234話 吾輩の推しはクレイタンである①(山田視点)
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日が山の麓に沈み切り辺りが暗闇に染まり
空に浮かぶ、月の光が大地を照らす。
もうすぐ辺境領に入ると、無理をして進んでしまったことを僕は悔やんでいた。
旅の疲れで眠ってしまった奥さんのミホは馬車の中だ。
ミホに野営させるのは嫌なんだよな…
夜番をさせたくないしな…
あとどのくらいで辺境領に付くだろうか…
そんな事を考えながら、光玉を馬の前に飛ばし進行先を照らす。
光玉も光源はそう広く無く、いわば車のライトのロー程度の光だ。
パカパカと馬を走らせながら、諦めて野営場所を探そうかと思った時だった――
何かの膜を通ったように空気が―――変わった。
「ヒヒン」
それと同時に馬はひと鳴きして、止まった。
「マロン?どうした?」
ブルルと頭を振って、それ以上進むことを拒む…
それと同時に、僕が飛ばしていた光玉がほどけるように消え、闇が押し寄せた。
風の音すら止み、耳鳴りだけが残る。
辺りは暗闇と静寂に包まれた。
僕がもう一度光玉を生成しようかと思案していると、暗闇の中にオレンジ色の淡い光がポウっと浮かび上がった。
突然現れた一つの小さな光がふわふわ揺れる。
「……」
僕は馬車の御者席から降りて、光に見入っていると、同じような光が少し先にも灯り揺れ始めた。
それをきっかけに、次々と光が灯っていく―――
まるでこの光を道しるべに付いて来いと言わんばかりの光たちは、
まるで幼い頃、田舎で見た蛍の景色のように美しい。
本来ならこの怪しすぎる状態に不審感を抱かなくてはいけないんだが…
光を作り出しているのは―――小さな妖精たち。
小さな妖精たちが必死に光を生み出している。
あの村で出会った子たちと同じ姿だ。ほっておけない――。
僕は馬車の中に入りミホに声を掛けた。
「ミホ…起きて。ちょっと困った事になったんだよ」
ゆさゆさと肩を揺すると、毛布を肩に引っ張り上げ反対側に身体を向ける。
寝入ってるな…どうしようか…もう一度肩を揺すると…ミホの肩が震えている事に気づいて僕は動きを止め馬車を出て行こうとした。
その時後ろから彼女の怒った声が響いてきた。
「そこは起きて!チュっとかするもんでしょ!!バカ山田!!イチャイチャしろ!!こちとら新婚だぞ―――――!!」
「ミホ…」
飛び起きた彼女…はすかさず僕に飛びついてきた。
僕の奥さんはLOVEを求めています。
可愛いんだよ。
彼女はあっちの世界に居た時もものすごくかわいかったけど、
今も僕の唯一無二のお姫様だけど―――
いや今そんなときではないんだ
でもホントうちの奥さん狸寝入りしてまで、僕のLOVEを求めて
積極的で可愛い…可愛いけど今は違うんだよ―――
「ミホ…妖精たちが呼んでいるんだよ」
「え?妖精?」
僕と一緒に馬車から出たミホは肩にかけていた毛布をそのままに景色を見て唖然としていた。
広がる光はゆらゆらと揺れながら、心まで照らすような優しい光
「蛍みたいだね」
ミホの言葉に僕は苦笑をこぼした。
「僕も思った」
「呼んでいるみたいだね」
「一緒に行こうか」
お互い笑い合い手を繋ぎ暗闇を光に沿って歩き出す。
しばらく歩くと…大きな二本の柱が立っていた。
木ではない。金属でもない。
見たことのない白銀の石の柱―――
ミホと一緒に見上げると…
「これ…鳥居?」
「…鳥居かも…」
「異世界で鳥居ってなんで…?」
白銀の石で組まれた鳥居が、静かに立っていた。
二人で困惑気味にその鳥居を超えると、いくつもの灯篭が道しるべの光よりも強い光で煌々と灯っている
灯篭のその奥には、社ではなく籐を編み込んで作られた、大きな卵のようなドームだった。
「え?何……これ?」
「卵じゃないよね……繭、みたいな?」
僕はその“繭”の周囲をゆっくりと一周する。
籐の隙間から淡い光が漏れ、その奥に……人影があるのが見えた。
「ミホ……中に女の人が居る」
「え?この中に?」
僕の言葉を聞いたミホが隙間を探して中をのぞこうとしたその時、
ミホの指先が籐に触れた瞬間――
パァァッ……!
眩い光が繭を包み込み、
籐の編み目が糸のようにほどけていく。
それは光に吸い込まれるように空気へ溶け、消えていった。
そこから現れたのは、
目を閉じたまま眠る、銀髪の少女だった。
少女が眠るその周りにはいくつもの小さな光を放つ妖精が集まって、
彼女にそっと寄り添っている。その姿に息をのむ―――
「わっ…え、綺麗な子だけど…」
突然の出来事にアワアワと焦るミホの側に戻り肩を抱きしめ落ち着くように声を掛ける。
「落ち着いて、大丈夫。大丈夫だよ」
ミホは僕の言葉にコクコクとうなずき、深呼吸をした。
そうしてミホはもう一度確認しようと少女のもとへ一歩踏み出した、その瞬間――
パチン!
「いっ……いたぁぁーーい!!」
ミホは額を押さえ、涙目で後ずさる。
慌ててミホの額を確認すると、額には小さな手形が付いていた…え?手形?
「それ以上、吾輩のクレイタンに近づくことはまかりならぬ!!」
静かな空間に、可愛い少年の声が、響き渡る。
次の瞬間、僕たちの目の前に――
先ほどの妖精の光よりも何倍も大きい、青い輝きが弾けるように現れた。
光の中心には、
翼を大きく広げた少年が、仁王立ちのまま僕たちを鋭く睨みつけていた。




