14話
夕刻、遙秀は耀弥に付き添われ司法を司る部署を訪ねた。
内容が内容だけに、遙秀は、すぐさま外から鍵のかかる房に入れられた。
視線を交わすだけの別れが、耀弥の胸のうちに、ことりと音を立てた。
遙秀の証言をもとに、すでに各所が調査を始めているはずだ。主犯と、計画に加担した者は全員、二日とたたずに捕えられるだろう。
証拠・証言が揃い次第裁判が行われて、全ての罪は暴かれる。
状況や実際にどのような協力をしたか、目的を知っていたか否か、委細漏らさず洗い出す。
そしてほぼ確実に、悟諸は流刑を免れない。右腕ともいえる遙秀も。
地界へ落され、二度と天の地を踏むことは叶うまい。
耀弥の中に言いようのない焦燥が生まれた。
地界への流刑は、満月の夜に行われる。
ひと月のうち満月の一日だけ、帝だけが、月の扉を開けられる。
(次ではない……)
もう月は半ばまで満ちている。逆算して月が満ちるまでおよそ七日。七日で全ての罪状を明らかにするのは難しい。なにより証人の大半は北に住んでいる。
順調に進めば刑の執行は翌月の十五日か、遅くともその翌月。
順調に、進まなければ――?
今回の計画は遙秀が要だった。
遙秀無しに悟諸の計画の証明は出来ない。
耀弥姫用の食事は毒見が続いているが、もう事件は解決したも同然と、女官たちは完全に緊張を解いた。住みなれた西の宮に戻る日も近いと、私物をまとめる者まで出てきている。
翡翠の箸と並んだ料理を見比べ、浮かんできた最悪の事態に総毛立った。
「蓮星……」
「なにか、お気に召さないものがございましたか?」
耀弥は厳しい顔で料理を見たまま動かない。
「今遙秀の口をふさげば、もしかしたら事件の委細は有耶無耶になるかしら?」
蓮星の表情がみるみる強張った。
「私が食事を始めたばかり。遙秀にはまだ出されないはずよ。すぐに人をやって」
「畏まりました」
半月が天頂に差し掛かった時刻、房から連れ出された遙秀は、庭園の小さな東屋に通された。
蓮を模った灯篭に火が入れられている。
「遙秀」
植え込みの影から現れた人影に一瞬身を引いた遙秀だったが、見慣れた顔に肩の力を抜いた。
「耀弥」
「危なかったわね」
耀弥の予想通り、遙秀に出されるはずの食事には毒物が混入されていた。遙秀はすでに計画の全貌を告白している。あとは裏付け調査を残すのみだ。それでも悪あがきをせずにはいられなかったのだろう。
遙秀はわざと皮肉っぽく言ってみた。
「危機感が足りないんだ。『もう何もしないだろう』『きっと大丈夫』皆が皆そうだと勝手に思い込んで、そうやって平和呆けしているから、悟諸みたいな奴が行動を起こすまで、誰も気づかないんだ」
前の遙秀の考え方だった。にこにこ笑って真面目に働いていれば、中身までまともな人間だと誰も疑わない。自分がそうだからだ。
「そうね。だけど私、思うのよ。平和呆けして何が悪いって」
「…………」
「だって帝や朝廷って、民を平和呆けさせるためにあるんだもの」
東屋の柱の影から、耀弥が肩にかけられるほどの布袋を差し出した。
「行きましょう」
耀弥は刺繍をほどこした絹の靴ではなく、武骨な革靴を履いていた。




