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水曜日

 放課後、前田先生に昨日の一部始終を話、無事プリントを渡したことを報告する。

「うむ、ご苦労様。助かったよ」

「内申書の件、よろしくお願いしますよ」

「現金な男だな。君は」

「そもそも、それが条件だったじゃないですか」

「幼なじみの可愛い女の子が悩んでいるのにだんまりか?」

「彩乃が何に悩んでいるのか知りませんが、関わる気はありませんよ。どんな悩みも自分で結論を出すしかないって言ったのは先生ですよ」

前田先生は目を細めて、僕に視線を合わせる。

「な、なんですか?」

「なるほどな。わかった」

「何がわかったのですか?」

「西村の悩みを教えてやろう」

「え?」


 ・・・


 彩乃が不登校になったのは両親が離婚の話を切り出してからだそうだ。

 彩乃の両親はもうずいぶん前から不仲が続き、最近は父親も家に帰ってこない日があのだそうだ。それでも両親は彩乃が大きくなるまでは離婚を思い止まるつもりでいたのだが、今年の春に事態は変わった。父親が仕事で海外転勤が決まった。

 別居になることをきっかけに両親は離婚を決意したのであった。

そしてあろうことに両親は綾乃に日本に残って母親と暮らすか、父親と海外で暮らすかの選択を迫った。

 そして、彩乃は……


 キレた。


 ・・・


「酷い話ですね」

「そうか?君は元友達で嫌いになった奴はいないか?」

「そりゃあいますけど……」

「そいつと一緒にいたいか?」

「嫌です」

「そう言うことさ。人は変わるし、心が離れてしまうこともある」

「だからって、彩乃の気持ちは?」

「両親も今まで我慢していた。自分の娘のためにね」

「そんな身勝手な。彩乃のせいにして被害者ズラですか?」

「ご両親も西村に君と言ったようなことを言われたそうだ。ご両親から相談があった」

「そうですか……」

「変な話をしてしまったな。忘れてくれ」

「いえ……」

「いずれにしても、これで君の役目は終了だ。ありがとう。内申書の件は任せておけ」

「あ、ありがとうございます……」


 憂鬱だ。たぶん、鬱陶しい雨のせいだ。

 彩乃と話をしなくなった理由を僕は覚えている。僕が彩乃を拒否した。小学生の時、彩乃と一緒にいるとクラスの友達に冷やかされた。それが嫌だった。それだけのことだった。

 本当にいまさらである。入学式の日も、今年の春のクラス替えの時も彩乃に声をかけることができなかった。本当は彩乃に声をかけたかったのだが……

 それでも彩乃のことを考えると無性にイライラした。あいつは高校を辞める気なんてないんじゃないだろうか。両親を、周り人間を、困らせているだけなのでは。悲劇のヒロインを演じているだけなんじゃないのか……

 気がつけば、彩乃の家の前にいた。

 鬱陶しい雨に打たれながら、彩乃の部屋がある辺りを見上げる。



 そのまま、どれくらいの時間が過ぎただろうか。



 10分なのか、一時間なのか、僕にはわからなかった。



 もしかしら、彩乃がまた扉を開けてくれること期待していたのかもしれない。







 しかし、扉が開かれることはなかった……

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