03 回想
小鳥のさえずり。窓から差し込む朝日。ふかふかのおふとん……から目覚める日がくるはずもなく、
「エイミー!起きてくれっ!!ゲホゴホッ」
ドンドンドンドンッとやかましく扉を乱暴に叩く音。
「に、にいさんっ!?」
慌てて飛び起きて扉を開くと、頭上から顔面蒼白のバカ兄貴……失礼、トラブルメーカーのセルディさんが降ってきました。正確には、倒れてきました……かな(とっさの判断で身を引いて下敷きになるのは回避したけれど)。とりあえず落ち着こう。私はいかにも具合が悪そうな兄さんをやっとの思いで起こし、体を支えて、仕方なく先ほどまで寝ていた布団に寝かしつける。
「……で、何の用?」
「相変わらず、エイミーは短気だなあ」
布団の上で未だ休んでいる兄は視線をこちらへ向けると目を細めて笑った。
「誰のせいでしょう?」
「うぐっ」
誰のせいで、爽やかな朝を邪魔された挙句に心臓に悪い出来事を早朝から体験しなければならなかったと思っている。世間では美しいだのキレイだの強いだの騒がれている兄も家ではこんな感じだ。なんという残念感。妹(私)に言い負かされている。
「頼むっ!エイミー、一生のお願いだ。俺の身代わりになってほしい。実を言うと……」
「断る!!」
「まだ聞いてないじゃないか!」
「一生のお願いナンドメデスカ?」
「目が笑ってないぞー、おにいちゃんこんな子に育てた覚えはないぞー」
「育てたのは両親です。嘘をいわないでください」
「茶番はこれくらいにして、実をいうとだな……明日、国の者が勇者を迎えに来る。自分としては勇者という立場上、行かねばならない。我が国に迫る脅威である魔王の討伐をしなければならないからだ。だが、俺は行けない」
「え……なんで?」
勇者の迎えが明日くる、家に。勇者だから兄貴は行かなければならないけれど、向かえない??
「俺には生涯をともにしたい相手ができたからだ。魔王の討伐なんてそう容易くこなせるものじゃない。命の危険が傍に付きまとう。守りたい相手がほかにいるというのに、そんなところで死にたくはない。そこで……だ。容姿、声、背丈がそっくりな上に俺のことをよく知っている双子の妹、エイミーよ。この通りだ。勇者(俺)を演じてほしい」
今までにないほどの鬼気迫る表情で深々と布団の上で土下座し始める勇者。これが真の勇者かなどとぼんやり考えてしまうほど、衝撃的な頼み事で私は硬直する。
「結論から言うと……無理。私強くもないし、バレたら困るのって私でしょう?兄貴はいいよ、私一人不利な条件。そんなの一方的にのめるわけない」
「勇者のフリをするというのなら……」
「いうのなら……?」
「俺が直々に剣を教えよう」
「ほんとっ!?」
なんという安請け合い。剣で兄が負けるのを見たことがない。しかし、女という立場のせいでまともに剣なんて触らせてもらえなかった私。村一、いや国一番の剣の腕前の勇者に直々に剣術を学べるチャンス。私は気づけば……
「今日から私が勇者です!」
首を縦に振って、力強く頷いているのだった。