黒はリリーで紫は帝で
何だかんだでわいわいやって既に一時間。
「うっかりしてましたがこまち殿、帝がお待ちです」
「あんたも大概うっかりだね」
あたしもちらっと思ったけども。
てかもう、面倒くさいからこのまま帰宅でもいいけども。
(もう飽きた)
「そうもいきません。帝が紫になります」
「は?」
紫?
ああ、何だっけか。
紫は高貴な色なんだっけか?
てか、あたしの思考を読むなよ黒子、それも大概、プライベート侵害だよ黒子。
「読んではおりません」
「その返答が既に読んでるから」
「それはそうと、」
普通にスルーされた。
ちょっと何こいつ、なかなかのやり手なんだけど!
平安京とかいう大分ふざけたとこに来てから、初めて出会うやり手なんだけど!
……こういう奴もいるのかー。
基本的に『人はいいけどノータリン』みたいな奴ばっかかと思ってた。
「では、いざ参られんこまち殿!我が帝にお会いくださいませ!」
すぱーん!
と勢いよく引き上げられた御廉。
ばばーん!
と平安京の全てを掌握する帝が高笑いと共に登場!
「……何、あれ?」
──しなかった。
「ねえ、何あれ。すーげえへこんでんだけど」
「おや、すでに紫ですね」
ずかずかと乗り込んでいく黒子が、紫のオーラ全開で部屋の隅っこに体育座りを決め込む帝へと向かう。
え、紫ってそういうこと?
何その捻りもへったくれもないみたいな設定。
とか呆れて見ていれば、
「帝、客人ですよ」
すぱ─────ん!
は、はたいた!
黒子が帝を!
帝が黒子に!
はたいた!
はたかれた!
「突っ込み担当なんだね!」
「帝は何と申しますか……極度の構ってちゃんなのでごわす」
マリーちゃんと化した丞太郎が、何故か、そっと涙を拭う。
てか、あんたの語尾、統一性なくね?
しかも何、天下の帝が構ってちゃん?
てかさ、帝って曲がりなりにも帝なわけでしょ。
「……構ってやれば?」
一応、曲がりなりにも (大事なことは二回言う)帝なんだし。
「面倒くさいじゃないっスかー」
ぼりぼりと猫耳の付け根を掻くマリーちゃんには、帝に対する畏怖も尊敬も感じられなかった。
え、どうなってんのよ平安京。
大丈夫なのか平安京!
と思ってる内に、またも黒子にはたかれた帝。
威厳ナシ!
「い、痛いよリリー!」
「リリー?」
「帝はですね、とにかく、先日の生誕式典がお気に召されたようで」
はあ。
ぐずる帝をほっぽってあたしに向かって黒子が言う。
「とにかくこまち殿の感性に感嘆されまして、わたしをリリーと呼ぶことにされました」
リリーねー。
黒子なのに百合なのか。
ナイス、ノーネーミングセンス!
「本名は?」
「帝が取り決められたのでリリーです (きっぱり)」
スルーかよ。
ま、いいけども。
「僕、ずうっと待ってたのにさ……皆して外で楽しそうでさ……丞太郎なんか、何それ?楽しみまくってんじゃん……もう僕、帝やめたい……」
未だのの字を畳に書き続ける帝。
お前、暗いな。
すぱーん!
それをまたはたきまくる黒子……もといリリー。
(本名不明)
「帝、拙者はマリーちゃんになりやしたっス!」
どこの田舎者ヤンキーだよ、猫耳マリー。
「ねーもう帰っていー?」
何なのここ、マジで。
あー煙草吸いてー。