- 出会い -
それは、灰色の岩でできた、空に浮かぶ巨大な城だ。ゴゴゴゴという重苦しい音を立て、我々の真上に浮かぶそれは、我々を取り囲む何百何千もの帝国軍の身体を硬直させ、私と姫様、生き残った我が王国の30人の衛兵達の言葉を失わせた…
今より半刻ほど前のこと。
私と姫様、それに衛兵達は川の浅瀬を渡っていた。
「姫様!こっちです!」
私は姫様に向かって叫んだ。姫様はまだ、川の中ほど。今、敵に見つかれば、ひとたまりもない。
私はディアナ。トール王国の姫様専属の侍女。我が王国と同盟を結ぶガルツ公国まで姫様を落ち延びさせるため、奔走しているところだ。
昨日の夜のこと、大国のアータリア帝国が突如、我が王国に8千もの軍勢を繰り出して攻め入った。城塞都市である我が王国はこれまで何度も帝国に攻められたが、その度にこの高い城壁をもって退けてきた。難攻不落の我が王国だが、今度の戦いでは内通者がおり、内側から門が開かれてしまう。その門から堰を切ったように帝国の大軍が押し寄せ、あっという間に王宮は敵の手に奪われてしまった。
このとき国王陛下は敵の手にかかり、すでにこの世にはいない。が、王族で唯一王宮の外にいた姫君は辛くも150人の衛兵に守られて脱出に成功、今も逃げ延びている。
しかし、150人いた衛兵達は帝国軍に追いつかれる度に身を挺して姫様をお守りし、すでに30人ほどまで減った。付き添う侍女も私だけ。姫様もすでに長い逃避行に疲れ果てている。
なんとか川を渡り切ったものの、その先の林の中で姫様は再び座り込んでしまった。王宮からほとんど出たことのない姫様が、昨日の夜からほとんど休みなく歩き続けておられる。おまけに夏の日差しが照りつけ、食事もほとんど口にできず、限界が来たようだ。
「姫様、もう少しでございます。今一度お立ちください。」
「……いや、もう限界のようじゃ…ディアナよ、これを。」
姫様は頭につけたティアラを外し、私に手渡す。
「ひ、姫様、これは……」
「これは王族の証。これある限り、我がトール王国は滅びぬ。これを持って落ち延び、この王族の証をもってガルツ王国の貴族を立て、王国の再興を図るのだ…」
「いけません!姫様、ここであきらめては天国へ先立たれた陛下に顔向けできませぬ!今一度奮い立たれ、捲土重来をお図りください!」
ここで姫様に死なれては、陛下だけでなくここまで奮戦して亡くなった100名余りの衛兵にも顔向けできず、王族の血筋がいなければ国の再興も叶わない。私と生き残った衛兵達は、林の中で姫様を説得する。
と突然、どこからか話し声が聞こえてきた。
「……いや、そこはすでに設置した。あとはこの奥だけだ。私が行ってくるよ。」
何だ、追手か!?我々の間に緊張が走る。その声の主はまっすぐこちらに近づいてくる。衛兵達は剣を抜き、ぐるりと姫様を囲んで構えた。
木々の間から、奇妙な格好の人物が現れる。紺色のさっぱりとした服を身にまとったその男。鎧もつけず、剣は持たず、小さな鞄をぶら下げて無防備にこちらに向かって歩いてくる。
その男は、我々の存在に気付いた。その瞬間、男の顔が緊張してこわばる。腰に手をやって、身構えてきた。
奇妙な姿だ。近くの村人だろうか?しかしこの男、もしかしたら敵方に通じている者かもしれない。姿を見られた以上、我々はこのまま黙って見逃すわけにはいかなかった。
「でやぁ!」
兵の一人が剣を振り上げ、この丸腰の男に切りつける。どう見ても無防備なこの男は、このままあっさりと剣に斃れるはずであった。
ところがである。ギギィーッという耳障りな音と共に火花が散り、剣は脆くも砕け散った。切りつけた兵は後ろに弾き飛ばされ、背後の木にたたきつけられる。
「ちょ、ちょっと!何なのですか、一体!?」
丸腰のこの男、まるで何事もなかったかのように突っ立って叫ぶ。確かにこの男は今、剣で切り付けられたはずなのだが、斬られるどころか、剣を粉々に砕いてしまった。
「お、おのれ……怪しい技を!」
別の兵が切りつける。だが、先ほどと同じ顛末で、火花と耳障りな音と共に剣が砕かれてしまう。
「何ですか、いきなり!ちょっと、待ってください!」
その男は叫ぶ。あれだけ鋭い剣で切り付けられながら、まるで無傷なその男。何が起きたのか分からないが、この男、どうやら怪しい魔法を使うようだ。
帝国軍どころか、魔法使いの出現に、私は血の気が引いた。咄嗟に姫様に進言する。
「ひ、姫様……早く、お逃げください!」
「いや、ディアナ。もはやこれまでだ……」
そういうと姫様、手に短刀を握りしめ、自らの喉にその刀を突き刺そうとした。
「ひ、姫様、なりません!」
私はその姫様の刀を握り、なんとかして制止しようとする。そこにもう1つの手が現れ、力強く短刀の柄を握ってそのままその刀を奪い、遠くに放り投げた。
「バカ!何やってんだ!」
そう叫ぶ人物は、さきほど兵に斬りつけられたあの魔法使いの男だった。私は思わず男に向かって言い返す。
「ひ、姫様に向かって、なんという無礼な……」
「無礼もへったくれあるか!!あなた方はなんでいきなり斬りつけてきたり、自ら命を絶とうとするんだ!」
なんなのだ、この男は。剣が効かないこの怪しい魔法使いの男、今度は姫様の命を助け、暴言を吐く。
「では、どうしろと言うのだ!妾はこのまま生きて辱めを受けよと申すか!」
姫様がこの男に反論する。だが、その男は応える。
「……あの、さっきからあなた方、妙にピリピリしているんですけど、一体何がどうなってるんですか?すこし冷静になって、事情を話してくれませんか?」
よく見れば敵意もなく、しかも姫様の命を救ってくれたこの男。得体はしれないが、もしかしたら味方になってくれるかもしれない。そう思った私は、この男に帝国軍に追われていることを話す。
「途中、何度も敵兵に見つかっては衛兵達が捨て駒となり、姫様を守り続けここまで辿り着いたのです。しかしこのままではまた帝国の追っ手に追いつかれ、姫様が……」
まだ話が終わらぬうちに、衛兵の1人が慌てて走ってきて叫んだ。
「て、帝国の奴らがきました!川を渡ってきます!」
再び追っ手が迫ってきた。再び緊張する我々。数少ない衛兵達は剣を抜き、川の方を向いて構える。
「なんだか分からないが、要するにその追っ手からこの姫様を守ればいいのか!?」
男が私に尋ねる。私はその言葉に軽く頷いた。
「分かった。こっちに我々の哨戒機がある。そこまで行って味方の救援を呼ぶ。全員でついてきてくれ!」
そういうとその男は、姫様の前にしゃがみこむ。
「見たところ、かなりお疲れのご様子、私が背中におぶって差し上げますが、よろしいですか?」
「…あ、ああ。頼む。」
「あの、そちらの方。兵士の方々にも私に付いてきてくれるよう呼びかけて下さい。」
私はその男に言われるがまま、兵士達に手招きする。
姫様を背負って歩くこの男。歩きながら黒い小さな板を取り出して、何かブツブツと喋り始めた。
「クルーズだ。緊急事態発生!全員を急ぎ哨戒機まで呼び戻せ!臨戦態勢!艦には救援要請を!」
この男、クルーズという名前らしい。それにしても誰と話しているのか?
しばらく歩くと、木々を抜けて草地に出た。そこには、白くて四角く平べったい奇妙な小屋があった。
3つの脚で床を支える奇妙な平屋建ての小屋。なぜか平たい板が両側についていたり、一方だけ妙に大きな窓がついている。その小屋の扉が開き、中から人が出てくる。
「クルーズ中尉!緊急事態とは一体何事ですか!?」
「どうやらこの人達は戦争に敗れて、多数の兵に追われてるらしい。総員、戦闘用意!連合軍規第53条に基づき、直ちに防衛行動に移行する!」
このクルーズという男、私に向かって話しかける。
「あなたと姫様の2人を、この哨戒機内に匿うことにします。万一、その追っ手が押し寄せてきたら、あなた方だけでも救うことができます。さあ、お入り下さい。」
そう言って彼は私の手を引いて、この小屋の中に入った。
しかし、おそらく押し寄せる帝国軍は我々の数十倍から数百倍の人数。こんな小屋に匿われたところで、ひとたまりもないだろう。そう思いながらも他に手がない私は、その言葉に従うしかなかった。
この小屋、中は狭く、小綺麗な椅子が4つ整然と並び、おまけにガラス製の窓が付いている。その4つの椅子のひとつに姫様を下ろすクルーズ殿。
「あなたは姫様の横に座ってあげてください。私は外でその追っ手が近づかないようにします。」
この椅子、背もたれを倒すことができるようで、疲れた姫様を倒した椅子の上に寝かせた。私は外が気になったので、椅子の横の小さな窓から外を見る。
外では、衛兵達とクルーズ殿の仲間がなにかを話している。30人の衛兵達はこの白い小屋の周りをぐるりと囲むように並んでいる。帝国軍の追っ手から逃れるため彼らの誘いに乗ってしまった我々だが、果たして本当に我々を守ってくれるのだろうか?
もしかしたら、彼らは同盟を結ぶ公国の者達なのだろうか?我が王国領にまで救援のために来てくれたのかもしれない。そう考えれば、彼らが我々を助けてくれる道理はある。しかしクルーズ殿を見る限り、我々のことを知らないようだ。姿格好もずいぶんと妙だ。公国の者とはとても思えない。
今ひとつ、敵か味方か分からないクルーズ殿だが、川の向こうには明確に敵だと分かる相手が迫っている。もはやなし崩し的に、彼らにすがる他なくなってしまった。
彼らが哨戒機と称するこの小屋の入り口に、クルーズ殿は立って外の様子を見ている。
「……来た!」
クルーズ殿がつぶやいた。その先の木々に、たくさんの兵士の姿が見える。
上半身を分厚い皮の鎧でまとい、腰には剣を備える兵士が何十人と見えてきた。あれは帝国軍の下級兵達だ。衛兵たちは身構える。
「来るぞ!全員、撃ち方用意!対戦車向け出力で発砲する!目標、追っ手の手前!全員で威嚇発砲を行う!」
クルーズ殿が叫ぶ。彼の仲間が、腰のあたりから何かを取り出した。クルーズ殿の叫び声を聞いて、敵兵の一部がこちらに気付き、剣を抜いてぞろぞろと迫ってくる。
「よし、斉射!撃てっ!!」
クルーズ殿は叫ぶ。その直後、張り裂けるような音とまばゆい光が一斉に放たれた。
まるで稲妻のようなその光の魔法は、帝国軍の兵士の前に落ちると、もの凄い炎と波動を発して地面をえぐりとる。土煙が舞い上がり、その衝撃に驚いた帝国軍の兵士の歩みは止まる。
「我々は宇宙統一連合、地球519遠征艦隊、駆逐艦3310号艦の兵である。連合軍規 第53条に基づき、防衛行動を発動中である。その林より一歩でも出て我々を襲撃する意図を示すならば、我々は先ほどの破壊力を持ってあなた方の進軍を阻止する。場合によっては、命を奪うことも辞さないが、それは我々の本意ではない。これ以上の前進は行わぬよう願う。」
クルーズ殿は帝国軍に向かって叫んだ。だが、多勢の帝国軍が少数である我々の忠告など聞くはずもない。剣を構えて、今度は多人数でぐるりと取り囲み、ジリジリと集団で迫ってくる。
「…ちゅ、中尉殿!彼らは忠告を聞きません!」
「やむを得ない、次は哨戒機の砲も使う!目標、前衛部隊!」
「ですがそれでは、兵士達が……」
「ここにいる我々と、30人の兵士と2人の女性の命がかかっている!威嚇発砲と警告後の襲撃に対しては、兵に攻撃することは認められている!今はためらうな!全員、撃ち方用意!」
再び、手に持ったあの仕掛けを彼らに向ける。
今度はさらに大きな音が鳴り響く。さっきよりも大きな光の玉が、敵兵に向かって放たれた。この小屋の屋根からもあの稲妻が放たれたようだが、それはあまりに大きな音と光を発したため、私と姫様はその場に伏せる。
ばりばりと木々が裂けるような音に紛れて、たくさんの悲壮な叫び声が聞こえてきた。おそらくは敵の兵士の声だろう。しばらくすると少し静かになったので、私は恐る恐る顔を上げ、外を見た。
窓の外にあれだけいた帝国軍の兵士が1人も見当たらない。兵士のいた場所には、黒い煙が立ち昇っている。たくさん生い茂っていた木々は、一本もなくなっていた。
地面に目をやると、そこには凄惨な光景が広がる。手足が吹き飛んだ兵士、血まみれで倒れる者、その他大勢の兵が地面に伏せているのが見えた。私はその光景に、思わず身震いする。
何という力だ。数十人はいたであろう兵士達を、たった一撃で吹き飛ばしてしまった。後に残るのは、まるで地獄絵図のような光景だけである。
「警告する!我々を取り囲む帝国兵士達よ!直ちに後退せよ!動かなければ、追撃はしない!」
クルーズ殿の声を聞いて、かろうじて生き残った兵達は一目散に退散する。こんな強力な魔法を見せつけられては、さすがの帝国軍も引くしかない。
だが、この力に恐れをなしたのは敵だけではない。衛兵達も、あの地獄の光を目の当たりにして、すっかり怖気付いてしまったようだ。
私は扉から外に飛び出した。衛兵達がここで恐怖に押し潰されては、姫様を守るものは私だけになってしまう。私は衛兵達に向かって叫んだ。
「衛兵殿!わ、我々は帝国軍をはねのけたのですぞ!何を怖気付いているのですか!」
「いや、ディアナ殿、あんな力、見たことありません。あれが我々に向けられたら……」
だめだ、すっかり士気が下がっている。このままでは衛兵達が恐怖心に飲み込まれてしまう。私は必死になって、衛兵達を鼓舞する。
と、その時、クルーズ殿が私に険しい顔で迫ってくる。私は、思わず硬直する。あれだけの敵兵を一撃でなぎ倒すほどの彼らだ。その力を今度はこちらに向けてきてもおかしくはない。私はクルーズ殿のその険しい顔を見て、恐怖を覚えた。私の前で止まったクルーズ殿は、両手で私の肩を掴んできた。急に身体を掴まれた私は、心臓は高まる。
「……失礼!」
そういうとクルーズ殿は私を横にどけ、そのまま私の後ろにある小屋の入り口に入っていく。単に入り口を塞いでいた私をどけたかっただけのようだ。中で彼は、奥に座る仲間に話しかける。
「どうだ、艦からは応答はあったか!?あとどれくらいでここに来られる?」
「分かりません。が、こちらには向かってるようです。」
「そうか……だが、我々はすでに多数の兵を殺めてしまった。もはや超えてはならない一線を超えてしまったのだ。最悪の事態だ、可及的速やかに急行されたし、そう艦に連絡せよ。」
なんだか悲しげな顔で、クルーズ殿は奥に人物に言い残して外に出る。
圧倒的な力であの強大な帝国軍を跳ね除け、歓喜し増長してもおかしくはないはずのクルーズ殿。それが、敵を倒したことをなぜか悔やんでいる様子。険しい顔のまま、外に出る。
私の横を通り過ぎて、林の方を見ていたクルーズ殿は、突然私の方を向いて言った。
「ええと、侍女さん、でしたっけ?」
「は、はい!」
「ここは凄惨な戦場。あなたの姫様は、この惨状に恐怖しているはずです。だから、せめてあなたは姫様のそばにいてあげてください。外のことは、我々がやりますから。」
「はい、分かりました。」
思わぬ気遣いをされた私。クルーズ殿の言う通り、私は姫様のそばに向かう。
姫様は椅子の上でうずくまっていた。私は姫様を抱きかかえる。震えている姫様に背中をさすりながら、私は姫様を慰めていた。
外は静かだ。あれほどの力を見せつけられては、さすがの帝国軍は動くに動けない。クルーズ殿は我々の衛兵達に声をかけてまわっている。
「クルーズ中尉殿!我が艦がもうすぐ到着との連絡がありました!」
小屋の奥にいる人物が、入り口から顔を出してクルーズ殿に向かって叫ぶ。よく分からないが、何かが来たようだ。
「そうか、では、我々の位置を知らせるため銃を発砲する。それを目印に着陸せよと連絡しろ。」
「了解!」
するとクルーズ殿は、腰からまたあの稲妻を撃つ仕掛けを取り出して腕を上げる。バンという音と共に、空に向かって光が放たれた。
目印と言っていたが、援軍でも来るのだろうか?だが、周囲を見回すと、この小屋の周りをぐるりと帝国軍の大軍が囲んでいる。
帝国軍の数は分からないが、公国の援軍を跳ね除けることを想定し、おそらくは1千から2千はいるのではないか?こんな敵の大軍の只中に、どうやって援軍を呼び寄せるのだろうか。だが、彼らにはあの稲妻の魔法がある。あれを使って、再び帝国兵を吹き飛ばすのだろうか?私は、彼らのすることをただじっと見守る他なかった。
帝国軍は息を殺して、こちらの隙をうかがっているようだった。静かな林の中、風の音と、その風で木々の葉が擦れ合う音だけが聞こえてくる。
……が、そこにゴゴゴゴという重苦しい音が聞こえてきた。石切り場で大きな石を引くときのような音。だがそれは、空から聞こえてきた。
「来たぞ!駆逐艦到着!全員、乗艦に備え!」
クルーズ殿が空を見上げて叫ぶ。私は再び外に出て、クルーズ殿が見上げる方向を見た。
そこには、信じられないものが空に浮かんでいた。
それは、灰色の四角い岩でできた何かだった。徐々にこちらに迫ってくる。
だがこの灰色の石はとても長い。我々の真上を通り過ぎてもまだ続いている。まるで石造りの高い塔を横倒しにしたような、そんな長い物が雲のように浮かんでいるのだ。
それはまるで、空に浮かぶ砦だ。いや、我が王国の王宮よりもはるかに大きい。巨大な城と呼んだほうがいいのだろうか?先端には大きな穴が空いているが、おそらくあれは、先程から我々も見ているあの稲妻を発する仕掛けなのだろう。もしあれが火を噴けば、どれくらいの力を発揮するのだろうか?考えれば考えるほど、恐ろしくなる。
帝国軍兵士は空を見上げて、この突然現れた空飛ぶ城に硬直している。我々もその城の出現に、言葉を失った。その巨大な城は我々の真上で止まり、そのままゆっくりと降りてきた。
クルーズ殿は私に向かって叫んだ。
「艦が降りてきたら、うちの乗員と共に30人の兵達が乗り込みます。あなたと姫様、それに私は、この哨戒機で艦に乗り込みます。」
「えっ!?この小屋で!?一体どうやって……」
「こいつも飛べるんですよ。兵達が艦に乗り込んだタイミングで発進させます。」
なんとこの小屋、空を飛ぶことができるらしい。信じがたいことだが、あれだけの大きさの城を空に浮かべられる者達だから、この程度のものを飛ばすなど造作もないのだろう。
ズシンという音を立てて、この空に浮かぶ城が降りてきた。クルーズ殿の仲間が手招きして、衛兵達をこの城が降り立ったところに連れて行く。
城の扉が開き、衛兵達は一斉に乗り込む。それを見たクルーズ殿は、私の手を引き哨戒機と呼ばれる小屋に私を招き入れる。
「じゃあ侍女さん、行きますよ!」
「はい!」
哨戒機に乗り込んだ私とクルーズ殿。クルーズ殿は扉を閉じて、奥にいる人物に向かって叫んだ。
「緊急発進!直ちに離脱!上空にて着艦する!」
ヒィーンという甲高い音が響く。私は窓の外を見た。すると、この哨戒機は徐々に空に舞い上がっている。
我々を乗せたこの哨戒機は、軽々と空高く舞い上がる。取り囲んでいた帝国の兵士達は、徐々に小さくなっていく。
こうして、帝国の追っ手から逃れることができた私と姫様と忠実な衛兵達。だが我々は成り行きで、あの恐ろしい空飛ぶ城に行くことになった。
これからどうなるのか?先が見えない私と姫様は不安を感じながら、哨戒機に乗ってその城の方に向かっていく。