其の肆、敵襲ですか!?
本日、快晴なり。
「つまんねえなあ」
そう、あたしはすこぶるつまらなかった。
今日は塾もお休み。
(自分の都合で勝手に休みにする)
だから、やることがない。
紫で遊ぼうと思って歩いていたら、どうやら今日は、お琴発表会 (?)らしかった。
縁側に座って足をぶらぶらさせてれば、どこからともなく足音が近づいてくる。
「師匠!」
振り向けばミッチェル。
ああ、そんなドラマ、昔やってなかったっけ。
「師匠も琴おやりになるんですか?」
嬉々として隣に座ったミッチェルに、煙管片手にあたしは答えた。
「やんないよあんなの。向いてないもん」
座って琴弾いて、それをオカズ (?)に酒飲むんでしょ?
……やってらんねー。
ぶわあっと煙を吐いて、そんな中心にいる紫を眺めるあたしは、既に、平安京の風流な趣きに飽きていた。
「流石は師匠!流されないんですね!」
「まあ、そうっちゃそうかもだけど」
あたしが言うのもなんだけど、あんた大丈夫?
仮にも貴族のご子息様が、そんなこと言っちゃってていいの?
まあ……そんなんだからうちの塾に来てるんだよね。
あんた、出席率100%保持者だもんね。
ある意味すごいよ、ミッチェル。
あたしの珍しい思考を知ってか知らずか、ミッチェルは相変わらず感嘆していた。
あーつまらん。
あ、パチンコでも作るか。
「ミッチェル」
「はい?」
「こう……ワイ字になってる枝と、ゴムと小石持ってきて」
「ワイジ?ゴム?」
何もかもに疑問符を飛ばすミッチェルにイラつきながらも、取り敢えずわかるように説明する。
何気に質問が横文字になってたとこだけは褒めてやろう。
すたこらと用意に走ったミッチェルが戻ってきた数分後。
(この時代にゴムってあるの?)
「で、これは一体?」
「こう使うんだよ」
煙管をくわえパチンコを構えるあたし。
標的となった紫の悲鳴が響いたのは、それからすぐのことだった。
「ひいいいいっ!敵襲!?敵襲ですか!?」
「者共、出合え!出合えー!」
そんな言葉は耳に入らず、すたこらとその場を後にしながら考えた。
さて、実際、平安時代にゴムは存在しないはずだが、現にこうして、手元にはパチンコがありゴムがある。
……なして?
「……時代が変わった?」
いや、正確に言えば、歪みが生じたとかいうやつ?
だってここは平安京で、紫式部がいて、帝だっているそうで。
何と!
あたしが時代を歪ませたとか!?
「……あたしって、すごい」
それとも何か、こないだ観た海外ドラマ的展開で、パラレルワールドってやつ?
おお、非主流科学!
どっちかっつうと、あたし自身が既に超自然現象な気がするが。
ちなみに、捕まったのは、ミッチェルだけだった。