【短編】リスポーン地点の宿屋 ~異世界から無職がいっぱい転生してきて困っているらしい~
ご自身のIQを2くらいにしてお読みください
無職の俺は死んだ。
コンビニへ行こうと歩いていたら、信号無視をしたトラックに轢かれた。
意識を失った直後、俺は何も無い真っ暗な空間で目が覚めた。
「うぅ......」
トラックに轢かれたはずなのに、不思議と体は痛くなかった。
それどころか、出血すら無い。
あんなに派手に轢かれたのに、無傷なはずがない。
「あぁ......。死んだんだな......」
ここはきっと、死後の世界だ。
正直、生きていてもどうしようもない状態だったので、後悔などは無い。
「あ......」
俺の目の前に、美しい女性が現れる。
白いワンピースの様な服を着ており、その姿はまるで女神のようだった。
「あの、あなたは......」
「チッ......。はぁ......」
女性は俺に聞こえる大きさの舌打ちをし、ため息をついた。
「えっ、感じ悪っ......」
「あなた、どうせ無職でろくでなしで、親に見放されるなりなんなりして、死んじゃった感じでしょ? 今日で三人目、三日間で十五人、ひと月で百五十人......」
「いや、僕の場合は事故で......」
「......まぁ、どうでもいいんだけど。それより、異世界に飛ばしてあげるから、頑張りなさい」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり異世界に飛ばすって......! 説明をしてください! あと、ラノベとかでよくある能力付与とか、そういうのは......」
「じゃ、バイバーイ」
俺の足元に、魔法陣が現れる。
それに合わせ、体が光始め、目の前が見えなくなっていく。
「ちょっと! 少しくらい教えて......!」
女性に声は届くことなく、俺は意識を失った。
「んぅ......」
目が覚めると、仰向けになっていた。
「ここは......?」
ここが女性が言っていた、異世界というところなのだろうか。
部屋を見渡すと、ここは木造の部屋の中みたいだ。
ベッドやタンスが置いてあるので、寝室だと思われる。
状況を把握するために、俺は起き上がる。
それと同時に、部屋のドアが開く。
そこには、赤いロングヘアーの少女が立っていた。
手には木製の物干し竿を持っている。
そして、それを思い切り振りかぶ。
「出てけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
物干し竿が、俺の頭部を直撃する。
「痛っ! 痛い! ストップ! 話を、話しを聞いてくれ!」
「どうせあんたも、異世界から来た無職でしょ!? うちにあんたらみたいな穀潰しを住ませる余裕は無いの!」
「ちょ、待て! まずは止めてくれ!」
少女は俺の話を聞かず、物干し竿で頭をバシバシと叩き続ける。
「な、何でもするから! 働きますから! 許して!」
その場しのぎで適当なことを言っていると、少女の腕がピタリと止まった。
「あ、危ない......! 殺されるところだった......!」
「......何でもするって?」
「え? あ、いや......」
少女は再び振りかぶる。
「します! 何でもします!」
「......ふーん」
少女はゆっくりと俺に近づき、胸倉を掴む。
「あんた、名前は?」
「き、木戸! 木戸裕也!」
「ユーヤね? 私はフリム。じゃ、やってほしいことを説明するから、私に着いてきなさい」
フリムという名の少女は、物干し竿を担ぎながら部屋を出ていった。
何度も何度も叩かれた頭をさすりながら、俺はフリムについて行った。
部屋を出ると、そこは廊下だった。
廊下は長く、部屋が何個も存在していた。
もしかしたら、ホテルやら旅館のような建物なのかもしれない。
「私も忙しいから、歩きながら説明するわね。......その前に、あなたも前の世界では無職で、死んでここに転生した。それは合ってるわよね?」
「そ、そうだけど......。どうして俺の状況を知って......。そもそも、あなたも、って......」
「あんたみたいな無職の転生者は、今日で三人目、ここ三日で十五人、今月だけで百人以上......。もう、うんざりなのよ......」
「そ、そんなに!? というか......」
その人数には聞き覚えがある。
女神のような女性が、同じ人数を言っていた気がする。
「どうしてか分からないけど、異世界の無職の転生場所が、この宿屋と被ってるみたいなのよね......。......あんた、何か分かることは無い?」
「転生前に、なんか女神みたいな人に会ったんだけど......。女神も同じように、無職の転生者が今日で三人目、三日間で十五人......って言ってたけど......」
廊下の突き当りの階段を下りながら、俺は女性の説明をした。
「......ちなみに、その女神はどんな感じだった?」
「......会った瞬間に舌打ちされたし、ため息をつかれたし、印象は最悪だったな......。それで、流れ作業みたいに、転生させられて......」
「......つまり? その女神が面倒臭がって転生位置を同じにしているせいで、この宿屋に無職が転生してきてるってこと? ふざけんじゃないわよ!」
フリムは突然、膝で物干し竿を真っ二つにへし折った。
「女神の怠惰のせいで、私にしわ寄せがきてるのよ! クソ女神が! 見つけたら殴り殺してやる! そもそも、あんたの世界はどうなってるのよ! 無職が多すぎじゃない!?」
踊り場でへし折った物干し竿をブンブンと振り回すフリム。
壁に傷が付いてもお構いなしに振り続けている様子から、かなり鬱憤が溜まっていることが伺える。
「ま、まぁまぁ落ち着いて......。......迷惑をかけた側が言う言葉じゃないと思うけど......」
「その通りよ! だから、あんたには働いてもらうわよ!」
「は、働くって言っても......。俺、働いたことないぞ......?」
「大丈夫よ。無職の気持ちは、無職が一番分かるでしょ? 無職に最適の仕事だから、安心しなさい」
「......と、言うと?」
「あんたの仕事は二つ。一つは、あんたみたいに転生してきた無職を、この宿屋から追放すること。もう一つは......」
階段を下ると、目の前にはロビーと思われる空間があった。
フリムは、ロビーの隅に存在している鉄の扉を指差した。
「あそこは倉庫や食糧庫に繋がってるんだけど、転生してきた無職どもが立てこもってるのよ。交代で扉を抑えているのか、いつ開けようとしてもビクともしないのよね。そのせいで、お客さんにまともな料理も出せず、布団がボロボロになってきても新品を提供できず、客離れは進んで......!」
「......もしかして、その無職たちを説得して、どうにかしてほしい。と、言うことか?」
「その通り!」
無職の気持ちは、無職が一番分かる。
無職なら、無職と打ち解け、どうにかできるだろうということか。
「無職同士なら、打ち解けてどうにかできるわよね!?」
「いや、無理だが......」
「な、なんでよ!」
「だって、人と打ち解けられなかったり、協調性が無いから無職なのであって......。って、痛い痛い痛い!」
フリムはもう返事をするのも嫌になったのか、無言で俺の頭をしばき始めた。
「分かった! どうにかする! どうにかするから!」
「なら、早く行ってきなさい! 私は、数少ないお客様をもてなすために、色々と準備をしないといけないんだから!」
フリムはそう言うと、ロビーから去っていった。
「はぁ......。取り合えず、できるだけやってみるか......」
俺は鉄の扉に近づく。
「......聞こえますかー?」
まずは扉の前に人がいるかどうかを確認することにした。
「......ならないか?」
「え?」
「お前も引きこもりにならないか?」
「......なるほど」
今まで転生してきた無職たちは、この誘いによってこいつらの仲間になっていったのだろう。
「ここなら飯もあるし、毎日少しだけ扉を抑えていれば、快適な生活を送れるぞ......」
「......ちなみに、飯の残りとか、そういうのは大丈夫なのか?」
「......無職のお前なら分かるだろ?」
よく分かる。
多分、こいつらは後先を何も考えていない。
取り合えず今が良ければそれでいい、という気持ちで立てこもっているのだろう。
「......俺って、親からみたらこんな感じだったのかな......?」
今のこいつらは、死ぬ直前までの俺と全く同じだ。
将来のことなど考えず、暗い部屋に引きこもってばかり。
食料の調達元である親が無くなった後のことなど、何も考えていなかった。
「それより、お前は仲間にならなくていいのか? 聞こえた話によると、ここの主にコキ使われそうなんだろ?」
「それはそうだけど......」
多分、こいつらの仲間にならない限り、ずっとコキ使われるだろう。
だが、せっかく第二の人生を送るチャンスを得たんだ。
「......俺は、少しだけ頑張ってみようと思う。......せっかく、やり直す機会を手に入れたんだから......」
「......そうか」
すると、重そうな扉が、少しずつ開いていく。
もしかしたら、俺の話を聞いて、考えが変わったのかもしれない。
「働こうとする無職は、無職たちの敵だ! こいつを殺すぞ!」
「「「「うおおおおおおお!!!」」」
「えっ!?」
突然、中から五人の無職が飛び出してきた。
全員男で、若者からおじさんまでいる。
「うわああああああ!」
俺は取り囲まれ、無職たちから殴られ、蹴られる。
全身が痛みに襲われ、大人気も無く泣き叫んでしまいそうだった。
「な、何!? 何の騒ぎ!?」
別の部屋で作業をしていたフリムが、声を聞きつけ、ロビーに戻ってくる。
「た、助けてくれ!」
「あのガキ......! よし、俺たちの力であのガキを倒して、ここを奪い取ってやる!」
「「「「行くぞおおおおお!!!」」」」
俺を取り囲んでいた無職たちが、フリムに襲い掛かる。
「に、逃げてくれ!」
俺はフリムに向かって叫ぶが、フリムは逃げようとはしない。
フリムは近くの壁に立てかけられていた箒を手に持つ。
「無職ども! かかってきなさい!」
「む、無茶だ!」
相手が普段運動していないと思われる無職とは言え、少女が大人に勝てる訳がない。
「「「「「うおおおおおおお!」」」」」
フリムを取り囲み、飛びかかる無職たち。
俺はこの後の光景を想像し、目を閉じてしまった。
しばらくの間、騒音が続く。
そして、騒音に交じり、悲鳴が聞こえる。
「や、やめてくれぇ!」
「ぼ、僕が悪かったです!」
「ひぃ! ごめんなさいぃ!!」
その悲鳴は、フリムの悲鳴ではなく、無職たちの声だった。
俺が目を開けると、しばき倒したと思われる無職たちに囲まれたフリムが、堂々と立っていた。
「弱っ!」
「ふん。幼い頃から剣術を嗜んでいる私に、お前らが敵うはずないでしょ。ほら、出ていきなさい!」
だが、無職たちは出ていかず、フリムの目の前で土下座をする。
「こ、ここを追い出されたら死んでしまいます!」
「構わないわ! 死になさい! ドラゴンやら人喰い草に食われて死になさい!」
「ひえぇぇぇ!」
少し可哀想になってきてしまった俺は、フリムと無職たちの間に割り込む。
「ま、待ってくれ! こいつらにも、俺みたいにチャンスを与えることはできないか!?」
「生憎だけど、こいつらまで雇う余裕は無いわ!」
「じゃ、じゃあ......。俺がこいつらの働き口を探すから! それまでの間、どうか......」
「こいつらの働き口を? こいつらにできる仕事なんて、何もないわよ! 畑仕事も、木こりも、何もできるはずがないわ!」
「そ、そう言わずに......」
俺は、土下座をしている無職の一人の前に座る。
「なぁ、最初は大変だと思うけど......。俺と一緒に頑張ってみないか?」
俺も無職だ。
働いたことは無く、労働の苦しさも知らなければ、続けられるかどうかも分からない。
だけど、仲間が居れば、苦労を一緒に分かち合い、共感しあえる場所があれば、変われるかもしれない。
一緒に頑張ろう。
そう思い、無職に手を差し伸べたが、無職たちはそんなこともお構いなく、扉の向こうへとそそくさと逃げていった。
「お、お前らぁ!!!」
俺は扉をドンドンと叩く。
本気で押してみる。
しかし、扉はビクともしない。
「はぁ......。やっぱり、無職はダメね。で、あんたはどうするの? こんな感じの無職の相手をするか、ここから出ていくか......」
「お、俺は......!」
俺は、変わりたい。
新たな世界で、頑張っていきたい。
というか、頑張らざるを得ない。
外に出たら、確実に死ぬ。
「ここで、無職たちの相手をする!」
「そう。ま、頑張りなさい。もし、サボったり、成果が悪かったら、問答無用で追い出すから」
こうして、俺は無職たちが転生してくる宿屋で、フリムという少女と働くことになった。
そんな俺は今、こんなことを思っている。
(......やっぱり、こいつらの味方になった方が良かったかなぁ......)
やはり、長年の無職経験によるやる気の無さは、すぐには無くならないようだ。
終わり




