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其の壱、何のこっちゃ。

何のこっちゃ。


ぽかーんと大口開けて、大通りでへたり込んでるあたしは、べっつにどうってことないふっつーうの人。

いくつかって?

乙女に年齢を聞くなんて野暮なことはおやめよ、お嬢ちゃん。

煙草も酒も、酸いも甘いもまあまあ知ってる程度のどうしょもない大人ではありますが。


目の前でお歯黒をちらつかせて、おたおたしてるのは多分、十二単を纏った女の人だけど、飽くまでもそれは目測目安であって、正直なところ一瞬「あ、歯にべったり海苔ついてる」とか思っちゃった。



「だ、大丈夫ですか?貴女、き、急に牛車ぎっしゃの前に現れるものですから……!」

「あー……はあ……」



だから、何のこっちゃ。


女の人の認識では、急に牛車の前に現れたあたしは、この恐ろしくのっろい車に轢かれたことになってるらしい。


牛が引くような車だよ。

轢かれるわけあるか。


どんだけ鈍臭い奴よそれ。

てか、何故に牛に車を引かせようと思ったのか、そこから説明して欲しい。

牛しかいなかったのか。

なら仕方ないな。



「む、紫様!そのような怪しげな者に駆け寄ってはなりませぬ!」



なりませぬってあんた。

どこの時代劇被れだよ。



「そうですぞ、御簾みす越しならまだしも牛車から降りられるなど!」

「轢いたのですよ!?」



いや、轢かれてないよ。

誰か彼女の暴走する妄想を早く止めてあげて。

ちら、と目配せした先の従者らしい奴は、あたしの気の利いた合図に気づかなかったけどね!


従者らしい奴らと気丈にも言い合いをする彼女をぼーっと眺めながらそこまで思考して、


何のこっちゃ。


もう一度、そう思った。


あたしはさっきまで、ふっつーうに自宅で晩飯食ってた。

ふっつーうにバラエティで大爆笑して、ふっつーうに風呂入って、ふっつーうにベッドでごろごろしてた。


で。


うっかり勢いつけ過ぎてベッドから転げ落ちたら、


ここにいた。


パジャマとも言えない上下ストライプのTシャツにハーフパンツで。

ストライプなんて横文字で言うとちょっとおシャーな感じがするでしょ?

するけどね、上は太縞で下は細縞だから。

お揃いとかではないから。

(つまり適当なのを着てた)



「ほら見なさい、怯えて黙ってしまったではないですか!」



女の人の声で回想から引き戻される。


違うんだけど。

(めんどくさいから言わない)



「ここ、どこ?」



取り敢えずわからん。

ベッドから落ちたら大通りで、目の前には牛に御廉付きの黒塗り車に、お歯黒の彼女に従者 (だよね、『様』って言ってたもんね)。



「……ああ、記憶を失ってしまったのですね……」



憐れみ満載な彼女をスルーして、もう一度尋ねた。



「で、どこ?」



貧民街か何か?

貧民街……スラムGAI!?

待って待って、やだ、どうしよう!?



『憐れ、薄幸の美少女!見知らぬ土地で霰ない事実無根な罪により投獄!そうして始まる彼女の脱獄プリズンブレイクや如何に!?──次回、美少女は聖剣エクスカリバーを携えて!乞うご期待!』



みたいな!?



「遂にあたしもハリウッド進出だな」

「何のお話でしょうか?」



前歯海苔子さんが首を傾げていたが、あたしには聞こえなかった。


とにかく、道の先には、やたらと煌びやかな家がたくさんある。

思うんだけど、こうも格差社会を目の当たりにするのも何だかどうだかってね。

清貧って言葉を知らんのか。

貧しくも清らかな心であれってね。

無理に決まってんじゃんね。

お金ってのは余裕を生むんだよ、余裕なくして清らさは持てないと思うんだよ。


これ、人間の真理だと思うわけね。

そこを覆すのが偉人!

あたしは偉人ではない、凡人だ文句あるか!



「平安京ですのよ」



……へえ……そうきたか。



「可哀相に、混乱してしまって……」



まあ、あながち間違いじゃないよね。



「うちで面倒を見ます」

「紫様!」

「お黙りになって。決めたのですよ」



よくわからんが、決めたらしい。


面倒見てくれるならそりゃあ有り難いことこの上ないので、別に反論しなかった。

だってほら、あたし凡人だし、わけがワカメだし、脱獄プリズンブレイクとかどう考えても無理だし。

設計図のタトゥーもまだ入れてないし。

ここに聖剣エクスカリバーがあるとは思えないし、村正も虎徹もあたしの手にはとてもとても。

(どうでもよかった)



「貴女、お名はおわかり?」



相変わらずな憐れみの目で、あたしに問い掛ける彼女。


いい加減、そちらさんの妄想も大概ちょっとうざいな。

(いろいろ失礼)



「んーまあいっか。あたし三宅こまち。あんたは?」

「わたくしは紫式部と申します」

「……へーえ……」



にやりと笑ったあたしを果たして紫は知ってか知らずか。


こうして。


恐ろしくのっろい車に同乗し、あたしは平安京 (らしいところ) で、紫式部 (らしい人)と暮らすことになった。


どうしよう。


超面白そうじゃない!?

来たれ、ハリウッド出演要請!



本当に時代背景はまる無視です。

そういうものだとご理解ご了承のうえ、お読みください。

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