表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

土曜日

 またしても梅雨の中休みなのか、空はきれいに晴れ上がった。朝の心地いい風のおかげで胸のつかえが、吹き飛ばされたようにも感じる。

 朝食を食べていると、母親が声をかけてきた。

「最近、彩乃ちゃんに会っているの?」

「ああ」

「昨日、彩乃ちゃんのお母さんに会ったわよ」

「大変らしいね」

「そうね。でもね、思い止まることにしたんだって」

「えっ? 本当に?」

「夜に電話が会ったんだけど、彩乃ちゃんがご両親に相当怒ったみたい」

 怒った? 彩乃が?

「離婚するなら、家を出てくって。どちらにもついていかないって」



 そっか、ちゃんと言えたんだな……



「それでね。彩乃ちゃんのお母さんがあんたに迷惑かけてごめんなさいって。それから彩乃ちゃんを今後もよろしくって」

「そっか……」

「あんた、彩乃ちゃんに何かしてあげたの?」

「僕はなにもしてないよ」

「ふーん」

 母親はそれ以上なにも言わなかった。



 ・・・



「いってきます」

 家を出た瞬間、面食らう。

 制服姿の彩乃が家の前で立っていた。

「おっそーい!」

「あ、彩乃!?」

「学校遅刻するよ」

「お前はなにをしている?」

「学校一緒に行こうと思って待ってたのに」

「一緒? 待っていた?」

「学校で会いたいって言ったじゃん」

「たしかに言ったけど……」

「結構、休んでいたから一人で学校行くの恐くて……」

 そうかもしれないが……

 一緒に登校なんかしたら……



 ・・・



 西村彩乃。頭脳明晰の美少女。黒髪のストレートで、縁のない眼 鏡をかけている。性格は控え目なのだが、容姿と成績のせいで、い つも目立った存在になっている。クラスの中心グループに属してい る。

 そんな彼女が僕と一緒に登校なんかしたら……


 案の定、教室につく頃には噂はクラス中に広まっていた。



『西村に彼氏が出来たらしい』

『彼氏じゃなくてただの幼なじみらしい』

『学校休んで彼氏と遊びに行っていたらしい』



 もはや、説明するのもアホらしい噂までたっていた。

 噂の真相を確かめようと、知り合いでもない奴に声をかけられる始末だ……

 何人かにはからかわれたが、もはやどうでもいい……

 彩乃が不登校だったこと心配する人は多くいたが、僕との噂のおかげで突っ込んで理由を聞く人間はいなかった。それだけは幸いだと思った……



 ・・・



 放課後の職員室、いつの間にか恒例になった状況報告を前田先生にしていた。

「ご苦労様。君の働きは期待以上だ」

「僕はなにもしてませんよ」

 前田先生は笑みを浮かべながら言った。

「それでいいんだよ」

「そんなものですかね?」

「西村は学校に来るようになった。結果はそれ以上でもそれ以下でもない」

「はあ……」

 前田先生に聞いておきたいことがあった。たぶん、彩乃は教えてくれないだろうから……

「前田先生」

「なんだ?」

「なんで彩乃はわざわざ僕と噂になるようなことをしているのでしょうか?」

 前田先生は少し考えた後、口を開いた。

「これは私の憶測だけど……。聞かれたくないことを聞かれないようにするためじゃないか?」

「聞かれたくないこと?」

「誰だって身内の嫌な部分は知られたくないよな。噂を立てることで聞かれたくないことを隠したってわけだな」

「なるほど。しかし、乱暴な方法ですね。それだったら僕を巻き込まなくてもいいのに」

「仕方あるまい、君に対する嫌がらせも兼ねているのだから」

「嫌がらせ?」

「君は噂になったり、からかわれたりするのが嫌なのだろう」

「嫌です」

「西村はそこまでわかってやっていると思うぞ。言うなれば君に対する仕返しだなだな」

「仕返しって」

「昔、自分を無視した君に対する西村のささやかな復讐だよ」

「全然、ささやかじゃないですよ!」

「そうか? わたしには言うほど嫌そうにみえないけどな」

「そんなことないです」

 断じてそんなことない。

 好きだと言ったのは幼なじみとして好きというだけで……

「ここにいたー!」

「彩乃?」

 彩乃が勢いよく職員室に入ってくる。

「ちょっと前田先生と二人でなにしてるの?」

「なにって、なんだ。べつになんでもない」

 ビックリしたー。心臓の鼓動が止まらない。

「前田先生~まさか生徒に手を……」

「出さんわ!」

 彩乃は僕を正面から見据える。

「な、なんだよ?」

「帰ろう。駅前のクレープ屋さん行こうよ」

「クレープ?僕は甘いの苦手なんだけど……」

「なに言ってるの。行くよ!」

 彩乃は僕の手をつかむと無理やり引っ張って職員室出ていく。

「痛い、痛い」

「じゃあ、ちゃんと歩け!」



「そうだちゃんと歩くんだ。歩けば必ずたどり着く。そこに幸いがある」



「前田先生何か言いました?」



「お幸せにな」



「なんですか?それは……!」



 僕は彩乃に引っ張られなが、職員室を後にする。

 ふと見つめた彩乃の横顔が苦渋に歪んでいるように見えた。

「わかった、行くから引っ張らないでくれ」

「本当?」

 僕の見間違いかな?今は満面の笑みだった。

「ああ、復帰祝いだおごってやる」

「やったー! じゃあ、ミックスフルーツデラックスにアイスクリームをトッピングで」

「あ、いや、チョコバナナくらいでお願い」

「えーやだー」

「こずかいが……。ええい、なんでもこい!」

「やったー」

 今月はジリ貧だーー



 ・・・



 クレープをほうばる彩乃を見ながら、僕もクレープをほうばる……

 

「甘いな……」



 僕は彩乃と一緒にいたいと思った。その願いは叶った。僕にとってはハッピーエンドなのかもしれないと思った……




 今の状況は彩乃にとっては理想ではない……





 それでも彩乃にとってもハッピーエンドだといいなと思ってしまう僕はやっぱり自分勝手なんだろう……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ