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18  謀略の裏側

「カリウス殿下、リュードファンとの和解したフリをし、またコーラスとの和解の仲立ちの労を取ってもらいたい。さすれば、ファドルドヤー自らに援軍を率いさせる話がまとまります。連中を悪魔と戦わせ、共倒れさせるか、弱ったところを討てば、リュードファンは滅び、レイラ姫を助け出せましょう」


「ナインリュール殿下、陛下が自らが援軍を率いたなら、カリウスは兵を収めるだけではなく、一時的にコーラスとの停戦も成りましょう。当然、カリウスは陛下を殺さんとするでしょうが、それを逆手に取ればその背信を咎め、カリウスを捕虜に出来ます。外交的に優位に立てる他、どう処理するも貴国の自由ですよ」


 神に仕えし十七歳の乙女は、両国が共に悪魔と戦えるよう、二枚舌を駆使した。正確には、ナインリュールと組み、カリウスをだまして祖国を売り渡したと言えよう。


 そうして形だけの連合軍を結成したが、所詮は形だけのシロモノでしかなかった。互いが互いを警戒したまま、互いを出し抜く余力を残して戦い、最後は人と人が潰し合い、魔を討ち果たせずに終わった以上、女聖騎士の賭けに敗れたようなものだ。


 彼女が見誤った原因は、リュードファン帝国の酷い内情を把握していなかった点と、戦え! 超魔法生命体メタモル・フォーマーや魔人三人衆の教育方針を知らなかった点だろう。


 破綻を前提とした共闘は、完全に修復が不可能となっている。カリウスを石にして捕虜としただけでは不充分だからだ。


 骸骨魔族との決戦の後、再集結できたリュードファン軍千八百は、予想していた裏切りに対する報復として、帰国の途上、ファドルドヤーの力を以てしてガイア帝国の南部の町を三つほど焼き払い、大規模な略奪のみならず、軍規を一時的に解き、民間人への殺傷と婦女暴行を許可して、兵士たちを野獣のごとくハッスルさせた。


 ちなみに後発のリュードファン軍千二百は、旧バモス連合王国の亡命者たちの不意討ちを受け、半数を失う損害を出したが、これはナインリュールの予想していたものだから、十二歳児は別段、痛くもかゆくも感じなかった。


 痛いではすまない大損害は、ザンが行動不能となった点だろう。


 骸骨魔王の頭ひとつとの死闘に、辛くもミルシースらが勝利したので、ザンのわずかな残量は保護できた。スライムである魔人は、一片でも残っていれば、そこから復元できるが、それには時間を必要とする。建国したばかりのこの時期、当面、ザンの見識と手腕を欠くのは、千百人の質の悪い兵を欠く以上の損失であった。


 十七歳の小娘の策に乗り、少なからぬ損失を出したリュードファン帝国は、そこに神聖コーラス教国からの再侵攻を食らい、大いに兵と民を失う結果を与えてやった。


 神聖コーラス教国がガイア帝国の仲立ちがあったとはいえ、リュードファン帝国と停戦したのは、一度、国境から兵を引き、再侵攻の準備を整えるためであった。


 それほどコーラスの西の国境地帯は、リュードファンの赤き僧衣作戦でぐちゃぐちゃにされているのだ。


 西の国境沿いにあるコーラスの教会は、悪魔の群れを率いたメタモル・フォーマーの襲撃を受け、殉教者こそ少なかったものの、酷い略奪と徹底的な破壊に見舞われた。


 意図的に殺されなかった神官たちは、被害の回復を計るべく、その地の民からしぼり取るように多額の寄進を行わせ、過酷な労役を課して教会の再建に取り組んだ。


 過労で死者が出たり、子供を売り払わねばならないほどの神の試練に、不平不満を募らせる民衆に、リュードファン帝国は武器を供与して扇動し、大規模な暴動を起こさせ、神官たちを血祭りに上げさせた。


 ナインリュールはガイア帝国に対しても、同じような手を使ったが、それだけ怒り狂った民衆というのは、ゲリラ戦力として有効なのだ。


 彼らはそこの地理に詳しく、何より日常を壊された怒りに突き動かされて命がけで戦う。そして、苦境にあって視野が狭くなっており、そのはけ口を求めているので扇動が容易だ。他にも、地元の人間ゆえ親類縁者が多く、一人の死から復讐の連鎖が起き易いし、そうして死者が出るほど敵国の国力が低下する。


 工作や扇動の手間を考えても、正規兵と違って給金もいらなければ、遺族への補償も不要である。安物の武器ひとつで働いてくれるのだ。利用する権力者からすれば、命のバーゲンセール状態というもの。


 大神バストウルの御名の元、聖戦を発動して大軍を以てリュードファン帝国を攻めたコーラス軍は、赤き僧衣作戦に加え、暗黒皇帝が思いつきで作った魔法を何度も食らい、兵と民、さらに神官も合わせれば、一万人近い団体が、大神バストウルの御元への片道キップを手にすることとなった。


 この戦局を打開するため、停戦期間中に軍を再編して、コーラス教国は七千三百の大兵を用意した。


 国境では相変わらず暴動が続いているが、リュードファン軍はメタモル・フォーマーと兵を内乱鎮圧に向け、守りを手薄にしているが、十二歳の帝国宰相は脇の甘い子供ではなかった。


 そもそも、三ヵ国のトップの内、今回の停戦の全体像を把握していたのは、最年少者だけなのだ。当然、コーラスとの破綻も想定して、日々、抜け毛をためていたが、それだけではその時のナインリュールの怒りは収まらなかった。


 激情の赴くまま、兄の異界の知識より伝え知った物の一つ、射出砲台に変身した帝国宰相は、八個の大岩をコーラス軍七千三百の頭上に降らし、百人以上を圧殺すると同時に、その数十倍の兵を落下の衝撃で吹き飛ばした後、五十本以上の黒きドラゴンが来襲し、神の尖兵たちにトドメを刺しただけでは、無論、すまない。


 ナインリュールの八つ当たりで、混乱の極みにあった数千のコーラス軍は、黒きドラゴンの群れを目にしただけで逃げ散ってしまい、帝国宰相の労苦の証はそのまま近隣の村や町を襲って回ることとなる。


 かくして、神聖コーラス教国は抜け毛のせいで千や二千ですまない信徒が死ぬこととなり、今も日々、方々で弔いの鐘が間断なく鳴り続けていた。


 凄惨なる神聖コーラス教国の光景も、しかしガイア帝国の現状に比べればマシであろう。


 帝都ギアに骸骨魔王が来襲し、ガイア皇帝を始め多くの者が殺され、二十万の帝都の臣民が逃げ出すはめになったガイア帝国を思えば。


 骸骨魔王に同化され、巨大な皇宮が魔宮と化し、そこに千体強の骸骨魔族が集結した後、魔による直接の害はなくなった。が、間接的な被害は目を覆わんばかりであった。


 まず、家と日常を失った二十万の帝都の臣民が、日々の糧を求めて、弱き者や近辺の集落を襲う暴徒となった。


 皇帝と皇太子がいなくなり、皇族と貴族が集まって、この状況をどう乗り切るかを話し合う席で、利害面や感情面での対立が発生して、それが大規模な内乱へと発展した。


 人が人を殺し、魔の存在などそっちのけ。それが皇帝不在のガイア帝国の惨状であった。


 正確には、ガイア皇帝が不在と言うべきだろうか。


 その地には、弟によって帰ることができなくなった暗黒皇帝がいるのだから。



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