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彩幻  作者: 新流晃夜
14/17

14話


夕刻、遙秀は耀弥に付き添われ司法を司る部署を訪ねた。

 内容が内容だけに、遙秀は、すぐさま外から鍵のかかる房に入れられた。

 視線を交わすだけの別れが、耀弥の胸のうちに、ことりと音を立てた。

 遙秀の証言をもとに、すでに各所が調査を始めているはずだ。主犯と、計画に加担した者は全員、二日とたたずに捕えられるだろう。

 証拠・証言が揃い次第裁判が行われて、全ての罪は暴かれる。

 状況や実際にどのような協力をしたか、目的を知っていたか否か、委細漏らさず洗い出す。

 そしてほぼ確実に、悟諸は流刑を免れない。右腕ともいえる遙秀も。

 地界へ落され、二度と天の地を踏むことは叶うまい。

 耀弥の中に言いようのない焦燥が生まれた。

 地界への流刑は、満月の夜に行われる。

 ひと月のうち満月の一日だけ、帝だけが、月の扉を開けられる。

(次ではない……)

 もう月は半ばまで満ちている。逆算して月が満ちるまでおよそ七日。七日で全ての罪状を明らかにするのは難しい。なにより証人の大半は北に住んでいる。

 順調に進めば刑の執行は翌月の十五日か、遅くともその翌月。

 順調に、進まなければ――?

 今回の計画は遙秀が要だった。

遙秀無しに悟諸の計画の証明は出来ない。

耀弥姫用の食事は毒見が続いているが、もう事件は解決したも同然と、女官たちは完全に緊張を解いた。住みなれた西の宮に戻る日も近いと、私物をまとめる者まで出てきている。

 翡翠の箸と並んだ料理を見比べ、浮かんできた最悪の事態に総毛立った。

「蓮星……」

「なにか、お気に召さないものがございましたか?」

 耀弥は厳しい顔で料理を見たまま動かない。

「今遙秀の口をふさげば、もしかしたら事件の委細は有耶無耶になるかしら?」

 蓮星の表情がみるみる強張った。

「私が食事を始めたばかり。遙秀にはまだ出されないはずよ。すぐに人をやって」

「畏まりました」


 半月が天頂に差し掛かった時刻、房から連れ出された遙秀は、庭園の小さな東屋に通された。

 蓮を模った灯篭に火が入れられている。

「遙秀」

 植え込みの影から現れた人影に一瞬身を引いた遙秀だったが、見慣れた顔に肩の力を抜いた。

「耀弥」

「危なかったわね」

 耀弥の予想通り、遙秀に出されるはずの食事には毒物が混入されていた。遙秀はすでに計画の全貌を告白している。あとは裏付け調査を残すのみだ。それでも悪あがきをせずにはいられなかったのだろう。

 遙秀はわざと皮肉っぽく言ってみた。

「危機感が足りないんだ。『もう何もしないだろう』『きっと大丈夫』皆が皆そうだと勝手に思い込んで、そうやって平和呆けしているから、悟諸みたいな奴が行動を起こすまで、誰も気づかないんだ」

 前の遙秀の考え方だった。にこにこ笑って真面目に働いていれば、中身までまともな人間だと誰も疑わない。自分がそうだからだ。

「そうね。だけど私、思うのよ。平和呆けして何が悪いって」

「…………」

「だって帝や朝廷って、民を平和呆けさせるためにあるんだもの」

 東屋の柱の影から、耀弥が肩にかけられるほどの布袋を差し出した。

「行きましょう」

 耀弥は刺繍をほどこした絹の靴ではなく、武骨な革靴を履いていた。


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