202話 子爵令嬢マリエルの黒歴史④
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「おや?君は何も言うことは無いのかい?親の部屋から勝手に持ち出したものを魔獣に取られ、その情報を知って居そうだからって孤児を拉致しようとしたって、君が寝ている間に二人が話してくれたけど、二人を巻き込んだ言い訳も、冒険者の子供を拉致しようとした言い訳も何もないんだ」
黒い格好の男の人の言葉に、私はジョスとオーブリーを睨みつけた。二人はこちらを見ずに下を向いていた…
二人の態度に衝撃を受け、男の方に視線を向けると、男は口角を上げ、自分の頬を指さした。
「子供たちの失態に、君たちのお父君は領主様に殴られてあんな痛々しい状態なのに君は何も言うことは無いんだね」
男の言葉に衝撃を受けた。私…私のせい…?
震える口を手で覆い…視線をお父様に向けた。いつも凛としてかっこいいお父様の頬は青く変色して腫れていた…それもこれも私のせい…そんな…そんな、そんな…私は大切なお父様に傷をつけた…
手が震える…
息がしづらい…
そんな今にも泣きだしそうな私に男は静かに問いかけた。
「なぁ嬢ちゃん。あんたは――なんだ?」
男の問いかけに、私は思わず背筋を伸ばす。けれど意味が捉えられず、しどろもどろに口を開いた。
「え? わ、私は……辺境伯騎士団長、ミケーレ・ペンツィネンの娘、マリエル・ペンツィネンです」
「……違うな」
男の表情は微動だにせず、ただ視線だけをこちらに向ける。
「なんで肩書きを並べる? 親の名も、親の地位も、お前のものじゃない。借り物だ」
息が詰まる。視線を逸らそうとした瞬間、さらに追い打ちが飛んできた。
「お前が“孤児”だと吐き捨てたあの少年は、孤児じゃない。アルマだ。一人の人間だ。
……同じように、お前も“辺境伯の娘”じゃない。マリエル。お前自身でしかない」
突き刺さる声に、胸が締めつけられる。
言い返そうと口を開いたが、喉は音を拒んだ。
肩書き以外に、自分を示す言葉が何ひとつ見つからなかった。男はジョスとオーブリーに視線を向け二人にも私と同じ様に問う。
「……なぁ、そっちに居るクソガキ共。お前らはどうなんだ?」
投げられた問いに、ジョスもオーブリーも揃って口を開きかけ……何も言えず、唇を噛んだ。
沈黙のまま視線を落とす姿に、男はふっと鼻で笑う。
「アルマは――“F級冒険者アルマ”だ。地味でも真面目にコツコツ仕事をこなし、無茶をせず、見習いの面倒をよく見る。孤児院のちびたちにとっては大切な兄貴だ」
静かに放たれる言葉が、逆に重く響く。
「騒ぎのあと、ギルドに孤児院のちびが院長を連れて戻ってきて、受付で叫んだそうだ――
『アルマは危ないと思って、アタシに“帰れ”って言ってくれたんだ!』ってな」
男の目が、鋭く私たちを睨みつける。
「なぁ……お前らに、アルマと同じことが出来るか?」
私達は誰も答えられない。
拳を握りしめ、喉を震わせても、声は出ない。
――次の瞬間、場には言葉よりも重い静寂が降りた。
その時、静かな部屋に女性の声が響いた。
「……師匠。言いすぎです」
落ち着いた声だが、張り詰めた空気を断ち切るには十分だった。
「この子たちは、そこまで考えず、行動したんでしょうね―――。
アルマたちに真摯に謝ってもらいましょう。それ以上追い込むのはダメですよ、カナメちゃんが許さないと思います。師匠だって怒られたくはないでしょ?」
黒い男の人を師匠と呼んだ、大きな眼鏡をかけた女性は子供に言うように男の人に言い聞かせた。男の人も顔を歪め、大きく息を吐いた。
「ノンナ…お前ホント逞しくなったよな…。わかったわかった、後はアルマに任せる」
そう言った瞬間、部屋の中に居た領主さまをはじめ、お父様たちが安堵したように息を吐いたのが分かった…
この部屋の大人たちが皆緊張するほどこの男の人がやばいって事を、今この瞬間に私も、ジョスもオーブリーも理解した…
「あ!そうだ巻き添いで迷惑を被った俺の娘とちびにもきちんと謝れよ」
男の人は軽く私たちにそう言った―――。
娘とちび…それって…男の人の黒髪を見て、あの少年に飛びついた黒髪のあの小さい二人の事を思い出し絶句した。
黒い男の人…なんで怒ってるのかとすごく怖かったんだけど…あの二人の家族か…
あ―――もう二度と偉そうにしないと誓います。ホントに怖かった。




