33 初の野営と兄の覚悟
「部屋がない……」
宿屋の受付でトーさんが困った顔をしていた。
おかみさんも、私たち親子を見て申し訳なさそうに頭を下げている。
馬車で到着したのは小さな村
同じ馬車に乗っていた人たちは、定期的にこの村を訪れる商人・御者・親戚などで、宿屋には彼らが泊まれる程度の部屋しかなかった。
しかも最近は連泊している冒険者が居るため……予約なしの私たちの部屋が確保できなかったのだ。
トーさんはため息をつき、私たちに向き直って言った。
「部屋が無いならしょうがない。イル、カナ、ウハハ、訓練も兼ねて初の野営といこうか」
トーさんの言葉に、私たちは大喜びした!!
「良いの!!やったね、お兄ちゃん!」
「ふふふ、楽しみだね」
「ウハハハハハ」
私たちの様子を見て、おかみさんは微笑んだ。
「野営するなら村を出て10分ほど歩いて行ったところに川がありますよ。魚も釣れますし、村の人が頻繁に行き来する場所なので魔物はでません。おすすめです。」
「「教えてくれてありがとう!!」」
私と兄さんは一緒にお礼を言って、手をつないで笑いながら宿を出た。
私たちの後を追って宿を出たトーさんたちが、宿を振り返り
鋭い眼差しで睨んでいた事に気づきもせずに。
村の唯一の商店では、いろいろな商品が取り扱われていた。よくわからない置物…に大きなタライ。果ては馬車の本体までもが販売されている。
トーさんは店主さんに、
「なかなか凄い品揃えだね~」
っと感心しながら、子供が組み立てれる野営用のテントが欲しいとか、魔道ランプのを取り扱ってる?とか、こう雑多な何でも屋さんって、男の人は子供みたいにときめくのかな?雑多の中から自分の宝物を探す感じ。
優君も雑貨屋で下に置いてる売り切り商品から良いもの選んでたなーーーーっとのんきにしていると、買いたいものが決まったのかトーさんが戻ってきた。
お金を払いながら、店主さんに
「最近連泊してる冒険者がいるって聞いたんだけど、何かのやばいの出るのか?出るなら川辺にはいかない方が良いかなって思うんだ子供が居るし」
「あぁ、魔獣じゃねーよ。あん人達は、馬を探してるんだ」
「馬?」
「そうそう、なんでも変わったモモモの果実みてーな色の馬だっと。えれー方の屋敷から逃げ出したのを依頼を受けて冒険者が探しているんだと」
「馬なら安心だな。店主情報感謝するよ」
トーさんは、野営に必要な食べ物に、魔物除けの香、釣り竿。あとは解体ナイフを2本購入。店主に、この辺で取れる食材を聞き出し教えてもらった川辺に向かった。
「二人とも釣った魚は自分たちでさばくように。今渡したのは、解体用のナイフだ。それぞれがバックに入れておくように。」
「ウハハも二人の近くで見守ってくれ」
トーさんはそう言ってウハハを私の頭の上に置いた
「ウアハハ!!」
「俺はテント設置と、周辺の確認に行ってくる。枯れ木とかも集めてくるから、二人は絶対ウハハから離れないように。」
「「はい」」
私たちは元気に返事をして釣り竿をもって駆け出した。
落ち着いたのは大きな岩の上ここなら安定して座れるしいい感じ
「大きなの釣れるといいな~」
私がウキウキとそう言うとお兄ちゃんは足元を見ながら
「僕…さばくの出来ない……」っと呟いたので
「カナ出来るよ。教えてあげる三枚おろし得意なの」
「そっか…得意か…釣れたら教えて」
お兄ちゃんは眉を八の字にして苦笑いした。普通は貴族の息子は魚さばいたりしないだろうし。教えられた事もないだろうし。
日本にも肉はスーパーで売ってる形しか知らない人もいた。
豚肉はブタから・鶏肉は鳥ってなんで分かんないのかが婆には理解できなかったな…孫たちにはしっかり教えた。命を頂くんだから、無駄にしないように。
お兄ちゃんは釣り竿を構えて遠くを見ながら言った。
「僕も一人で出来る事増やして…トーさんみたいに悪い奴を倒せる様になりたい」
お兄ちゃんの真剣な表情に私は笑顔で、
「じゃあお兄ちゃんトーさんに教えてもらったらいいよ。
戦い方の師匠はトーさんで、お魚のさばき方の師匠はカナ。いいアイデアでしょ。フフフ」
私の言葉にお兄ちゃんはポカンとしていたけれど、フハっと息を吐いて満面の笑顔で
「じゃあ二人は僕のお師匠様ってことだね。」
「うん!!後でトーさんに一緒にお願いに行こうね」
「うん」
さっきまで少し曇っていた顔から迷いが消え、川の水面に反射する光を受けて、屈託なく笑うお兄ちゃんはキラキラと輝いて見えた。
日が暮れて、パチパチと薪のはぜる音があたりに響く
夕食の準備のためトーさんが焚火でお鍋にお湯を沸かしている。私たちは二人でトーさんに戦い方を教えてほしいとお願いに行った。
「何のために?」
「冒険者として生きていくなら討伐は必須でしょ。だから、教えてください!!」
「イルは?」
「生きるために……命を奪われないために。
今度こそ大切な人を守れるように……お願いします」
お兄ちゃんはトーさんに向かって深々と頭を下げた。
私はお兄ちゃんの真剣さに戸惑いながらトーさんを見た。
トーさんはお兄ちゃんの頭に手を置いてわしゃわしゃとわしゃわしゃと髪をくしゃくしゃにされてお兄ちゃんは、くしゃくしゃにされた髪を直そうと髪の隙間からトーさんの顔をみて固まった。
「10歳のお前がするには重い。………その覚悟は受け取った。」
焚火に照らされたトーさんの顔は笑ってるようで、泣いているような…そんな苦しそうな……不思議な表情だった。一度目をつむったトーさんは
「明日は、朝から特訓だな」
そう言って目を開けたその表情は、いつものトーさんだった。




