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ドリアードの姫と護衛の幼なじみ  作者: 榊木叶音
ヴェンアーラントの森
5/9

1-5 助け

 泉で消えた、パーシバルが立っていた。


「あなた一体……っ! ……っ!?」


 私の目の焦点は、彼の顔から、――彼の右手に。

 ずるずると、ひきずっている。それは、


「お婆様!?」

「……」


 パーシバルは、お婆様を引きずっていた。

 お婆様は目を閉じて、力なくぶら下げられている。

 

「お婆様を離して!! 離しなさいっ!!」

「……いいですよ」


 パーシバルは、右手を放る。

 どさっという音と共に、お婆様は地面に投げつけられた。



「お婆様っ!!」

「この老婆に言うことを聞かせるはずだったんですけど、思ったより抵抗してきましてね。少々舐めていたようです。さすがは女王といったところですか。私の部下も随分と返り討ちにされたようです。……でも、一人では守り切れなかった。あなたと分断していたかいがあったというものです」

「どうしてこんなことするの!? どうしてっ!?」

「ふふ……」


 パーシバルの周りを、黒い靄が蜷局を巻くように漂っている。


「――捕獲」


 パーシバルの言葉で、黒い靄は勢いよく私を捕らえる。一瞬でぐるぐる巻きにされた。まるでゴムで締め付けられているような、締め付け。

 

「かはぁっ!!」

「さ、行きますよ。オヒメサマ。……気絶してたら結界を開けないみたいなんですよね。もっとも、もう死んでいるかもしれませんが」


 そう言ってパーシバルは、お婆様をチラリと見下ろした。

 全身傷だらけのお婆様の姿は、とてもショックで。


 それが、私の未来の姿だと気付くと、ぞっと背筋が凍る。

 私を捕らえている黒い靄から抜け出したい。

 もがく。もがく。

 でられない!


「ぐ……っ! キー……ル……っ!」


 護衛の、名前を、呼ぶ。

 けれど。

 

 しん……と静かなまま。


「来ませんよ。今頃私の部下に殺されているでしょう」

「!!」

「あなたのもとへ来られちゃ困りますから。……あっちの足止めも大変だったんですよ」


 そ、そんな……。


 黒い靄の締め付けが、強くなる。


「……っ」

「ふふ。女王が私の部下に反抗してくれた、お返しです。事が終わったら、あなたも殺してさしあげます」



 パーシバルにひきずられ、私は精霊の大樹のある結界へと連れられていった。





 結界の前まで来る。


「!!」


 そこには、血と、倒れている男たち――偽の使節団の男たちと、護衛団の男達の姿があった。

 

「さすがに感づかれましてね。戦闘になりました。あの老婆もここから一歩も動かなくてですね。つい、やりすぎちゃいました」

「……っ!」


 身じろぎをするが、抜け出せない。


「この辺……ですかね」


 パーシバルが、手探りで結界の位置をはかる。

 やがて、引き当ててしまう。


 フォン――結界の中に入ってしまう。

 …………私と、パーシバルで。




 そこは、美しい森の一角。

 精霊の大樹は、銀の葉をシャラシャラと揺らす。

 枝にはひとつだけ真っ白な花が咲いている。


 パーシバルは無遠慮に、祭壇の上へ土足で上がる。


 やつがなにやら呪文を唱えると、精霊の花がふわりと枝から落ち、パーシバルの手のひらへと……落ちる。


 

 精霊の花の花びらが、パラリパラリと落ちる。花の真ん中から現れたのは、白い真珠のような石――精霊石だった。



「ようやく、手に入れました……!」

 

 パーシバルは、精霊石を撫でる。


「あ、あああ……っ」 

  

 私が馬鹿だったの。

 好きだなんて言われて、浮かれて、馬鹿みたい。

 騙されて、大切なもの、なにひとつ守れなくて。


 守りたかった。守りたかったよ――……。

 


「よしこれで……」


 パーシバルは、精霊石を懐にしまった。

 

「さて、用は済みました。あとは、あなたを殺します」

「ひっ」


 黒い靄は、私をギリギリと締め付ける。

 私の体はずっと宙に浮いたまま、この靄で地面から持ち上げられている。



 螺旋(ヘリクス)!!

 

 うまく声には出せないけれど、念ずるだけでも……!

 

 地面からしゅるしゅると、蔓を伸ばす。


 

「こんなもの出して、なんになるっていうんです? ただの葉っぱじゃないですか」


 そう言うとパーシバルは、黒い炎をだした。


 

「ああぁあぁぁっ!!」


 熱い! 痛い! 燃える!!


「ドリアード領へ行くんですよ。当然、ドリアード対策はしてますよ。あなた方は、火に弱い。自分で作った葉に焼かれて、焼け死んでください」


 

 嫌だ、嫌だよ……!

 

 助けて!!


 そう、強く願った時だった。



「水神の加護よ!!」


 ざぁっと滝のような水が降ってきた。

 それから、ザシュザシュと切り裂く音。

 ぱら……と、私を締め付けていた黒い破片が舞って。

 

 次の瞬間、私は解放された。


「きゃ……っ」

「無事か!?」


 落下する体が、受け止められた。

 

「キール……!」

「すまん! 遅くなった!!」

「……っ」


 良かった、良かった……! キール、死んでなかった……!


 私を抱きかかえたのは、キールだった。

 涙が出て、わっと抱きつくことしかできない。うまくしがみつけなくて、そこで初めて私は自分が震えていることに気がついた。



 キール、キール。それ、魔法? いつの間に? 捕まってたって本当? どうして来てくれたの? 嫌だ、戦わないで。


 全部なんにも言葉にでない。

 

「大丈夫だから。少し離れてろ」

 

 そう言って、キールは私をそっと地面に下ろす。



「――で? よくもめちゃくちゃにしてくれたな、クソ巡礼サマ。どういうつもりなんだ?」

「へぇ……。どうしてここに君がいるんです? 殺したはずでは?」

「へっ。お前のお仲間なんか、なんの問題にもならねぇっつーの」

「……へぇ。さすがは正騎士様です」

 

 剣と剣がぶつかって、その度にキン――と不安な音を鳴らした。

 

 ふたりは、走りながら接近し、剣をぶつけては離れてを繰り返す。


 

「私、接近戦は向いてないんですよねぇ。教団の巡礼師なもので」

「うるせー偽物」

「ふふっ。巡礼師なのは本当ですってば」


 キールの背後に、黒い靄が生まれる。

 それが一斉にキールの背中めがけて飛んで行って、


 ――嫌よ! 私の、幼なじみなのよ!


「――ハマドリュアスの姉妹よ、力を! (アイギス)!!」

 

 私が叫ぶと、パッとキールの背後に植物の盾が広がった。

 


「ナイス!」

「なにっ!?」

 

 魔法の発動が、間に合った。

 キールが、高く飛ぶ。

 

「うぉぉおぉっ!!」


 その剣が、パーシバルに届き、肩を切り裂いた。


「ぐわぁっ……!」


 パーシバルは、肩を押さえながらよろめく。


「ふっ……! 精霊石は手に入りましたので、……殺すのはやめておいて差し上げます……っ。では……!」

「あっこら! 逃げるのか!?」


 パーシバルは精霊石をかざしながら、結界の外へと逃げる。

 慌てて追いかけるが、私達が結界の外へでた時には、もう姿は見えなくなっていた……。


 

「はぁ……っはぁ……っ」


 精霊石が……盗まれた……。


 明日が、儀式の日だったのに……。



「アイシャ! 無事か!?」

「キール……」


 キールが、私を抱きしめる。


「お前が、生きていてくれて、よかった……!」

「……うん」


 私は、目を閉じる。



 雨が、降り始めていた。





 ***





 私達は、集落の川へと向かった。

 雨が降り、燃えていた森や家が消火されている。

 焦げた家もあるけれど、全壊と言うほどではないようだ。

 私達の家は、普通の木造建築と違って、魔法の森の生きてる木なのだ。


 マイス先生と、ノアをはじめとした里の薬師が協力して、里人の手当をしている。


「回復魔法も使って貰ってるんですけど、女王陛下の傷は深くて……!」

「お婆様っ!!」


 藁の上に寝かされているお婆様のもとへ、駆け寄る。


「しっかりしてっ!」

「アイ……シャ……」

「お婆様!!」


 お婆様の目が、うっすらと開いた。


「やつの……狙いは……精霊石じゃ…………。祭りの前日で……十年分の……魔力を蓄えた……」

「お婆様っ! 死んじゃ嫌よ!!」

「だが……まだ……方法はある……。それを……今から……説明したかったが……。…………わしは……少し……眠い……。少しの間……ね……むる…………」

「そんな……!!」

「アイ……シャ……。誕生日、お、めでとう……」


 お婆様は、目を閉じた。そして――、

 

「……すーっすーっ……」


「………………」

「………………ん?」


 寝息を立てていた。

 

 ……このパターンで、本当に寝てる……?


「…………っ」


 私は、脱力して、へたり込む。




 この日、私達は甚大な被害を受けた。


 しかし。

 なんとか懸命な救助活動により、奇跡的に、死傷者はゼロだったのだ。




 雨は、降る。

 やがてすべての火が、消えた。



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