表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリアードの姫と護衛の幼なじみ  作者: 榊木叶音
ヴェンアーラントの森
3/9

1-3 夢みたいな恋心




 翌日。

 朝のお祈りの後、私達は使節団に会いに、人間の居住地へと向かう。

 ドリアードの住む木の(うろ)より、人間の作った小屋の方がいいはずなので、事前に護衛団の集落にゲストハウスを作ってもらったのだ。



 ――昨日は、あんなことがあって……。

 ……。

 でも、パーシバル様ってかっこいいし……。


 ドキドキと胸が鳴る。ときめきなのか、緊張なのか、……とにかく、恥ずかしい。



 あのあとは、


 パーシバル様は私の手を離して、

「急にすみませんでした。今日はもう休みます。部屋へ案内してもらえますか?」

……って、ゲストハウスに行ってしまった。


 なのであれから初めての会話……!

 どっどうすれば……!

 

 

 ゲストハウスに近付くと、ちょうど中からパーシバル様が出てきた。

 パーシバル様は私の姿を認めると、笑いかけてくれた。

 

「姫様」


 どきっと心臓が鳴る。


 ど、どうしよう……。


 パーシバル様は、私の前まで来ると、屈み、そっと私の手を取る。


 そ、それは王子様仕草……!

 

「この里を観光してみたいです。案内お願いできますか? 姫様」

「はっはい……っ!」


 気がついたら私は、里を案内することを了承していた。






 他の修道士さんたちはまだ休むとのことで、私達はふたりで里をまわることになった。


 話しているうちに、だんだん慣れてきて、いつもの調子で話せるようになっていた。

 

「こっちがキノコ市場で、こっちが畑! あっちには果樹園もあるんです!」

「へぇ。いいですね。のんびりした集落で素敵ですね。……聞いていたとおり、野菜や果物が豊富なんですね」


 吊り橋を渡っている途中、通りすがりの里人も、パーシバル様に話しかける。

 

「巡礼師様、リンゴはいかがですか?」

「いただきます」


 パーシバル様はリンゴを笑顔で受け取ると、すぐにかぶりついた。

 しゃりっと小気味よい音がする。


「! なんだか聖都のリンゴよりも甘いような……」

「わっ! でしょう!? よく言われるんですっ」


 里のものが褒められると、嬉しい。

 

「……ドリアードは植物の生長を促進させるって、本当なんですね」

「まあ、そうですね。通常よりも早く収穫できますし」

「美味しい農作物が常に食べられて、羨ましいです」


 パーシバル様は、またにこりと笑った。

 顔が傾けられる度に、彼の髪がさらりと揺れて、少しどきっとする。



「ところで、この方は?」

「ん……?」

 

 パーシバル様は……私の背後を指す。

 振り向くと、――仏頂面のキールがいた。


「あ……!」

 

 かーっと顔が赤くなる。

 い、いつの間にいたの……。

 さっきまでのパーシバル様とのやりとり、キールに見られたかな……。


 キールは、わざとらしく、ごほんと咳払いをした。

 

「教団の偉ーーい巡礼師サマとのことですが、ウチの姫様も一応偉いものでして。護衛です」

「いっ、一応ってなに!? いつからいたのっ!?」

「キノコ市場から」

「最初からだわ!!」

「キミが王都からのドリアード護衛団ですか」

「えっ!? 知ってるの!?」

「有名ですよ」


 パーシバル様は、大真面目な顔で言った。

 

「”ヴェンアーラントの森には誰も近づけない。迷いの森で餓死するか、剣の錆びにされるかだ”って……」


 えぇっ!? そんな恐ろしい噂になってるのっ!?


 慌てて弁明しようする私に、キールの声が被さった。

 

「そっそれは……っ」

「その通ーりです」


 ずこーっ


 私は小声でキールの耳を引っ張る。

 

「ちょっとっキールっ」

「アイシャ。アレは護衛団が流してる噂だ」

「!」

「噂ってのは、怖ければ怖いほど意味があるんだよ」

「でっでもパーシバル様は悪い人じゃ……」

「あいつが森から帰ってみろ。噂が嘘だったって言われたら困るだろ」


 確かに。私達は、森に侵入者が来なければ来ない方がいいんだもの。

 

「そ、そうね……! じゃあ、」


 小声、終了。

 私はくるりとパーシバル様の方へ向き直る。


「その通りです。森の道中には遭難者の骸が山ほどあります」

「え、山ほどあるんですか? 歩いてきたときそんなにありましたでしょうか……?」

「死体は腐って地面と同化してます」

「くくっ!」

 

 笑うな護衛!!

 せっかく嘘を盛ってるっていうのに。


 私達は、少し歩いて、小高い丘の上へと向かった。

 草むらに腰を下ろす。

 すると、パーシバル様は、思い出したように言った。

 

「あぁ、そうそう。死体の山と言えば、王都に流星のごとく現れた、最年少騎士叙任のキール・クナープは、鬼の形相で全てをなぎ倒していくとの噂です。どこの隊に所属しているのか、まったくの不明なんですけどね」

「死体の山を築いてるの?」

「いや?」

「キールって有名なの?」

「さぁ?」

「え……もしかしてキミが?」


 パーシバル様が、目を丸くする。

 キールが頷いた。

 

「まあ、はい。俺のことっすね」

「へぇ。本物ですか? ……まさかドリアード領にいるとは……」

「はぁ……」

「じゃあドリアード領は安泰ですね」

「えー? キールくらいで?」

「アイシャが姫サマなんだから、自分で泰平にしろよ」

「難しいことを言うわね」

「くすくす」

 

 パーシバル様は、楽しそうにまた笑った。よく笑う人ね。

 なんだか微笑ましい。

 

「パーシバル様は、教団ではどのようなことを?」

「僕ですか? 毎日お祈りしたり、信徒を集めたりしていますよ。みんなが集会に来るように、お誘いしたりしています」

「そうなんですね」


 風が吹いて、パーシバル様の白いローブがはためいた。

 

「それより、儀式よりちょっと早く着いてしまい、すみません。皆のこと泊めていただき、ありがとうございます」

「全然大丈夫です。気にしないでください」

「むしろ予定通り六日早く到着できるなんて、すごいっすよ」


 手紙は即日届かない。タイムラグがある。

 つまりは、予定通りの到着ということだ。

 

「はははっ。皆、必死でしたからね。……まぁ、皆は長旅で疲れたと言って……昨日から寝てばかりです」

「はっ! もしかして、しんどいですか!? 休みますか……!?」

「大丈夫です。ご心配ありがとうございます、姫様。姫様は話せば話すほど素敵な人だ。……名前でお呼びしても?」

「え……。あ、……はい」

「では、アイシャ姫、と」


 パーシバル様が微笑むと、なんだかまたどきっとしてしまう。

 な、名前を呼ばれるだけで、こんなにドキドキしちゃうの……?


 

「僕だけ、アイシャ姫に案内してもらえて、嬉しいです。姫様のこと、独り占め、ですね」

「え……っと」

「結婚のこと、考えてくれましたか?」

「えっ!!」


 そういえば、そうだったーっ!


 パーシバル様が、私の手を取る。

 

 顔が、熱い。



 彼の整った顔が、私を見つめる。

 金の髪が、日の光を浴びてキラキラと光り、ルビーのような瞳が、私を射貫く。


 好き……かも。


 好きだわ、パーシバル様……。


 ――彼のことが好きだと思うと、一層恥ずかしく、顔から火が出るようだった。

 

 

「僕、この里のこともっと知りたいです。姫の住む、この森のこと」

「え、えーとっ! じゃっじゃあっ! この特製蜂蜜を……!」


 私は、いそいそと鞄から蜂蜜瓶とパン(布にくるんであるのだ)を取り出す。

 パーシバル様に差し出すと、またいつものように甘い顔で微笑んで、

 

「美味しいです」


 きゃーっ! 嬉しいっ!

 

 いいんじゃないっ!?

 好きな物を好きになってくれるのって、いいんじゃないっ!?


 す、……好き……!






 アイシャとパーシバルのやり取りを、キールは数歩離れたところで見ていた。

 

「……」


 アイシャの顔は、必死に取り繕おうとしているけれど、……真っ赤だ。

 ふたりは肩を寄せ合って、蜂蜜パンを食べている。

 

「……俺が採ってきた蜂蜜なのに……」


 キールは小さく、呟いた。





 ***





「アイシャ。こんなところにおったのか」

「あっ、お婆様!」


 里の南の小高い丘。

 そこで私とパーシバル様が話していると、お婆様がやってきた。

 

「祭壇の飾り付けに行くぞ」

「そういえばなんかするんだっけ? はーいっ!」

「精霊の大樹へ行くんですか?」

「えっと……」

 

 私が立ち上がると、パーシバル様も立ち上がった。

 なんだか、ついてきそうな雰囲気だ。


「良かったら、僕も」

「えっと、結界があるので……。ごめんなさい」

「そうですか……。大丈夫です。僕は、使節団の皆の様子を見に戻ります」


 パーシバル様はそう言って、手振る。


「アイシャー。行こうぜ」

「うん!」

 

 私とお婆様とキール(キールは結界の前で大体待ってるのよ)は、森へと向かった。







 三人の姿が遠ざかる方を、パーシバルはずっと眺めていた。


「あれがキール・クナープですか。……」


 そう呟く。

 やがて、彼らの姿が見えなくなると、ゲストハウスへと戻っていった。





 ***





 森をしばらく進む。

 やがて結界の入り口に着くと、お婆様が先に結界の中に入った。

 入ってしまうと、結界の外からは姿が見えない。


 私も続けて入ろうとすると、キールに呼び止められた。

  

「なぁ」

「んー? なぁに?」

「お前、あいつのこと好きなのか?」

「えっ……と」


 突然の問いに、驚くのと同時に、顔がぼっと熱くなるのを感じる。


 あいつ……って、パーシバル様のことよね……。ど、どうしてそれを……っ。


 

「そ……それは……っ」

「やめとけよ」


 言い切られて、カチンとくる。

 

「なっ……! キールには関係ないわ!」

「あるけど」


 そう言う彼の表情は真剣で、なんだかどきっとしてしまう。

 

 えっ……?


 も、もしかして……。


「お前 ドリアードの繁栄を目指してんだろ? ドリアード同士で結婚するんじゃねぇのかよ」


 ずるっ

 肩がずれ落ちるところだったわ。

 なによ、急に真剣な顔しちゃって……。

 護衛団ってそういう目的だもんね!? 王族って特に巫女の力は遺伝って言う(そういう感じだ)し!?

 まったく、お婆様もキールも! ドリアードの男と結婚しろって、うるさいんだから! 

 

「するけど!? するよ!? たぶん!! お見合い選手権とかで!!」

「お見合い選手権?」

「いやこっちの話!!」



 分かってるよ、分かってる、私。


 でも、でもね。

 今だけは、いいですか?

 ちょっとだけ、パーシバル様のこと、好きになっても……。




「……っ。じゃあっ、私もう行くからっ。……?」


 結界に入る前に、足を止める。

 一瞬、見間違いかと思ったけど――

 振り返って、確かめる。キールの手の甲に、切り傷がある。

 

「怪我してるの!?」

「ん? ああ、……まあ」

「侵入者が来た時の怪我!? 大丈夫だったって言ってたじゃない!?」

「あんなチンピラごときに傷を受けたなんて、恥ずかしくて言えるかよ!」

「いや、傷見つかってるし……」


 私は、彼の手の上に、そっと手をかざす。


「――ハマドリュアスの姉妹よ、力を。治療(セラピア)!!」

 

 薄く平べったい植物の葉が現れる。切り出したアロエの薄いやつみたいな感じ。それが、まるで絆創膏のようにぺたりとキールの手に乗った。(絆創膏は輸入してるけど、こっちの方が効くのよね)

 それから、蔓が現れて、シュルルと巻き付いて葉を固定した。 

 最後に、葉の上にぽんっと小さな花が一輪。

 

「はいっ! いいわよ!」

「おー! 痛くない!」


 キールは、ニカッと笑った。


 でも、……この傷、侵入者の時に出来たものよね。

 私がキール頼りで先行したから……。

 

「……いつもごめんね。私が、連れ出してるから……」

「ん? なんてことねぇよ! たいしたことねぇって!」

「……うん」


 手の甲に咲いた、小さな花を撫でる。


 早く、回復してくれますように。




「でも、もっと早く言ってよね! そしたら、もっと早く治療できたんだから!」

「はいはい」

「もう! じゃっ! 私、もう行くから!」


 

 私は、今度こそ結界の中へと入った。







「……」

 

 アイシャが結界の中に入ると、キールからは姿が見えなくなる。

 

 キールはアイシャの姿を見送ると、手の甲に咲いた花にキスをした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ