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ドリアードの姫と護衛の幼なじみ  作者: 榊木叶音
キャラの過去エピソード
9/9

幼なじみ(マリィ編)


 ヴェンアーラントの森の、小さな広場。

 そこでは、年長者が魔法の使い方を教えてくれています。

 

「マリィ! まだできなさそう?」

「ごめんなさいぃ……」


 マリィ・カリュアス十歳。

 苦戦しています。



「みんなもうできたよ? こう……、パアッとやるのよ、できる?」

「うぅ~……」

「私できたー!」

「すごーい! 蔓がこんなに伸びたぞーっ!」

「競争だよ~!」

「…………っ」


 他の子達が楽しそうにじゃれ合って、どんどん進んでいくのを、マリィはいつも横から見ているだけです。


「……っ。ハマドリュアスの姉妹よ、力を……っ。螺旋!! …………」


 ぐしゃっ、と音を立てて、土から泥の塊が吹き出て、それがくるりと円を描きました。

 本当は、地面からは蔓が生えてくるはずだったのです。


「魔方陣が悪かったのかな?」

「うぅ……ごめんなさいぃ……」


 子どものうちは、詠唱だけでは魔法が安定しません。

 だから、魔方陣を描いて、その陣の上に発動するようにするのです。


 もし、マリィが「もう一度、お手本を見せてください」と、すぐに言えたらいいのですが、


「ひゃっほーう! 今のうちに遊ぼうぜ!」

「マリィができるまで、自由時間だ!」


『マリィ待ちの時間』ができると、恥ずかしくて、恥ずかしくて、マリィは全然動けなくなります。






「えぇーと、ここがこうだから……」

 

 なんとか、魔方陣の見本を、紙に書いてもらうことが出来ました。

 それを見ながら、お家で練習します。


 

 先輩の、陣の書き順は……こんな感じでした。


 もっと……もっと……。

 

 お家で練習すると、なんとかできるようになって、でも全然ほっとなんかできません。

 次に皆の前でやるとき、もう一度できるか、分からないからです。






 それは、夏が終わりかけた頃でした。

 マリィは森にアケビを採りに行って、迷子になってしまいました。

 朝に森に入ったので、まだ、昼頃だとは思います。

 だけれど、朝にあんなに晴れていた空は今はどんよりしていて、こうなると道が分からなくなります。


 マリィは、他の子と違って魔法が上手じゃありません。

 だから、道を調べる魔法も分かりません。

 マリィの家は、村の端っこです。

 だから、ひとりで森へ入っています。


「どうしたらいいんですかぁ……」

 

 籠いっぱいのアケビがあっても、お家に帰れなければ意味がありません。

 マリィは、歩くのに疲れて、倒木に腰掛けました。



 そんな時です。


 茂みの向こうから、なにやら騒がしい声が聞こえてきました。


「絶対こっちだって!!」

「待てよ!」

 

「? なんでしょう……?」


 ガサガサと音を立てて、現れたのは――……。


「わっ! こんにちはっ!」

「ひっ、……っ!」


 姫様!?

 

 なんと、アイシャ姫だったのです!

 マリィの家は里の端っこですけれど、さすがにアイシャ姫のことは知っています。こんなに近くで見たのは、初めてです!

 空も急に晴れてきて、姫様のお顔を照らし始めます。

 姫様は、なんだかキラキラしていて――


 ――マリィは、どうすればいいか分からなくなりました。


 隠れた方がいいんでしょうか? 高貴な方と目が合ったら、不敬でしょうか? いえ、それよりも挨拶をされたような……!? 無視してしまった? 早く、なにかしゃべらないと、それこそ不敬でしょうか?



 そんなことを考えていると、男の子の声がしました。

 

「誰だ? 知り合いか?」

「ひぃっ!?」


 姫様に気を取られて、全く目に入っていませんでした。

 姫様のすぐ後ろには、人間の男の子がいたのです!

 むすっとした顔で腕組みをしていて、なんだか怖い感じです。

 

 最近、やってきた人間。そのことは知っていましたが、……マリィにはやっぱりなんだか怖くて、今まで近付いたことはありませんでした。



 姫様は、そっとマリィに近付いてきました。

 

「大丈夫? 迷子?」

「え……っと……はい」

「どっちも迷子なんじゃん!」

「ひぃっ!?」

「ちょっとキール!!」


 姫様は、人間の男の子と対等にお話ししています。だって、種族が違うんですよ。すごいなぁ、と思いました。


「お前が『絶対こっちが出口~』とか言うから付いてきたのに、行った先も迷子じゃん!」

「待って! 逆に考えるのよ、つまりこれが正しいのよ!」

「は?」

「これは、迷子同士が会う運命だったのよ! いっしょに行動すればいいっていう、精霊の思し召しよ!」

「……まぁ、いっしょにいたほうが捜索も楽だろうな。大人が」

「え……と……」


 姫様が、マリィの手を取りましたので、とても驚きました。手に、一瞬で汗が噴き出るかのような感覚がしました。

 

「私、アイシャよ。あなたのお名前は?」

「ま……マリィ・カリュアスです。……姫様」

「アイシャでいいわ」

「あ……アイシャ、さま……」


 ふわりと、アイシャ様は笑いました。

 生まれは関係なく、彼女が姫であることが分かりました。



「……あっ」


 ふと、気がつきました。

 空が晴れたので、気がついたのです。

 

「どうしたの? マリィ」

「雲ですぅ。……えと、雲って西から東へと流れていくことが多いので、雲が向かってくる方向が西……なのかもですぅ~……。マリィの家は東の端で、東の森へと入りましたぁ。だから、雲が流れてくる方へ歩いて行けば、里にでるかも……しれません」

「すごい!!」

「詳しいんだな!」

「……えっ。あ……その……。マリィは、よく迷子になっちゃうので、そのぉ……、何度も失敗して、お家で復習して、それで……そのぉ……」

「行ってみましょ!」

「あっ」


 アイシャ様は、マリィの手を取って歩き出したのです。

 アイシャ様の手は、小さくて、柔らかくて、……とても温かな手でした。


 やがて里が見えてきて、こんなに安堵したことはありません。

 アイシャ様は笑って喜んでくれて、マリィは本当に嬉しくなりました。





 それから、数日後。

 マリィは居ても立っても居られなくなって、アイシャ様の様子をこっそり見に行きました。

 アイシャ様はマリィとは違う魔法の習い場で、魔法の練習をしていました。


「あ! マリィ! こっちにきてよ!」

「え……あ……はいぃ……」


 こっそり見てたはずなのに、すぐに見つかってしまいました。

 ……アイシャ様が優しくて、だからマリィは、魔法の習い場をここへと変えることにしました。


「ねっ! マリィ。様付けやめてもいいのよ?」

「う……っ。でもぉ……」

「考えておいてね」


 そう言ってアイシャ様は笑います。





 それから、数日が経ちました。

 何度か一緒に魔法を練習したマリィ達は、今日も魔法の練習をしに、習い場へとやってきました。

 先輩ドリアードが指導してくれます。


「このとき、魔方陣はこう描きます」

「…………」


「俺、できた!」

「わたしもー!」

「…………」

 

 相変わらず、マリィは時間がかかります。

 でも。


「あとはマリィと、アイシャ様だけね」

「アイシャ様ぁ~……」

「はっ! ごめんちょっと考え事しててっ! で、なんだっけ?」

「治癒魔法ですよぉ~。魔方陣は、こんな感じでぇ……」

「助かるわ! ありがとねっ!」



 私がゆっくり魔方陣を描いていても、隣に座るアイシャ様は、急かしたりしませんでした。


「マリィはコツコツ復習をやるタイプだから、魔方陣が綺麗ね!」

「…………」

 

 私は、落ち着いて魔法を使うことができるようになってきました。


 空は青く、風は清らかで、すべてが輝いています。


「……アイシャ」

「なぁに?」

「……いえ。……アイシャ」

「ふふふ!」


 私は、姫様のことをアイシャと呼ぶようになりました。






 それから、しばらく経ったある日。

 草むらで、マリィとアイシャとキールで遊んでいた時です。

 マリィとアイシャは落ち葉を拾って顔を作っていて、キールは木に登っていました。

 このあとはキノコ市場にお買い物も行きます。


 アイシャが、声をかけてきました。

 

「ねぇマリィ! キール!」

「なんですかぁ~?」

「どうした?」


 キールが木から下りてきました。

 もう、人間も怖くありません。

 キールも、マリィと同じだと、気付いたからです。


 

 アイシャが、笑顔で言いました。



「私たち、今からでも幼なじみになれるよね!」


「……えぇ?」

「……はぁ?」


 マリィとキールは、間抜けな声を出してしまいました。

 


「俺は十二歳だぞ? 幼なじみって生まれた時からいっしょーとか、三歳からいっしょーとか、……六歳? ……とにかく! なんか……遅くないか?」


 アイシャは十一歳で、マリィはまだ誕生日が来ていないので十歳でしたが、でもマリィもそう思いました。

 

「……嫌?」

「……嫌じゃないけど」

「……嫌じゃないですぅ」

「なんなのその言い方!」


 ――これを、言っても良いんでしょうか? マリィは、本当に……いいんでしょうか?

 恐る恐る、口に出します。

 

「……う、」

「う?」

「嬉しい、ですぅ……」

「良かったぁ!! あのね、私、ふたりのこと大好きよ!! ずっといっしょにいてね!!」


 アイシャはそう言って、いつものようにキラキラと笑いました。

 こうなると、マリィは何も言えなくなってしまうのです。





 マリィは、アイシャが大好きです。

 これからも、ずっと変わりません。



 アイシャは姫様で、

 でも、マリィの大切な幼なじみなんです。




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