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ドリアードの姫と護衛の幼なじみ  作者: 榊木叶音
キャラの過去エピソード
8/9

幼なじみ(キール編)



 キール・クナープ、十一歳。王都でそこそこやってます。

 人気の店のチョコレート・流行りの音楽レコード・名門の剣術学園。

 すべてがそろっていたけれど、どれもちょっぴり俺には足らない。



「おい、またキールが一位かよ!」

「かーっ! あいつに演習では敵わねぇって!!」


 騎士になるための学園で、同級生が噂する。


「あいつ、噂じゃ飛び級で準騎士試験受けるってよ」

「父親が王軍第三騎士団の団長なんだろ? 将来明るいやつはいいよなー」

「俺らの成績じゃあ、夢は叶いそうもないぜー」

 


「…………」


 夢なんてはっきりしたものはないけれど、剣は楽しいし、成果も出てる。いずれ父さんのように王様の騎士団に入るんだろう。


 そう、思ってたんだけど……。





「え!? 王都から引越し!? 森に住む!?」


 三月の学園の春休み、自宅で俺は、父さんからとんでもないことを聞かされた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! なんでそんな急に……っ」

「任務だ。来月からヴェンアーラントの森に暮らすドリアードを守ることになった。これは王命だ」

「母さんも行くわよ。なにせ、任期は十年だもの」

「じゅっ十年っ!?」


 食べかけのお菓子を、ぽろりと落とす。

 十年って十年って、なんだよ!


「ありえないんだけど!!」

「キール、これは王命だ。お前が付いて来なくても、私は行く。ただ……」

「?」

「お前がいないと、私たちは寂しい」

「…………」





 そういうわけで、俺は父さんたちに付いて、引っ越すことになった。

 行き先は、ヴェンアーラントの森。ドリアード領だ。事前に本で調べてみたけど、ドリアードってのは木の妖精?精霊?みたいな加護をもってて、それで精霊の大樹を守って暮らしているらしい。だから森からは滅多にでてこなくて、それで俺達は見かけたことがないんだ。

 世界樹に力を送れるのはドリアードだけだから、王様は自分の騎士を派遣してでもドリアードを保護することにしたんだそうだ。 


 でも、それで俺の父さん(と部下達)が選ばれるっていう……。


 護衛団の人数はそんなに多くなく、子どもを連れた騎士はほとんどいなかった。大人ばかりの隊列を見る度に、「友達できねーじゃん……」と、思ってしまう。



 ヴェンアーラントの森は遠く、辿り着くまでに何日もかかった。

 途中立ち寄る町が、だんだん、だんだん小さくなっていって、「ああ、田舎に行くんだなぁ……」と思った。

 王都にはなんだってあった。人気の店のチョコレート。流行りの音楽レコード。名門の剣術学園。そのすべてが、これからはないんだ。


 森に入ってからの足場は悪く、俺は初めてはいる山に四苦八苦した。

 木の根に躓き、落ち葉に滑り、転びに転んだ。

 鬱蒼とした森は歩くのも不安で、魔獣の遠吠えに体が震えた。


「うわっ」


 どさっ、と地面に顔が落ちる。……何回目だろう。

 

「キール、もうすぐだ」

「ドリアードの里が見えそうよ」


 父さんと母さんがそう言って励ましてくれたけれど、俺はなかなか起き上がれない。

 起き上がったら、里までもうすぐなんだろう? なんにもない、田舎の集落に。




「あれが里の入り口じゃないか!?」

「やった!」

 

 門らしきものを見つけた団員が言った。

 わっとみんな足取り軽く進んで行って、俺は最後尾でまた転ぶ。

 

「父さんたちは女王陛下に挨拶がある。先に行くけど、まっすぐ来るんだぞ」

「荷物を置いたらもどってくるわね」


 父さんと母さんもいなくなって、俺はひとり、草むらの中。見上げた先は青々と生い茂る枝葉で。



「…………」



 俺は、がばっと起き上がる。

 

 くっそー! 暑っちぃし歩きづらいし田舎だし! 汗だくだし! 鬱蒼とした森だし! わけわかんない任務だし!


「んがーーーーっ! 俺はこんなとこっ」


 来たくなかった、って、言うおうと思ったんだ。

 だけど。


「こんにちはっ! 私アイシャっていうの! あなたのお名前は?」

「…………っ」



 それは、花の妖精みたいな女の子だった。

 大きな瞳が眩しくて、初めて木漏れ日が差し込んでることに気がついた。

 桜の花びらが、光るように舞っていた。





 ***





 アイシャと俺はすぐに仲良くなった。

 アイシャは姫だったけど、全然王宮にいないし、庶民じみてるし、ていうか女王陛下もイメージと違ってどっちかっていうと『長老』っぽいし……。だからアイシャもかしこまってなくて、初めて会うはずの人間の俺をちっとも恐がらなかった。



 森には結界が張ってあって、だからそんなにかっちり警護をしなくて良かったけれど、

 

「おーい! アイシャーっ。どこだーっ」

「キール……ここよ」

「アイシャーっ!?」


 アイシャは森で人食い花に捕まっていたり、


「王宮からジャンプをしたらどうなると思う!?」

「骨折だよ! ドリアードにも骨はあるだろ!」


 無茶な提案をしようとしたり、


「草のハンモックでお昼寝するわ」

「また行方不明で騒がれるだろ!!」


 とにかく目が離せなくって、

   

「あっおやつ食べる? 木苺とか花の蜜とか。おいしいよ」

「……うん」


 森の果実は王都のどんなチョコレートよりも美味しくて。

 どんな流行りの音楽レコードよりも、鳥の鳴き声、草の揺れる音、君の笑い声が心地よかった。

 


 ある日のこと、いつものようにいなくなったアイシャを探す。

 里の結界内にいることは分かっているらしく、父さんたちは動かない。

 俺はいつだって、目の届く場所にいてほしいと思っているのに。


 アイシャは、丸太の上でのびていた。

 

「キールぅ……! 来てくれたのね……!」

「アイシャ、お前な~……っ。どこ行ってたんだよ」

「あそこ」


 アイシャが指さす先を目を凝らす。遠くの木の上に、蜂の巣があるのが見えた。


「蜂の巣? 蜂蜜なんか、食べてたっけ?」

「食べたことない……。誰も食べないよ、だって蜂、怖いじゃん。……私たちって、あまり食べなくても生きていけるし」

「はぁ? なんでそんなもん採りに行ったんだよ」


 花の蜜で十分じゃないか。

 

「そんで蜂に返り討ちにされてるし」


 危険なことは、してほしくないんだ。


 アイシャは顔を上げた。


「だって! 人間は花の蜜直接じゃなくて、それを集めた蜂蜜を食べるんだって、本に書いてあったのよ!」

「……は?」

「あっ、パン! パンをね、商人のおじさんに頼んでおいたの! 今度の行商の時に持ってきてくれるって! それに塗れたらいいかなーって思ったのよ!」

「俺の……ため?」

「そうよ!! 少しでも人間の町にいた時みたいな暮らしをさせてあげたいの!!」


 そう言ってアイシャは笑った。



 そっか。そうだったんだ。




「俺、お前を守るよ。この剣に誓って」


 これが俺の夢なんだ。





 君は大切な、俺のお姫様。



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