⑨ードラゴン
「…疲れたぁ」
初日の授業が終わり、俺は自分の机に突っ伏していた。初日でしかもあんな事があった後だった事もあり、疲れてしまったのだ。
「マサくん、帰ろ〜」
アイサはそんな俺に声をかけてきた。
「…あぁごめん。俺もう少しこうしときたいから」
「大丈夫?」
「大丈夫だって、少し休んだらマシになると思うから」
「そっか、じゃあ私、先帰るね〜」
「あぁ、気をつけてな」
そして俺は突っ伏しながら、彼女に言った。
どれくらい時間が経ったのだろうか。気がついたときには、もうすでに空が緋色に彩られていた。
「…やばいな、早く帰らないと」
俺はそう呟いて、机から身を起こした。少し休んだおかげで、疲れも少しはマシになった。そして俺はかばんを持って教室を出ようとした。その時、教室の中で人の気配がした。
ふと見ると、開かれた窓の側に女の子がいた。
「…君は、誰だ」
「……」
彼女は何も答えない。短い黒髪に、整った顔立ち。その顔は緋色の夕陽に照らされてる。
「…ルイナ」
「へ…あ」
ふいに彼女が喋った言葉に、俺は戸惑ってしまった。
「…私の名はルイナ」
彼女ールイナは自分の名前を口にした。そして俺は彼女が続けざまに言った言葉に衝撃を受けた。
「私はドラゴンだ」
「な、何⁉︎」
俺は彼女が言った言葉に驚きを隠せなかった。それもそうだ、彼女は自分をドラゴンだと言ったのだ。そんなことを聞かされて驚かない奴はいない。
「何言ってんだ、てかお前どっから入って…」
俺は机に突っ伏してはいたが、さすがに扉が開いたりすれば気づく。しかし、そんな物音は一つもしなかった。ならいったい、どうやって……。
「信じていないようだな、ヒトの子よ」
そう言うと、彼女は俺に背を向けた。すると、彼女の肩のあたりが盛り上がり、黒い羽がが姿を現した。
「な…⁉︎」
「どうだ、これで信じたか」
彼女は驚く俺に可笑しそうに微笑んだ。
「あ、…あぁ」
にわかには信じ難いが、こんなものを見せられては信じるほかない。
「…いったい、なんなんだお前」
俺は彼女にそう問いた。すると彼女は不思議そうな顔をして言った。
「さっき、言ったではないか。ヒトの子よ、まだ若いのにもうボケがきているのか?」
「んなわけあるかッ‼︎」
俺は彼女の言葉に思わずつっこんだ。
「そうじゃなくて。なんでドラゴンが、ヒトになっているのか聞いてるんだ」
「…あぁ、ならそうと初めから言わぬか。勘違いしてしまったではないか」
彼女はそう言って、羽を身体の中にしまった。いったい、どんな身体のつくりしてんだよ。
「知らねえよ。そんなこと良いから俺の質問に答えろ」
「そうだな。しかし、実は私もよく分からないのだ」
「は?」
「私は生まれつきこういう身体をしているのだ。それ以外は何も知らん」
そう彼女は言ったが、俺には意味がわからなかった。ドラゴンがヒトの姿をしているなんてそんなことありえない、はずだ。でも俺の目の前にはそいつがいる。
「…ならいいよ、もう。諦めた…」
俺はため息を吐いて、そう言った。考えれば考えるほど疑問が山積みになっていくから。それにさっきの疲れがまたぶり返してきた。
「そうか。なんだ疲れたのか」
「…おかげさまでな」
他人事だな、おい。
そう俺が思っていた時だった。急に教室の扉が開いて、長瀬先生が入ってきたのだ。
「…何してるの、風見君。もう下校時刻過ぎてるから早く帰りなさい」
「…あ、はい」
俺はそう言うと、ルイナの方を振り返った。「…あれ?」
しかしそこには彼女の姿はなかった。彼女が入ってきたであろう窓も閉められていた。
夢だったのかな。いやでも、俺が見たあの光景は今も俺の目に焼き付いている。でも、それじゃあ彼女はどこに…。
「…どうしたの。大丈夫?」
そんな俺に先生は声をかけてきた。
「…大丈夫です。すぐに下校します」
俺は仕方なくそう言って、教室を出た。あのままあそこにいても無駄だったからな。
俺が学園を出た頃には空はもうすでに日が暮れて、暗くなり始めていた。
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