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変わらないことを、願う他にない。

天文部の部室は4階にある。

階段を駆け上がって、4階の角の教室についた頃には息があがっていた。時刻は5時頃、窓からオレンジの光が差し込んでいる。


「ひらすけー?」

「お、ミヤじゃん。今日来ないんじゃなかった?」


言ったのはあっきーだった。

あっきーは天文部ではないけど、いつも入り浸っているから、もう入部すればいいのにと思う。

天文部の正式な部員は二人で、ひらすけと私だけ。入り浸っているのはあっきーで、たまに顔を出すのは、りんりんとあゆむんと、虫ちゃん。

だからあんまりひらすけと二人ってことはなくて、わりと静かにさわがしい(?)のが天文部のいいところ。


「来ないと思ってた。虫鹿とどっか行ってたんでしょ?あと、吉川」

「きっかわぁ?あぁ、そういえば科学のときになんか話してたな。珍しい」


なんで?とばかりに、あっきーとひらすけが私をみる。


「最近ちょっと仲良くなったの。でもほら、ひらすけが寂しくしてるかと思って顔だしてみたんだけどー?」

「俺がいたから寂しくない。だろ?」

「それはそれでなんかきもい」


ひらすけの肩を叩くあっきーの手を、ひらすけは避けている。そういうやり取り、あゆむんの前でしてあげれば喜ぶんじゃないかな。


「さて良介、話の続きするか」

「できるわけないでしょ馬鹿かよ...」

「ん?ごめん私いない方が良かった話?」

「うん」

「ううん」

「回答が割れた」


何の話をしていたのかはわからないけど、人を殺しそうな目でひらすけが睨んでいる。ちょっと申し訳なくなる……いや悪いことはしてないんだけどね!?


なんだか居場所ない感じで凹む。たったさっき、虫ちゃんとはっかちゃんをなんとなく切なく見守ったばっかりなのに。


「ひらすけのすきなやつの話してたんだよ」

「おい安輝!」

「ほーう?やっぱりほら、好きな人いるんじゃん!この癒し系カウンセラーに話してごらん」


最近、恋関係の話多いな。いままでしてこなかったことの方が不思議なのかもしれないけど。

それにしても、ひらすけとあっきーが恋愛トークとな。

あっきーは彼女持ちだから、相談してたんだろう。あっきーの彼女についても、遠距離だってことしか知らないし、本当に友達の恋愛に興味なさすぎか、私。


「だから癒し系カウンセラーってなんだよ。お前それ今朝も言ってたけどさ」

「私ってほら癒し系みたいなところあるから?虫ちゃんも言ってたし」

「ないね」

「まぁ良介。女子サイドの意見も参考にしろよ」


あっきーがにやにや笑う。楽しんでるね。反対にひらすけは本気で嫌がってそうでちょっと面白い。


「どうぞきかせて」

「その前にお前だよ。」

「ん、私?」

「そう。……いないのかよ。好きなひと」

「好きなひと」


そう言われて考えても、全然思い付かない。

クリスマスをはじめとする恋人同士のイベントは、いつも6人で集まってるし、それが楽しい。だから恋人ほしいとかは、思ったことがないかもしれない。6人でいるのが楽しいから。


「君たちが好きだよ私は」

「は?」

「え、怖っ。俺彼女いるんで」

「いや違うよ!そういうことじゃないよ!」


誤解を招いたらしい。にしても怖いってなんだ、怖いって。


「6人でいるのが楽しいから、別に好きなひととか思い付かないかも」

「あー、出たこれ。」

「だからほら、ひらすけの話!」

「あぁ、そうだな」


軌道修正をしようと、あっきーを軽く叩く。ひらすけは頭を抱えていた。そんなに私に話すのが嫌か。確かにひらすけの毒舌って私にきついような……?親しいから、つまり愛ゆえだとポジティブに捉えていたけども、これは考え直す必要があるかもしれない。辛い。


「じゃあ話続けるか。俺は一回告白してみるのも手だと思うぜ?そうでもしなきゃ、意識されないだろ」

「なるほど……」

「相手に恋愛対象として意識してもらうようにするには、遠回しでダメならもう告白するしかない。そもそも完全に友達だと思われてたら遠回しだと気付かれないからな」

「たしかに…」


彼女持ちのリア充の言葉は勉強になるなぁ!

真剣に相槌を打ちながら話を聞いていると、無言のひらすけに怪訝そうに見られる。


「お前やけに真剣に聞いてるけど。本当はいるんじゃないの?誰か思い当たるひと」


本当は好きなひとがいるのでは?ということらしい。

いや違うよ!恋愛対象として意識されないとか、虫ちゃんの女女間の恋愛の参考になるかなって思って!

…とか言えないから、誤魔化すしかないよね。


「今後好きなひとができたときに参考にするんだよ。ひらすけこそ真剣に聞きなよ!あっきー先生のお言葉を」

「俺のありがたいお言葉を聞け」

「うるさい。くそ、チキンのくせに……」

「だれがチキンだこら」

「じゃあ安輝は今の彼女、お前から告白したの?」

「いや、……向こうからだったけど」

「やっぱりね」

「だれがチキンだ」

「言ってないけど。思ったけど。でもさぁ、やっぱり告白したら友達に戻れないでしょ。だから無理」

「ひらすけもチキンじゃん」

「は?」


今日だけで何回「は?」って言われたかな私。

ともかく、あっきーのありがたいお言葉は参考になるかもしれない、とはいえ、告白はハードルが高い。


「やっぱりミヤはさ、星空の下とかで告白されるのが理想?天文部だし」


話をそらしたかったのか、あっきーが言った。外はもう暗くなっていた。そろそろ屋上に出て、天体観測ができるかもしれない。


「たしかにいいね、ロマンチックかも。金星が見える時間に告白したりするのかな」

「ふぅん?まだ一番星の段階ってあんまりロマンとかある?一面星空のほうがいい気がするけど。この時期だとしかも明けの明星だし、早朝に告白か」

「天文部トークわかんねぇわ」


たしかに。やっぱり一面に星が出てる時間がいい。夏に天の川の下とかでもいいけど、冬の澄んだ星空の下もいいかも。


「あっきーはどんな感じで告白されたの?」

「俺は、あー、相手が病気してた時にな。病室で、弱気になって勢いで言ったらしい」

「ドラマあるね」


ひらすけが屋上の鍵を持って立ち上がる。私とあっきーもそれに続いて教室を出た。


「でも俺さ、身近で彼氏とか彼女とかできないでほしいんだけど」

「なんで?自分が遠距離だから?」

「いや、普通にこのメンバーで集まらなくなるだろ。気とか使うし、二人の時間とか大事だろ?」

「あっそれ滅茶苦茶わかる!」


思わず声をあげて賛同する。


本当はずっと思っていた。虫ちゃんがはっかちゃんを好きになって、はっかちゃんと二人で過ごす時間が大切になれば、私たち6人でいることは少なくなる。


もっと考えると同性だし、体育の二人組とかもはっかちゃんと組むってなったりするのかもしれない。帰りに二人で寄り道することもなくなるだろう。

本当はそんなの嫌だ。

でも私のそんなわがままで、虫ちゃんの恋を邪魔するのも違うと思う。私は虫ちゃんの親友として、虫ちゃんの幸せを願いたいのだ。


もしはっかちゃんと虫ちゃんが付き合うと、私の、親友というポジションはどうなるんだろう?


寂しくないなんて嘘だ。わかってる。

好きな人ができても、彼女ができても、虫ちゃんが変わらないでいてくれることを、私は願う他にない。

あぁそもそも、友愛と恋愛って、何が違うんだろう。


秋の、あまり目立たない星たちの下で、ぐるぐると考える。考えてもどうしようもないのに。


「ひらすけにも彼女ができたら、遊んでくれなくなるのかな。虫ちゃんとか、りんりんとかも」

「珠理とか鈴華はそんなことないだろ。彼氏と友達は別だろうし。」

「んー。」


女友達の恋人が『彼女』だった場合はどうなんですかそれ。アウトなんじゃないかな。


「恋愛って本当わっかんないなぁ…」


あゆむんに漫画借りて勉強しなきゃ。

天文部で二人と話しても、やっぱり考えることは虫ちゃんに戻ってしまう。


気にしてない風を装っても、どうしても考えてしまう。

虫ちゃんの好きな人が、異性なら納得できたのだろうか。

虫ちゃんの一番の女子が、自分でなくなったら。

親友ってなんなんだろう、とか。


微かなため息は、あっきーとひらすけの話し声にのまれて消えた。

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