8 異世界の 孤児問題は 逼迫中
私は髭小父が置いてくれた椅子に腰かけている。
その横に、商品の入っていた箱を逆さまに置いたものの上にウハハ誘拐未遂犯の少年が座っている。
少年の手には湯気を上げているミルクたっぷりの甘いカフェオレ。
カフェオレをおずおずと口に運んで
「うめぇ……」
と言葉を漏らし顔を緩めた。ずっ…ずっ…と鼻を啜る音…
ずいぶんと肩に力が入っていたのだろう。
まぁ当たり前だ。従魔といえど誘拐は罪だ。少年はバックを盗むだけのつもりだったけど。罪は罪だ。
ただこの、ミカちゃん(孫13歳)よりも幼い子供が罪を犯してしまうほど、何に追い詰められたのかが知りたかった。
「なぜ、バックを?」
「・・・腹が・・・空いた、から」
私は目をつむり「そう」と小さな答えた。
あぁやはり、この世界にもこういう子がいるのか。
いや、モンスターが出る世界だ、
元の世界より子供たちの置かれている現実はずっと厳しいのかもしれない。
私は少年に顔を向け真剣に問いかける。
「そう、あなたの名前、年齢、簡単なことで良いから出来ることを教えて」
少年は、手元のカフェオレに目をやり、ポツポツと答えてくれた。
「名は、アルマ。8歳。4歳の時、冒険者をしていた父が亡くなり孤児になった。孤児院は2年だけいたけど、もう一杯で。小さい子も多くて大きいからと追い出された。それから子供が出来る日雇いでなんとか生きてきた。掃除、洗濯、あまり重くなければ荷運び位なら出来る」
「住んでるところは?」
「孤児院の北側の空き家に・・・」
「その家が空き家って教えてくれたのは?」
「孤児院の先生」
「・・・その空き家に暮らしているのは何人?」
「6人」
「その中に女の子は居る?」
アルマ君は首を振った。
「アルマ君は冒険者には成らないの?」
「登録料が出せない」
「登録料はいくら?」
「銀貨3枚」
私は唸りながら……頭をひねる。
んーーーーー
「アルマ君と同じような状態の孤児はどのくらいいるの?」
「俺が知ってるだけで・・・えっと・・・50・・・人くらい居る。」
「その中に女の子は居る?」
「君より小さい子なら何人か」
私は盛大にため息をはいた。
そしてこめかみを押さえ唸ってしまう。
「ウゥゥ……最悪じゃない。大体、孤児院が飽和状態って行政は何をしてるの・・・子供が孤児院追い出されるってどういう事よ・・・大事の予感しかしない」
私の問いかけに次々と答えていくアルマ君は、ぶつぶつ言い始めた私を見てビックリしている。
「ねーーー変な事聞くけど、友達だったり、一緒に追い出されたりしていた見知った子供を見なくなる、会えなくなる、そういうことはあった?」
「一緒の頃に追い出された皆は半分も居ない」
「そっか。わかった。じゃあ今から一緒に冒険者ギルドに行こう。」
「え?……何で?」
「キナ臭すぎる…動ける大人に相談しないといけないから…。」
私はアルマの手を取り、場所を貸してくれた髭叔父店主さんにお礼を言って市場を後にした。
【コーヒー屋の店主サイド】
この市で、孤児が今回みたいな犯罪行為に走るのはよく有ることだ。
その理由なんてあまり考えた事なんて無かった。
「お腹が空いてただけか・・・わしらは悪ガキがっと孤児たちを疎んでいただけじゃった」
隣の道具屋の親父が声をかけてきた。子供たちの話を聞いていたんだろう。
「私もです」
「あの嬢ちゃんは、子供には思えんの」
私は笑って言った
「そりゃ自分より大きい少年を子ども扱いしてましたからね」
道具屋の親父は、頭を傾け
「そんなこと言いよったか?わしは聞こえんかったがの」
私は先ほどの、少女とのやり取りを説明した。
「珈琲は苦い。まぁその苦味が良いんですが、その分、子供には不向きな飲み物です。だから私は砂糖をたっぷり入れた方が良いですねと提案したら、あの子はたっぷりのミルクも入れてと。でないと子供には飲めないんだと言ったんですよ。あの子は砂糖なしのブラックで飲むのに」
道具屋の親父はくっくくと笑い始めた。
「そりゃ凄い。自分よりもいくつも上の男を子供扱いか、大物になるわ」
「楽しみです。きっとまた来てくれるでしょう」
私と道具屋の店主は、子ども達が去っていった方を見ながら笑った。
【冒険者ギルド コルドナ 受付担当 テリアサイド】
朝のクエスト受注大争奪戦の対応を終えた受付嬢たちは一息ついていた。
これから事務処理等の、溜まりに溜まった雑務の時間である。
今日は入口から一番近いカウンターに配置されたので、残業確定であることに大きなため息を吐きながら、テリアは書類に目を向けた。
「こんにちは、お姉さん少しよろしいでしょうか」
と鈴を転がすような愛らしい声が聞こえてきた。
ここ冒険者ギルドには不釣り合いな声。
テリアは正面のカウンタを見る。少年が居る。
今の声、女の子の声では?と困惑している私と目が合った少年は、斜め下に目線を落とした。
私は立ち上がりカウンター下を覗くと、可愛らしい黒髪の少女が少年と手をつないで立ってこちらを見ていた。
「こんにちは、当ギルドにどのようなご用件でしょうか?ご依頼ですか?」と私が声をかけると
「副ギルドマスターのクロトさんに、カナメが相談に来たとお伝えください」
いきなり子供が上司を呼び出す事に困惑しつつ
「副長ですか・・・後ろの椅子に座って少しお待ちください」
これ、副長に伝えても良いのかなと不安になりながら副長室に声をかけに行った。扉をノックして
「副長すみません。お客様がお見えです」
反応がない。もう一度ノックして
「カナメと言う少女が副長にお会いしたいそうです」
中でバタンガタンと大きな音がしたかと思ったら、バンと扉がすごい勢いで開いた。
「何かあったのか!!」
目の下に隈を作った副長が飛び出してきた。えぇぇ2回で出てくるなんて珍しい。いつもは10倍呼んでも出てこないのに。
「何かとは?・・・・・落ち着いた様子で男の子と2人で来てますよ」
副長は目を見開いた後、眉間にしわを寄せ
「早くないか?」
副長あの子のお父さんですか?????と私は頭に「??」を飛ばし子供たちのもとに。
カナメちゃんは副長の顔を見ると
「こんにちは、クロトさん。昨日助けて頂いたばかりなのですが、この街の子供たちの為お力添えをお願いいたします」
そう言って頭を深く下げた。それを見た隣の少年も困惑しながら頭を下げた。
「カナメ、どうした?なにかあったんだな?」
副長はキョロキョロとあたりを見回して、
空いてる商談室に子供2人を連れて行った。
残された私は茫然としてしまった。
「あの子、昨日副長が肩に乗っけてた女の子でしょう」
「そうそう父親行方不明でジャルの森で保護されたらしいわよ」
同僚達が女の子の情報をくれる。
「ねー、あの子貴族?言葉使いが平民とは思えないんだけど」
「何者なんだろうねぇ」
みんなでワイワイ言いながらも、残業回避のため山のような書類を片付けるべくデスクに向かったのだ。




