⑥
その頃、学園の最上階にある校長室では、校長が体育館各所に設置した監視カメラの映像を見ていた。
彼は笑っていた。しかし、その笑顔にはなんの感情もこもっていない。まるで人形のように作られたような笑顔をしていた。
彼は見ていた。あの少年を。9年前、自分が親子共々殺したはずの少年を。
「…生きていたとはね」
彼はさっきより大きく笑った。しかしその笑顔はまるでさっきと異なり、子を見る親のような優しい笑顔だった。
「やはり、君を選んで正解だったよ」
彼は言う。
自分の子供を見るような目と笑顔で。
彼一人しかいない校長室で彼は笑っていた。
俺が竜剣を向けた瞬間、ドラゴンたちは襲い掛かってきた。俺は自分の前にいた何体かを撃った。弾はドラゴンたちの胸を貫いたようで、そいつらは小さな悲鳴を上げ倒れ伏した。
「…よし」
俺は小さくガッツポーズをした。腕は衰えてないようだ。
周りを見てみると、生徒は一人、一体ずつで交戦しているみたいだった。今のところ、誰も負けていないみたいだ。
俺は周りを見渡してアイサを探した。アイサのことだからやられないように逃げ回ってんじゃないか。というのもアイサは昔から争いごとが嫌いで、闘いや、ましてやケンカなんてした事が一度もないのだ。そんなあいつがこんな闘いに耐えられる訳がないのだ。
「…いた、って‼︎」
そう思っていた。その光景を見るまでは…。
見るとアイサの前でドラゴンがひざまづいていた。
そしてアイサは何をしているかというと……
「よしよし、いい子いい子だね〜」
ドラゴンの頭を撫でていた。飼いならしているのか、嘘だろ⁉︎
俺はアイサに近づいて、呼んでみた。
「…おーい、アイサ」
他の奴らが闘ってるってのに呑気なもんだと自分でも思った。そしてアイサはこちらを振り返った。
「あ、マサくん〜」
相変わらず緊張感のない声だな。
「…お前、何してんだよ」
「いやね、私、この子と闘いたくなくってね〜」
「…それで?」
「私の能力で、この子のなかの敵意を鎮めたんだよ」
「……」
すげえな、こいつ。敵を自分になつかせるとか、凄すぎだろ。てか、アイサの周りだけ空気違うくないか。
「この子、ドラちゃん、て名前にしたの。かわいいでしよ〜」
アイサはそう言った。でも、こいつもドラゴンだ。アイサの能力でおとなしくしているが、もし能力を解除したらまた襲ってくるかもしれない。そうなれば、彼女の身が危なくなるだろう。俺はそのドラゴンに刃を向けた。
「ダメだよ、マサくん‼︎」
そうアイサが叫んだ。その時の彼女の言葉にはいつもより力がこもっていた。
彼女は続けて言った。
「この子はもうひとは襲わないよ、だってこの子はただ怖かっただけなんだよ。だから止めて上げて‼︎」
「でも、もしそいつがお前を襲っ…
「そんなことしないもん‼︎」
彼女は目尻に涙を溜めて言った。こうなると、聞かないからなあ。全く。
「分かったよ」
俺はため息をついて、そう言った。
これ以上続けたら、絶対こいつ泣いちまうもんな。しかも彼女の前にいるドラゴンは彼女が泣きそうなのを察してか、彼女の顔をぺろぺろと舐めていた。
「…あはは、止めて、くすぐったいよ〜」
こんなところ見せられたら、倒すなんて言えねえよ、全く。
それからは俺たちは壁際に座って休んでいた。アイサはさっきと同じくドラゴンをあやしていた。かくゆう俺は他の奴らの闘いを見ていた。別に見ても面白くはないが、暇つぶしにはなるだろう。
「…もうずいぶん、減ってきたな」
見ると100体以上いたドラゴンもすでに10体以下になっていた。それと同様に100人以上いた生徒たちも半数以下になっていた。多分、その半数以上は逃げ出したか、やられたかしたんだろう。
「…ふあぁぁ〜」
なんもすることがなくなったら、眠くなってきたな。まあ、しばらくは動きないっぽいし、寝ちまうか。
そして俺は自分に襲い掛かってきた睡魔になんの抵抗もせずに飲まれていった。