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【短編】thanks~6文字の手紙~

作者: 小鳥我 悟

thanks.

茶色い便箋の中に入っていたのは6文字の手紙だ。差出人は東京に住む一人息子からである。その便箋の中には、息子が中学生の頃に私が買ってあげた財布が共に入っていた。夫はこの手紙を見て悟ったらしい。目からポロポロと涙がこぼれている。去年、息子は大学を留年した。それからは、元気で未来への希望で輝いていた性格はみる影もなくなってしまった。外見から負のオーラが感じられる様になった。

「もし、来年もうまくいかなかったら自殺するよ。」

息子は笑いながら言っていた。私と父は冗談だと思っていた。結末から言えば、息子は今年もうまくいかなかった。大学で単位の合否が掲示されてから息子と連絡がとれなくなった。勿論、私たちは連絡がつかなくなってから3日後に、警察に連絡した。しかし、警察が家に到着した時には、真っ白な部屋の電気が無く、部屋の中には息子の姿はなかった。

 それから、1週間と4日の事だった。海岸に打ち上げられた死体に関するニュースが流れた。身元は不明であった。冷たくて不快な汗が頬をつたった。警察に連絡する。息子と様々な特徴が一致した。それからは終わるまで一直線だった。本当に1秒、1分、1時間が短かった。49日まで終わった後に覚えていた事は息子がどこの浜辺に流れついたか位だった。

 火災で間違いなく死んでしまう高さから飛び降りてしまう方がいる。それは後ろから火の手が上がっている切迫感から地面が近く見えてしまのだ。勿論、火災のせいで地面がせりあがっている訳では無い。息子の背中には、どれだけの火の手が上がっていたのだろうか。そして、私たちははしご車としての役目を果たせていたのだろうか。終わった事だが悔やんでも悔やみきれない。

 今、息子の流れ着いた海岸にいる。また、夜も暗くなりぽつぽつと雨が降っている。このような初春の海辺には私と漁師さんぐらいしか見向きもしないだろう。片足を海に入れてみる。身を切るような冷たさだ。息子はどれだけの決意を固めてこの海に漂ったのだろうか。思った以上の冷たさに決意が曲がりそうになる。そのまま前進する。腰の所まで海水がくる頃になると体が波の力によって前後に揺れ、冷たいが何分も浸かっていると私の体はじょじょに慣れ始める。まるで私の体を海が受け入れる準備をしているようだった。また、しばらく前進して肩の位置まで海水がきた。ここまできたら後は足を海底から離すだけだった。もう少しで私は海の藻くずの一つになれる。そんな時に思い出したのは、私の両親の事だ。本当に感謝してもしきれない。私も息子にならって手紙を出すべきだったと海に半ば漂いながら後悔する。目から涙が自然とこぼれ、すぐに大海と同化する。色々な場所に心中で感謝と反省を述べ足を離す決意をした。そして、私は身をまかせたのだった。ただ、その時に何かに引きとめられた気がした。多分、二人分の力だった。

 目が覚めると真っ白な天井が見えた。私の寝ているベットの横には夫も寝ており涙で小さなプールが出来ているようだった。苦しんでいたのは私だけではなかったのだ。これからは夫と2人きりの生活になる。息子のいない人生なんて私にとって過ごす価値のないものだと思っていた。しかし、生きている事が大切なのだ。息子を失ってから私には笑顔が失われていた。しかし、明日からは笑い、そしてありがとうと自殺を止めてくれた夫に対し精一杯伝えたい。そして、息子には手紙には伝えられないものがあると生きている内に教えてあげたかった。

初投稿です。さっくり読めると思うので、良かったら感想お願いします。


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