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1  悪魔との遭遇戦

「聖なる石よ! 不浄なる存在を滅する光となれ!『ホーリー・ライト』!」


 朗々と響く詠唱が完成し、掲げた半透明な小石が弾けて消えると、生じた白い光を浴び、十に近い黒い骸骨が音も無く崩れ散る。


 聖石術、光の結晶を用いて、回復や加護、あるいは浄化など、様々な奇跡を行使する術は、聖職者たちの独占市場であり、黒い骸骨たちを消し去ったのは、当然のように白馬に跨がる聖騎士だった。


 年の頃は十六、七、驚くべきことに、その若さに加え、白馬に跨がる聖騎士は女性、かなり美しい乙女であった。


 腰まで届く金色の髪、エメラルドグリーンの鋭い瞳、ほっそりしているが同時に強いしなやかさを感じさせる肢体、見事なまでに白い肌、整い過ぎるまでに整っているキレイな顔立ち、正に「美貌」と称すべきレベルだ。


 そのあまりに素晴らしい中身ゆえか、身にまとう使い込んだ剣と鎧、長い間、首から下げていたであろう聖印も、まったくみすぼらしく見えない。


 そして、彼女が見かけだけの存在でないのは、数少ない聖石術の使い手であるだけでも充分だろうが、その女性の聖騎士ミルシースの才は、それだけではなかった。


「聖なる石よ! 神の僕たる刃に光を満たせ!『ホーリー・ブレイド』!」


 ミルシースは腰に下げる細身の剣を抜き放ち、聖石を用いて、その刃を純白の光で包むと、白馬の腹を蹴り、黒い骸骨の群れ、悪魔たちに斬り込んで行く。


 神聖なる力を宿す刃は、容易く黒い骸骨を斬り裂き、彼女の優れた技量もあって、まるで光のムチを操るかのごとく、速くしなやかな動きで、たちまち数体を斬り伏せたが、いかんせん悪魔たちの数は三十を超え、彼女ひとりではその全てを倒し尽くすのは不可能であろう。


 彼女ひとりならば。


「皆よ、聖騎士殿に続け! 悪魔たちを駆逐するのだ!」


 再び馬上で少女の声が響き、槍を持ち、鎧で身を固める女騎士セリエールが、愛馬を疾駆させ、聖騎士の後に続く。 ミルシースと同じ年頃であろうセリエールは、夕日色のセミロングの髪、明るい茶色の瞳、生真面目そうな表情の中にも、年相応の愛らしさを残す、凛々しくも可愛い娘であったが、彼女もミルシース同様、容姿が優れているだけの乙女ではなかった。


 馬を走らせ、槍を振るい、黒い骸骨たちを次々と砕いていくセリエールは、手にする武器をいつもと逆、穂先で突くのではなく、石突きを悪魔たちに向けている。


 血肉のない黒い骸骨たちには、ミルシースのような芸当ができない限り、刃で突くより何かで叩く方が有効なためだ。


 それゆえ、二人の女性と二頭の馬に続き、自らの足で悪魔たちへと走る三十人弱の男たちは、全員、手に棍棒を持っており、それで殴りかかって行く。


 もっとも、二人の少女と違い、何かしらの鍛練をしてきたわけではない男衆は、基本、三人一組で戦うよう、ミルシースから厳命されている。ミルシースとセリエールが強すぎるだけで、最弱の悪魔でさえ完全武装の兵士より強いのだ。最近まで戦いや武芸とは無縁の生活を送って来た男衆は、三対一で手傷を負いながら優勢に戦うのが精々だが、一人だけ例外がいる。


 年の頃は十四、五、中肉中背、黒い髪に茶色の瞳、気弱そうな印象を受ける表情を浮かべており、十人並みよりはいくらか優れた外見をしているが、容姿や体格で彼より勝る男なら、この場に何人といる。


 中肉中背の若者ジンがこの場の誰よりも勝っているのは身体能力であり、丸太のような最も大きい棍棒を持つ彼は、一振りで悪魔の二、三体を軽々と砕いてのけ、その破壊力とペースは、ミルシースやセリエールさえも上回るほどであった。


 ミルシース、セリエール、ジン、この三者が悪魔を圧倒し、矢面に立って多くを引き付けているおかげで、他の者は悪魔一体に三人以上で戦え、人は魔に優位を保ち続きられた。


 やがて、三十体ばかりの、小型の黒い骸骨の群れを、ミルシースたち三人、正確には三人と二頭が突破すると、後方にいた五体の大鎌を持った大柄の黒い骸骨と、剣と盾、鎧で武装した黒い骸骨が、彼女たちに向かって動き出す。


「聖なる石よ! 不浄なる存在を滅する光となれ!『ホーリー・ライト』!」


 ミルシースは馬を止め、六体の悪魔に聖なる光を浴びせるが、簡単に蹴散らせたザコたちと違い、黒い骨に大小いくつかのヒビが走るものの、倒すまでには至らない。


 それでもダメージは確実に与えたところに、セリエールとジンが突っ込む、ふりを見せる。


 幾度か戦った経験から、鎌を持つ黒骸骨は、初手で口から毒ガスを吐きかけてくるからだ。


 案の定、フェイントに引っかかって、パターン通り毒ガスを吐いて無防備な姿を晒す悪魔たちに、毒ガスが届かね位置から、セリエールとジンは槍と棍棒を投げつけ、黒いドクロが二つ砕け散って、まずは二体を沈める。


 無論、武器を投げた二人は素手となるが、セリエールは愛馬にくくりつけた予備の槍を手にし、ジンは大胆にも大きめの石ころを拾って殴りかかって行く。


 また、ミルシースも光に包まれた剣を持ち直し、馬を悪魔たちへと躍らせる。


 大柄な黒骸骨らの動きは鈍重かつ大雑把で、軽く大鎌の攻撃をかわすと、ジンは手にする石で魔を殴り砕き、セリエールも槍を振るって二体を相手に優勢に戦う。


 が、剣を手にする黒骸骨はそう容易い相手ではなく、動きは素早い上、剣と盾を操る所作も洗練されており、馬の足を止めさせられたミルシースは、馬上で剣を振るい続けるも、中々、黒い骨に輝く刃が届かない。


 悪魔の個体差と強弱は、人のそれよりはるかに広範に渡る。一例としてこの場にいる悪魔たちは、小柄なタイプが最下級に、大柄なタイプが中級に、そして武装している黒骸骨は上級に分類される。特に、ミルシースとほぼ互角に、斬撃の応酬をしている悪魔は、毒ガスを吐くなどの特殊能力が一切ないにも関わらず、上級の位にいるほど、純粋な戦闘技能が高い。


 それと一人で渡り合っている女聖騎士の実力の高さは言うまでないが、そのミルシースとセリエールの腕に大差はなく、ジンに至ってはこの両者より魔を倒した数で勝るほどなのだ。


 並の騎士よりは強い中級の悪魔が、大して長い時を必要とせず、ジンの手にする石ころで砕かれると、彼は投げた棍棒を拾ってから、セリエールの相対する魔の片方に殴りかかり、あっという間に打ち砕き、その間に女騎士も、もう一体を突き砕く。


「ボクはミルさんを助けます。セリさんは他の方の援護をお願いします」


 ジンの言葉にセリエールはうなずき、二人は別々の魔へと駆け出す。


 実のところ、もはや人の勝利は確定したも同然であった。ミルシースと互角に渡り合っているところにジンが参戦するのだ。いかに上級悪魔でも如何ともし難く、棍棒の一撃を食らった直後に輝く刃に斬り裂かれ、あっさりと滅び去る。


 残った小柄な黒骸骨数体も、数で勝る人間たちにじわりじわりと追い詰められていたところにセリエールが加わり、これまたあっさりと全滅する。


 目の前の悪魔たちが全て砕け散ると、一人を除いて男たちはその場でへたり込み、荒々しく呼吸を繰り返すが、


「しばし休息を取れ。傷の深い者は申し出よ。私が治す。だが、その後は目的地まで休み無く進むぞ」


 ミルシースが馬上で指示を出す一方、セリエールも馬から降りず、ジンと共に周囲の警戒に務める。


 二人の少女とて肩で息をしており、疲労が見て取れるが、まだ休むわけにはいかなかった。


 傷の深い者は早めに治しておかねばならないし、いつ悪魔と遭遇するかも知れないので、周囲の警戒は絶対に怠れない。


 あれだけの激しい戦い後でも、安心して休むこともできないが、今は甘いやり方で生き残れる状況ではないのだ。


 悪魔の来襲によって、壊滅状態にある、ガイア帝国の北岸部においては。

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