3 青葉のウサギのマアサさん
カナメはクロトさんの肩に乗せてもらい、そのままギルドを出た。
空がどんどん橙色に染まる。
ふふふ。異世界に来て最初に見る景色としては最高。
そして、人より高い場所から見える景色も最高だ。くっくく。人のつむじが見えるwww今後出来ない経験だ。
もともと高くない身長だったが、これからは私がつむじをさらしていく感じ。人と話すときは常に上を向かなければ…くそ…悔しい。
ピッチピチに若返ったけど、そこは悔しい。
私が悔しがってると、こっちをみて固まる人や目を見開く人が複数人▪︎▪︎▪︎なぜ?
「副ギルドマスターの隠し子?」「猛獣使い!!」「アフロに子供が捕まっている!!」など色々な言われようである。なるほど、
まあ気にしない。
そんなの、気にしてたらバーゲンセールは勝ち抜けない。それにしてもクロトさん、優しそうなのに猛獣扱いされている・・・強いのかな?
ギルドマスターはどう考えても戦う人だったけど、青髪メガネ男子は事務方っぽかったし、異世界でも人それぞれだね。私はどう考えても戦える体格はしてない。5歳児の姿で魔物が出る世界をどう生き抜けと?・・・2週間後、そこのところジジ神様(仮)に問い詰めたい。
クロトさんが目的地に着いたらしく
「嬢ちゃん、ここだ。ギルドの近くだから迷わないとは思うが覚えたか?」
優しい気遣いをしてくれる。
「ありがとうございます。覚えました」
たどり着いた場所は、四葉のクローバーの中にウサギがあしらわれている可愛い看板のある木造4階建ての建物。
大通りに面してる場所には、ミニバラっぽいピンクのお花がプランターで育てられてる。
「クロトさんおすすめのお宿ってかわいいですね」
「店主のマアサの趣味だ。中もこんな感じだ。女子供に好まれるので、嬢ちゃんも過ごしやすいだろう。」
クロトさんはひょろもじゃで、メガネとアフロで顔の半分が隠れている。女性に好意を寄せられにくい外見だが、気遣い屋さんでとても好ましい。こういう男性に世の女性はもっと気づくべきだと思うんだ。クロトさんの幸せを婆は願ってるよ。うん。
扉を開けるとカランカランカランと扉内側に付いたベルが鳴る。
「マアサ居るか?」
入口すぐのカウンターにクロトさんが声をかけると、奥から
「はーい、ちょっと待ってて」と元気な女性の声。
カウンターから周りを見回すと、テーブルがいくつか並んでいる。各テーブルには小さな花が飾られてかわいい。中央には階段があり、どこも窓が大きく取られ、外からの光を取り入れている。夕方なのに、そこまで室内が暗くないのは窓のおかげだろう。私がキョロキョロとしていると、
「あら、副ギルドマスターがわざわざどうしたの?」
エプロンで手を拭きながら、不思議そうな顔でふくよかな40歳前後くらいの女性が出てきた。クロトさんは
「客だ。とりあえず1ヵ月ほど頼みたい。」
クロトさんから私を紹介された女性は笑顔で挨拶してくれた。
「あら、かわいいお客様。私は店主のマアサ、よろしくね。うちは前払いなんだけど大丈夫?」
「大丈夫です。」
と私が答えると、私の頭をひとなでしてクロトさんがマアサさんに言う。
「カナメは、はぐれた父親が迎えに来るのをここで待ちたいそうだ。」
「はぐれた?」
「ジャルの森で一人保護されたんだ」
マアサさんはジャルの森と聞き、驚いた顔をした後
「そう…」
と一言答え俯いた。そんなマアサさんにクロトさんが
「マアサこの前、酒の席で頼まれた薬。それを今回お前に卸す。嬢ちゃんの宿泊料、勉強してくれないか?」
マアサさんは顔を上げ、真剣なクロトさんの顔を見て笑う。
「副ギルドマスターがそんな条件を私に出すなんて、明日ドラゴンでも来襲してきそうだわ。ふふふ。そうね、あの薬ならいくらでも金貨出しそうなおバカさんが多いから宿泊料は銀貨3枚。もちろん朝夕の御飯付きどうかしら?」
ビックリ!!まさかの40%引き!!マアサさんとクロトさんの顔を交互に見つめ戸惑っていると、クロトさんが頷いてくれた。
「あ!!ありがとうございます!!お気持ち感謝します!!」
私は思いきっり頭を下げてお礼を言い、金貨10枚を出す。
「あら、多いわよ銀貨3枚の30日分だから金貨9枚よ。」
「あ!すみません…父にも計算教えてもらってたんですが苦手で。もっと勉強します。」
「あら良い心がけね。わたし頑張り屋さんは大好きよ。困ったことがあったら私に声をかけてね。」
わたしと、マアサさんのやり取りを見て、安心したのかクロトさんは
「何かあったらギルドに来て俺を呼べ。大体はギルドにいるから。じゃあな」っと言い残し出て行った。
私はマアサさんを見上げ
「クロトさんは優しい人ですね」と笑った。
マアサさんはあらあらと嬉しそうに頷いて
「ギルドで一番の優しい人よ」
と返してくれた。うんマアサさんとは気が合うと思う。
4階の角部屋が私の部屋になった。
角部屋嬉しい。部屋に入ると、一階の食堂同様、窓が大きくとられていて眺めがいい。あと1時間くらいで夕食の時間だから少し休んだら降りてきてと教えてもらってるので、少しだけ休憩。休憩したい。
部屋のドアを閉じ、鍵をかけ、ベットに突っ伏した。
はぁーーーーやっと一人の空間。ようやく今起こってることをゆっくり考えられる。
さっきギルドを出るときのあのイケオジマスターの顔。
なんかやらかしたんだってわかったけど、何が悪かった?演技力はまあ無いからなー。わざとらしかった?
もう終わったことだから、そこはなるようにしかならない。諦めよう。
婆は過ぎたことは気にしないんだ。
明日は明日の風が吹くってね。ふふ。