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23  食み合う闇と闇

 雨季の途中ではあるが、珍しく晴れ間がのぞいたその日も、ガイア帝国の皇宮はまだ骸骨魔王と同化され、占拠されたままだった。


 その不気味な光景は普段と変わらない。変化は皇宮の周囲で生じていた。


 ガイア皇宮の周りには九百に及ぶ魔が展開しており、その上空には二十体の、戦え! 超魔法生命体メタモル・フォーマーが集結していた。


「ヘイ!」


「ヘイ!」


「ヘイ!」


「ヘイ!」


「ヘイ!」


「ヘイ!」


「ヘイ!」


「ヘイ!」


「イボンコ、ペッタンコ!」


「ヘイ!」


「イボンコ、ペッタンコ!」


「ヘイ!」


「イボンコ、ペッタンコ!」


「ヘイ!」


「イボンコ、ペッタンコ!」


「ヘイ!」


 重力場の上に立つ十九体のメタモル・フォーマーが手を打ち鳴らし、唱和を重ねる度、その中心にいるイボンコの出力が、空間が歪み、軋むほどに増大し、重力の大渦が荒れ狂っていた。


 メタモル・フォーマーの総司令官であるイボンコは、他の同胞と同調する機能を備えている。つまりは、共にいるメタモル・フォーマーが多いほど力が増すのだ。


 現時点の最高出力での重力場は、その足元で最も巨大な建築物を完全に押し潰さんばかりの広大な範囲に及び、


「ウオオオオオッ!」


 雄叫びと共に、歪曲どころか、歪みが渦巻く空間の異常が降下し、皇宮全体が軋み、骸骨魔王が金切り声、いや、悲鳴を上げるほどの超圧力を加えていた。


 無論、いくら束になろうとも、メタモル・フォーマーたちのみで、魔王に対抗できるものではない。

が、前回と同様、皇宮は地下からファドルドヤーの攻撃を受けているとなれば話は違う。


 それでも、暗黒皇帝が地脈に手を加えて局地的な地震を起こす程度のものなら、上下の挟撃も充分に防げただろう。が、今回のファドルドヤーは周囲の地脈をねじ曲げ、皇宮の下に集約させて、そこに集まる大地のエネルギーを上に向けて放出するという、前回とはケタ違いの荒業をやっているのだ。


 ねじ曲げられた地脈が、後でこの地にどれだけの悪影響を及ぼすかわからないほどの荒業だけに、ファドルドヤーの攻撃は上の圧力の比ではなかった。


 下から打ち上げられる膨大なエネルギーは、とても骸骨魔王のみで耐えられるものではない。前回の戦いで七百前後に減った手勢を総動員し、骸骨魔族が一丸となって、たった一人の人間とどうにか渡り合う。


 また、骸骨魔王も伊達に今の姿になったわけではない。巨大な質量は、それ自体が高い防備となる。加えて、その質量は闇に汚染されてより強固な建築物と化している。


 何より大きかったのは、その建築物の内で大量の人間が死んだ点だろう。血と怨念は闇にとって最高の苗床であり、魔のモノと化した宮殿は、ファドルドヤーとその作品の攻撃をしのいではいた。


 が、魔はすでに崖っぷちで踏ん張っているようなものなのだ。


 ガイア皇宮の正門の前に降り立ったナインリュールが、全長百メートルはあろうかという、九つ首の黒い巨龍に変身し、魔の抵抗を一気に打ち砕く。


 九つの口から吐き出された九条の火線が、まるで炎の大蛇のごとく、皇宮の内を駆け巡る。


 石は燃えないが、炎と熱で脆くなる。また魔力に満ちた炎に包まれ、骸骨魔族が次々と倒れていき、建築物に染み込んだ闇も焼き払われていく。


 三度、九つの龍頭から炎が吐かれると、強度が落ちたガイア皇宮はまず、上からの重力波に耐えられなくなり、ついに巨大な建築物は崩壊を始め、次いで砕かれた地盤が大量の瓦礫を呑み干す。


 ほとんどの骸骨魔族が、瓦礫に押し潰されるか、大地に呑み砕かれるかする中、三つのドクロがくっついた姿に変わり果て、一挙に弱体化した骸骨魔王と、八体の爵位級と上級が辛うじて崩れる皇宮からの脱出に成功する。


 もっとも、その最後の九体は滅びる場所が少しずれただけにすぎなかった。


 ナインリュールの吐いた炎が九体の魔を捕らえ、八体があっさりとケシズミと化す。


 弱体化しても骸骨魔王だけは炎を闇で防いだが、


「暗パンチ」


 飛んで来たファドルドヤーの右ストレートが命中すると、


 バイバァ……


 異界の知識を元に、超衝撃と呪詛を複合した暗黒皇帝のオリジナル魔法は、数百メートルは吹っ飛ぶ最中、呪いで定められたワードを強制的にしゃべらされるというものだが、すでに骸骨魔王にそれに耐えるだけの闇は残されていなかった。


 呪いのワードの途中、百メートルほど殴り飛ばされた辺りで、衝撃に耐えられなくなった骸骨魔王は四散する。


 もう無力化しているが、ナインリュールは背中の六枚の翼を羽ばたかせ、骸骨魔王が四散した地点まで飛び、炎を吐いて四散した闇を焼き尽くしておく。


「何だ? これで終わりか? 我々をさんざん苦しめ、何万、いや、何十万もの犠牲を出した悪魔が、こんなにあっさり、と? これは何の茶番だ?」


 完全に崩壊し、廃墟と化したガイア皇宮の正門前の広場、そこで一方的な戦いを見せられ、セリエールはただ呆然となり、勝利の喜びが毛ほども湧いてこなかった。


 彼女の側にはミルシースとジンだけではなく、ズン、そして人の半分くらいスライム、ザンの姿もあった。


 それだけではなく、皇宮の周囲には、ファドルドヤーの召喚した九百体の悪魔が配置されていたが、魔人三人衆も含めて出番のないまま戦いは圧勝に終わった。


 骸骨魔王を討ち、骸骨魔族を滅ぼすのに全戦力を投入せず、総力を尽くすこともなく、何よりカスリ傷ひとつ負わず、子供ふたりと二十体のメタモル・フォーマーは、正門前の広場に結集する。


 ミルシースやジンが礼や労いの言葉をかけるより早く、ナインリュールは切迫した表情で告げた。


「邪神の脅威が迫っている。約束のモノを今すぐもらいたい」



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