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幸せになってほしいと思う。

虫ちゃんには友達が多い。私は今それを痛感していた。


移動教室で一緒に廊下を歩けば、色々な人に話しかけられているのがよくわかる。繋がりはよくわからない。部活荒しの成果なのか。


今も他クラスの女の子二人に呼び止められている。その横でぼんやりしている私。置いていくと怒るから待っていても、ただひたすらに気まずいだけだ。


誰とでもすぐに仲良くなる虫ちゃんを羨ましいと思うし、少し妬ましさすら感じる。別に虫ちゃんに放っておかれて寂しいわけじゃない。


「バスケ部って活動活発じゃん?忙しくなるとなぁ」

「えー、フットサル部やめたんでしょ?いいじゃん!珠理バスケ上手いし!入りなよ~」


部活の勧誘のよう。

確かに虫ちゃんは運動ができる。でもコイツ2週間しか持たないよ。飽きっぽさでは右に出るものはいないと言われている気まぐれだよ!

そう言ってやりたいのを抑えていると、突然虫ちゃんに肩を組まれた。


「部活やると親友が拗ねるからねぇ。ね?」

「ん、んん。全くだね、部活と私どっちが大事なのよ!」


反射的に乗ると、虫ちゃんもなんとなく満足げだった。なんでだ。


「あぁ、ミヤちゃんが拗ねるんだ?」

「なら仕方ないか~」

「そういうことで、また遊びには行くから」

「オッケー待ってるわ」


うまく話はまとまったらしい。向こうはどうやら私を知っていたみたいだった。


「なんだったんだ…」

「流石ミヤ、乗ってくれる気がしてた」

「骨髄反射といいますか」


二人で科学室を目指す。ゆっくり階段をおりている時。スマホに目をやった虫ちゃんが叫んだ。


「わ、もう時間がやばいよミヤ!あと2分」

「走れば全然、……あ」


大丈夫、と言いたかった。私は自分の手元を見る。

筆箱、ノート、世界史の教科書。

虫ちゃんに教科書を見せる。固まる虫ちゃん。


「次は科学ぅ!」

「だよね!?世界史じゃないよね!?間違えた!」

「おらミヤ走るぞー!教室に戻れー!」

「ぎゃああ…」


二人して階段を駆け上がる。少し周囲の目が痛い。さっき話した二人組もまだ廊下でたむろしていて、なんで?と言わんばかりにこっちを見ている。


「ミヤが馬鹿で!教科書間違えるから!」

「大きい声で説明しなくていいじゃん!」


みんな、なるほど、みたいな顔をするんじゃないよ。

自分の教室に戻るとチャイムが鳴った。完全に遅刻である。


「あ。もう急いでも仕方ないな、ゆっくり行こう」

「そういうわけにも…よいしょっ」


カバンから教科書を発掘すると、虫ちゃんは呑気に自分の席に座っていた。私の忘れ物に付き合ってくれたのはありがたい。

私は虫ちゃんの席の横にもたれる。遅刻中だけど。


「ミヤのせいで遅刻したって言うから平気!」

「虫ちゃんが勝手についてきたんです~」

「おお?ついてきてあげたのに、ミヤさん感謝が足りてないんじゃないかぁ?」

「虫ちゃんの方が、私がいないと寂しいくせにぃ?」

「いやいや、絶対ミヤの方があたしのこと好きだよ。違いない」

「言ってろ」

「まぁお互い様」


私と虫ちゃんしかいない教室で、いつものように軽口を叩き合う。それを私は楽しいと思うし、きっと虫ちゃんもそうだ。

虫ちゃんがいるから、高校生活がこんなにも楽しいんだろう。だから私は、この親友に幸せになってほしいと思う。


「こんなことしてる場合じゃないわ、急ご」

「えぇーめんどくさい」

「ほら立つ!行くよ!」


虫ちゃんを引っ張って、再び科学室を目指す。

一人だとつまらないことでも、虫ちゃんと一緒ならきっと楽しくなる。多分、虫ちゃんの才能なんだろう。それはとても、羨ましい。


「二人で遅刻なら怖くない!」

「しーっ、授業中!」


廊下で叫ぶ虫ちゃんに言いつつも、私も全然怖くない。

科学の先生に怒られて、ひらすけにも怒られて、りんりんにあきれられたって、全然懲りない。


「虫ちゃんのせいだからね」

「いや、これはミヤのせいだから!」


何してても楽しいって思っちゃうのは、虫ちゃんのせいだからね。

仕返しに、はっかちゃんと虫ちゃんを仲良くさせちゃう作戦を実行するべく、私はこっそり計画を練る。

今日は部活に出るつもりだったけど、やっぱりやめよう。私の所属する天文部は、普段自由参加の緩すぎる部活です。大丈夫大丈夫。


すこし先生にあきれられて(またお前らか、と言われたのは解せない。そんなに遅刻とかしてないし?)、なんとなく授業をこなした。出席番号的に、大体は虫ちゃんと同じ班だから、授業中もまぁ騒がしくなる。科学が別に嫌いじゃない、むしろ好きなのは、この班だからなのかなぁ、とか、思ってみたりして。


授業が終わってすぐ、私は言った。


「虫ちゃん、クレープ食べてかえろう」

「おおー?なになに、二日連続でデートのお誘い?昨日誘ったのはあたしだけど」


虫ちゃんは少し驚いていた。確かに、私から誘うことってあんまりないかも。いつも虫ちゃんに振り回されてばっかりだし。


「まぁね。もう一人誘いたいんだけど、いい?」

「ん?いいけど、一人?鈴華たちじゃないってことか。誰?」

「はっかちゃん」

「はっかちゃん?……まさか、まさかだけど。吉川の初花のこと言ってる?漢字が初花だからはつか、はっか、みたいな」

「よくわかったね。正解」

「ミヤお前ぇ!行動早すぎない?!」

「虫ちゃんの推理力もなかなかだと思うよ」


絶句してしまった虫ちゃんを放置して、まだ班で片付けをしているはっかちゃんに近づく。はっかちゃんと同じ班だったらしいあっきーが、「なんだよ?」と話しかけてくるけど、別にあっきーに用事はない。


「はっかちゃん、放課後空いてる?」

「え?うん、空いてるけど」

「今朝のお礼!クレープ奢るから食べに行かない?」

「ミヤ!?」


後ろでわたわたする虫ちゃん。これが恋する乙女か。相手も乙女ですが。

はっかちゃんはやっぱり少し首をかしげて、


「あれくらいいいのに。でも誘ってくれて嬉しいから行きたいかも」


と言う。はっかちゃんゲットだぜ。


「虫ちゃんも一緒だけど。三人で行こう」

「うん。なんか宮田さんも虫鹿さんもあまり話したことないから不思議ね」

「たしかに、もう10月も半ばなのにね。普通に珠理でいいよ!あたしも初花って呼ぶし」


混乱が去ったらしい虫ちゃんが嬉々として言う。あまり話したことなかった、というのが意外だった。このコミュ力おばけも好きな人にはぐいぐい行くのをためらうのかもしれない。


「ミヤのこともミヤでいいよ」

「虫ちゃんがいうのね。いやいいんだけど」


三人で階段を降りる。途中でひらすけに「おいお前、部活は?」と聞かれたけど手を振っておいた。

虫ちゃんのレモン色の自転車と、私の紫の自転車に加えて、はっかちゃんの白い自転車。いつもとは少し違った放課後。


「ミヤのおごりだよね??初花はなに食べる?」

「奢るのははっかちゃんのだけだからね!虫ちゃんは自腹だよ」

「えー?」

「イチゴ…イチゴチョコかな」

「あ、初花もイチゴ派なんだ。すいませーん、イチゴチョコと、イチゴカスタードと、ツナサラダください」

「まとめて頼んでんじゃないよ」

「今度は奢るから」

「覚えててよ」


クレープ屋さんのお姉さんに微笑ましそうに見守られつつ、お金を出すと、虫ちゃんとはっかちゃんがクレープを受け取った。私は虫ちゃんの手を経由したツナサラダを少しかじる。ほんのり生地の甘さがいいね。甘いのもいいけど、ツナサラダもおいしい。

近くのベンチに、私、虫ちゃん、はっかちゃんと座った。


「なんか不思議だね」


言ったのははっかちゃんだった。


「たしかにね!初花とあんまり話したことなかったし」

「でも仲良くなりたかったから、ラッキーかな」


ふふ、と笑うはっかちゃん。隣の虫ちゃんがこっちを向いた。うんうん、よかったね。わかるよ。いまのは普通に私も嬉しいわ。


「ん」

「はい」


虫ちゃんが少し食べたクレープを渡してくる。私もツナサラダを渡す。するとはっかちゃんが言った。


「二人、いつもそうなの?」

「ん?なにが?」

「クレープ、交換するの」

「あぁ、そうそう。いっつもあたしがツナサラダで、ミヤがいちごカスタード!お互い2、3口相手の食べて返すみたいな?」

「すごい喋らず自然にやってたから。やっぱり二人は仲良いね」

「んー?別にそんなでも」

「なにぃ、ミヤ照れなくてもいいじゃん~」


ニヤニヤしながら小突いてくる虫ちゃんがいつも通りうざい。というかお前、好きな子の前で、いいのかそんなんで。


「あ、初花もツナサラダ食べる?」

「いいの?じゃあ私のも、はい」


私にも回ってきたので、いちごチョコもいただく。これもこれでおいしい。


「放課後に遊ぶのって久々かも」

「はっかちゃんなにか部活してたっけ?」

「ううん、何もしてないけど、いつも真っ直ぐ家に帰ってるかも」

「え、じゃあなんか部活入ればいいじゃん!」

「この時期から?」

「どの時期でも」

「部活荒しは、そりゃあ時期とか気にしないだろうけどね」


普通の人は気にするんだよ、わかれ。

荒らしてないよ!と反論してくる虫ちゃんは自覚が足りてない。


「ふふ、だから楽しい」

「また誘うから遊んでね!」

「本当?嬉しい」


これは、わりといいのではない?私の今日の作戦は成功なんじゃないかな。

あとは私が去って、いい感じに虫ちゃんが頑張れば。


「このあとどうしよ。どこか行く?」


いいタイミングで虫ちゃんが切り出してくれたので、私は作戦を続けようと思う。


「私また学校戻って天文部覗いてくるから」

「ええー?天文部なんていっつも駄弁ってるだけじゃん?」

「まぁそうだけど!」


察してって。君の恋を応援しているんだよ私は。君たちを二人にしたいの。察して!


「だからほら、あとのことは二人で考えて。」

「まじか、ミヤお前、まじか!」


語彙力を失っている虫ちゃんを放って、私は自転車に跨がる。


「はっかちゃんありがとね、またね!」

「あぁ、うん!私こそ」


二人に手を振り、自転車を漕ぐ。

天文部に行くっていうのは口実で、普通に面倒だし家に帰るつもりだったけど。

ちらりと後ろを見ると、虫ちゃんとはっかちゃんが何かを話して、笑っている。


なんとなく、やっぱり天文部に行こう。きっと虫ちゃんはうまくやる。どううまくやれば女同士で恋愛感情が生まれるかはわからないけど。


虫ちゃんは楽しい。だからきっと、はっかちゃんも虫ちゃんを気に入るはずだ。

二人の様子が気になりつつも、私は学校を目指した。ひらすけたちとどうでもいい話をしよう。


別に、楽しそうな二人を見て、寂しくなったとかじゃないけど。

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