く復活したクニミツ・ササキの一声で再び探索を開始できるようになりました。彼のスキルに精神操作があるのかと疑うほどです」


「長いわ。まとめて」


 王女が気だるげにそう告げると、左側に立っていた男が口を開いた。


「1番使えるのがササキ・クニミツ、いなくて構わないのがカズキ・マツモト。弓使いです」


「ふぅん、分かったわ。またしばらくしたら呼ぶから引き続き勇者達の監視を続けてちょうだい」


「「かしこまりました」」




 男たちが下がると誰もいなくなった部屋で王女がひとりごちる。


「次の迷宮探索の時期を少し早めようかしらね………」



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