②ー幼なじみとの再会
家を出た俺は全力で駅に向かった。たぶん今までの人生でこんなに走ったのは初めてだと思う。小中学校の時だってこんなに走ったことはない。それも仕方ない。だって高校生になって初めての登校日なのに寝坊して遅刻しました、なんて笑えねえだろ。
「…とにかく、早く、電車に」
俺は全力で走りながらそう呟いた。
俺は黒木 正樹、17歳。黒髪に黒い瞳のごくごく普通の容姿。そして今これからの高校生活を決める重要な試練に立ち向かっている。
走りながら時計を見るともう電車が来る5分前だった。
「やべぇよ、これ‼︎」
もう疲れてきた。でももし止まったら、確実に電車に間に合わねえ。でもこのまま走っても、間に合わねえかも…。
て、なに弱気になってんだ俺‼︎これはこれからの高校生活を決める重要なものなんだ、そんなこと考えるより走れよ‼︎
そして俺は時間ギリギリでなんとかその電車に乗ることができた。
「…よかったぁ、間に合って」
深呼吸をしながら、俺は呟いた。いやぁ、電車が駅に着いてたときはビビったわ。
「…もしかして、マサくん?」
そんな俺に誰かが声をかけてきた。振り返ってみると、そこには俺と同じ制服を着た女の子がいた。黒髪で端が小さく結ばれ、透き通るような白い肌。淡い翠色の瞳。とてもではないが整った顔立ち。黒縁のメガネをかけている。胸が大きく、あとはすらっとした体躯。それは俺にとって見知った相手だった。
「よう、アイサ。久しぶりだな」
「なに言ってんの、マサくん。この前会ったじゃない」
「そうだっけ」
「まさか、もうボケてきちゃったの?」
「んなわけあるか‼︎」
俺は彼女にツッコミを入れた。
この俺と小漫才をしている彼女は笹木 愛紗、俺の幼なじみだ。彼女は俺と母さんがこの黒川市に引っ越してきた時のお隣さんの娘で、同じ年だったということもありよく一緒に遊んだりしたものだ。しかし父親の仕事の関係で隣の市に引っ越してしまい、それから一度も会っていなかった。
「でもよかった」
「何が?」
「いやさあ、もし久しぶりに会ったお前が変わってたらって。でもよかったよ、なんも変わりなくて」
「えぇ〜、変わってると思うけど〜」
「いや、変わってないよ」
まあ、あえてゆうなら、上半身部分がとても変わったが、言ったら怒られるだろうな。
そんなことをしていると電車は俺たちが向かう黒川学園前の駅に停車した。そして俺たちはその駅に降りた。
いよいよという感じがした。これから俺の高校生活が始まるのかと思うと、とてもワクワクした。これからの高校生活が過酷なものだとも知らずに。