1話誕生
人外転生モノが書きたかった
カツンーー
本能が告げている。全身を動かしてこの真っ暗な空間から出なければならないと。
カツンーー
ピキピキーーパキンーー
割れたところから明るい光が入ってきた。もう少しだ。あともう少しで外に出れる。
ーパキンーーパキンーー
頭を使うとよく割れるようだ。頭を動かしてさらに続ける。
とうとう自分の体が外に出れるほどの大きさの穴が空いたようだ。外へ出る。
眩しい光が全身に当たる。とても暖かく心地よい。
しかし本能が告げる。すぐさま水の中へ行かないといけないことを。空中から何かに襲われ、生がそこで途切れることを本能が知っている。
それはまだ不明瞭な視界の中キラキラと輝く方へ全身を使ってもがきながら進む。まだまだ動きづらい体は言うことを聞かず、逸る気持ちだけが前に進む。
キラキラが大分近くまで来たようだ。キラキラの中へ入る。そして同時に〈泳ぐ〉ということを理解する。ひとまずの安心とともに呼吸のために偶に水の外に出ないといけないことも把握した。彼らからなるべく離れるために、それは水の中でなるべく遠くまで泳ぐ。途中呼吸のために仕方なく水の外に顔を出したが、襲われることはなかった。それはより遠くを目指して泳ぎ続けた。
それが永く泳ぎ続けているうちに、口の中に入ってくる何かから栄養を得ていることを知った。そしてそれは地面近くの緑色の草を食むことでさらに効率よく体を動かすためのエネルギーを得ることができることを知った。
途中で見つけた緑の多いところに居を構えることにしたそれは、岩の隙間に体を隠しながら食事の時と呼吸の時だけ外に出る生活をしていた。
1ヶ月もするとそれの体は大きくなり、その岩では収まらなくなってしまった。なのでそれは移動を始める。さらに深いところへ。
それが進んで行くと、泳ぐ時に口に入る何かだけで1日の栄養が賄えていることに気づいた。わざわざ休憩する必要がなくなったのでそれはさらに遠くへ進んでゆく。
何も目的もなくさらに5ヶ月泳ぎ続けたそれはおよそ30センチの大きさに成長していた。5ヶ月泳ぎ続けたため体は流線型となりなめらかな動きができるように変化していた。
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同時刻、別の世界
大学の講義が終わった――堂上玄は家に帰るための準備をしていた。ノートをまとめ筆箱にペンをしまい、肩にかけるタイプのバッグに全てを入れて立ち上がった。講義を一緒に受ける友達もいなかったので、何も考えずさっさと教室を出た。
階段を降りながらイヤホンを取り出し、最近のお気に入りの曲を流す。校門をくぐりさっさと駅までの道を歩く。すぐに交差点へと差し掛かる。大学は国道に面しているのでとても車通りが多く、信号も時差式であったりと複雑なので事故も多いらしい。
車道の信号が赤になった。まだ歩道は青にならないことを堂上は知っている。ここの交差点は特に複雑なのだ。ほら車がまだ-----
「おい、危ねぇぞ!!!」
「えっ、きゃああああああああ!!!」
新入生だったのかまだ慣れていなかったのだろう。女の子が青と勘違いして歩道を歩き始めてしまっていた。このままでは車と完全にぶつかるタイミングであろう。堂上はどうゆうわけか勝手に体が前に出ていた。車がすぐそこまで迫っているのを目にしながら手を伸ばした堂上はギリギリ女の子を思い切り突き飛ばし----------------------------------たところで堂上の意識は途切れた。
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ある大きな島の近くを泳いでいたそれは再び暮らしやすそうな場所を見つけた。
島の周りに数々の大きな岩が海の中に突き立っていてそれが辺りを散策していると丁度隠れやすく緑もすぐ近くにある所を見つけた。岩と岩に挟まれたそこを隠れ家とし、それは久々の眠りについた。
ー-------長い夢を見た
堂上玄として生きた20年と、カメとして生きたおよそ半年。
堂上玄が目を開ける。
(あれ…確か……女の子を助けるために車に……)
そこで堂上は自分の体の周りが何かで包まれているように感じることに気づいた。それはまさに堂上がプールで感じたそれと同じであった。
(これはどういうことだ…?周りを見てもここは海のようにしか思えない……)
(そしてこれは…………)
堂上は自分の周りの水流から今の自分の体型を感じ取ることができた。
(これはいわゆるウミガメだろうな…知ってる形と比べて少しシャープになっているがあながち遠くないだろう)
(なるほど自分は死んで偶然ウミガメに転生?憑依したということだろうか)
生前の堂上玄はある意味達観しすぎた人物でもあった。理解力も人並み以上にあり、状況判断能力も発揮される場面は少なかったがこれも人並み以上にあった。
堂上は持ち前の精神力で状況を判断し、慌てることなく現状を正確に理解した。
---そして堂上はサブカルにも強かった。
(異世界。異世界という選択肢がここで出てきた訳だ)
(ということはお決まりのアレがあってもいいはず)
カメの姿をした堂上はその目を輝かせた。
(ステータス!!おお!本当に出てきた!!)
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name: ハルカ・ドウジョウ
race: 玄武(幼生体)
level: 2
skill: 鑑定Ⅴ 硬化Ⅴ 遠泳Ⅴ 飢餓耐性Ⅲ 睡眠耐性Ⅲ 異世界の思考Ⅹ
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(ふむ…nameは自分の名前、levelはゲームでおなじみのレベルのことだろうな。skillもスキルとしてゲームに出てくる。問題は…)
堂上は自分の視界に映るステータスのraceの部分に目を向けた。
(恐らく種族の事だろう。種族の表記は割とテンプレだしな。だが、玄武となると………四神か。他に朱雀、白虎、青龍がいたやつ。そうとうレアな種族だと思うんだがこの世界にもいたのか…)
堂上はカメの顔で難しい表情を作る。ステータスなんてものが出た時点で異世界は確定だが、これからの指針をまず決めなくてはならない。
(ひとまずレベルなんてものがあるのなら上げるしかないだろう。上げておいて損はない筈だ。スキルも検証したいことがあるしレベルを上げたら自ずとスキルも増える気がするしな)
堂上はひとまずの目標を決めた。この世界で生き残ることだ。レベル制の世界であるならば高い方がより有利であることは間違いない。地道にでも上げていって、再び死んでしまう可能性を下げるのだ。
(結局突き飛ばした女の子も助かったかまでは分からないしな。考えても仕方ないことだが)
とりあえず、レベルを上げるための手段が何なのか確かめつつスキルの検証をやっていこう。
こうしてカメとなった堂上玄の1日目がスタートした。