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4.

 「キリア。本当に、大丈夫?熱とか、ない?」


 「ええ、平気です。さっきから言うように、ただの低血圧ですよ。」


 薄金色の絹糸のように柔らかく、ふわふわなシアリスの髪をキリアは丁寧に結っていた。シアリスはとても可愛い。贔屓目なしに本当に可愛らしくて、10人中10人が美少女と言うのは間違いないほどだ。お人形のように大きく垂れ目がかった瞳に、それを縁取るまつ毛はくるりとカールし、白桃色の頬はマシュマロのように甘い香りがする。

 加えて、150センチも満たない小柄な身体は庇護欲に駆られてしまう。


 前髪を斜めに編みこんでいき、左横の髪も一房ほど取って三つ編みにして耳にかけた。小さな細いリボンを先っぽに結び終えると、ちょっとした達成感が湧く。


 「出来上がりましたよ、シアリス様。」


 「キリア、すごく楽しそう。」


 「だってシアの髪を綺麗に出来たから。」


 そう言うやいなや、キリアはピクリと動作が止まる。

鏡台の鏡ごしでシアリスと目が合うと、なんとも言えなくなってしまう。しかし当のシアリスの方は、いつもはあまり動かない表情が柔らかく笑んでいる。


 「…キリアがわたしのこと、呼び捨てにした。」


 「それは、つい…。申し訳ございま、」


 ブラシを鏡台の上に置いて謝ろうとすると、その手をゆっくりと取られる。


 「謝っちゃいや、もっと言って?様付けなんて、やだもん。」


両手でキリアの手の甲を掴むと、シアリスはそのまま唇をつける。ゆっくりと伏せられた瞳が再び開くと、こちらの顔を伺うような顔をする。


 「…シアリス様、それは男性が女性に対して行う行為です。」


 「キリアは、女の子だもん。問題ないよ。」


 「シアリス様も正真正銘の女の子です。」


 「じゃあ、様付けと敬語やめて。」


 「それは無理です。」


 「足の甲にキスする。」


 「何でそう下手に就きたがるんです。」


 「わたし、敬われるの、嫌い。敬う方が、好き。」


 ぷくっと頬を膨らませて、こちらを見上げるシア。そういうものは男性にするものである。キリアは反応に面食らいつつ、それを隠すように、シアリスの前髪にささっと髪どめをとめる。突然過ぎたのか、シアリスはびくっと縮こまった。


 「キリア、いきなりは、びっくりする。」


 「それはこちらの台詞です。」


 少々むすっとした顔を浮かべていたが、興味が髪どめに移ったのか、ポンポンと髪どめに触れる。


 「この髪どめ、どうしたの?前からあった?」


 「アリス=ブレットのファンが渡してくれと言ってきましたので。」


 「…そういうのは、直接渡すべき、なのに。」


 「とか言って、シアは貰ったものは礼儀正しくつけたりするよね。」


 「だって、ものに罪はないもの…。キリア、そんなところで、呼び捨てにしなくてもいい。」


 再び不機嫌になって、ぷいっとそっぽを向くシア。

何となく笑いがこみ上げてきそうだったが、何とか堪えて懐から懐中時計を取り出した。



 「アリス、そろそろ時間だわ。行こう?」



 8時前。8時半にはHRが始まる。

いつもどおり、寮から出る時間帯だ。


 「そうね、マリア。」


 シアリスはくっと伸びをすると、互いのカバンを手に取り、キリアに手渡した。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 ライトメリッツは一学年に約300名ほど在籍し、その多くは寮に住んでいる者たちばかりだ。それはキリアとシアリスも例外ではなく。

 1年前からこの生活を送ってきたが始めの頃はそりゃ大変であった。何せ学校での二人の関係は、昔からの幼なじみ。それはまあいいのだが、問題は二人とも偽名、しかも出身まで偽っていることだ。



 「ああ!マリア、アリスおっはよー!」


 廊下を歩いていると、朝から元気で大きな声が聞こえてきた。


 「マゼンタ、おはよう。」


 振り向かなくてもわかる。朝からなぜこうも清々しくいられるのだろうか、キリアがいつも本当に疑問に思うところだ。


 「なによぅ、マリア。あんたいっつも朝っぱらから辛気くさいんだから。睡眠足りてるー?それに比べてアリスは今日も可愛いわよねぇ。きゃあああ今日は編みこみ?!超可愛いいい!!ほっぺたスリスリしたいいい。」


 本当になぜなんだろうか。何で朝からこんなにテンションが高いんだろうか。


 スリスリしたいとかなんとか言っておきながら、既にすりすりしているマゼンタを見つつ、されるシアリスはまたかという顔。


 「マゼンタ、教室に、入りたい…。」


 シアリスは見ようによっては潰されそうになっており、何とか意思を伝えていた。これはちょっと助けてあげよう…。


 そう思うやいなや、下の階の方から甲高い黄色い悲鳴が響いてくる。その声の量は否応なしに大きくなり、どんどん近づいてくる。

 キリアはさり気なく視線をそちらに向けた。


 今日もお待ちかね、例の方たちのお出ましのようである。



 「ノア様ああああ!!」


 「今、リュシアン様がこちらにお向きなさったわ!!!」


 「ヴァネッサ嬢は今日もお美しい…っ!!」



 まるでパトロンのように一途な者たちだとキリアは思う。その類まれな美しさを褒め称えたくなるのは分からなくはないのだが。


 キリアが今年に入って最初のクラスは2学年Aクラスである。ライトメリッツでは中間考査ごとにクラスを割り振られる。クラスは全部で8段階。上から順にSS、S、A、B、C、D、E、F。

 一クラスだいたい50人。だが上位3クラスは例外で、考査によってはクラス編成の人数も変わっていた。


 ただでさえあの熾烈な受験戦争を勝ち抜いてきた者達である。考査となればそれはもうハイレベルなんてものではない。実を言うとキリアもこれまでの1年、ちょっとばかり泣きそうになった…。毎日予習復習を重ね、今年になってようやく勝ち得たこのAクラス。


 しかしその中でもっとも高いSSクラスのメンバーは揺らぎがない。トップを独占し続けている。その意味不明な天才集団たちが、今まさに反対校舎の渡り廊下を歩いている見目麗しい方たちである。


 これが才能というやつなのか…。

エナシスタにいた時は、ライトメリッツなど甘ちゃんな貴族様たちが通う金持ち学校などと馬鹿にしていた。実を言うと。

 井の中の蛙とはよく言ったものである。




キリアとシアリスが校内にいるとき、周りの子たちは「マリア」「アリス」と呼びますが、キリアもしくはシアリスの脳内ではそのまま表示でいきたいと思います。

こんがらがってしまったら、すみません。

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