178話 薬師ノンナの楽しい日々
ラヤマキ男爵家は、本当に貧乏な男爵家。
領地も猫の額ほどの小さな土地で収支がトントンの何とか貴族として生活しているギリギリ貴族の家。
平民の商家の家の方がはるかにいい暮らしをしていると思う。
うちには兄が二人姉が二人いる。その時点で、結婚に必要な持参金は用意出来ないと、結婚は10歳ごろにあきらめた。現実を早々に受け入れて夢を見ないようにした。とても現実主義な人間だ。そんな現実を抱えながら日々はすぎ、ギリギリでも、貴族は貴族なので、王都の王立学園には通わなくてはならなくて、無い袖振り絞って学園に入れてくれた両親に感謝しつつ、今後一人でどうにか生活できるように、手に職をと思い、薬師科を専攻した。
薬師科は、自分の性格に良くあったのか、薬草や調合を覚えるのは事のほか楽しく、思ったよりも充実した学生生活を送れたと思う。
ただ、うちの作ったモノはすべからずみんなと違う感じのモノが出来上がるという先生方を困らせる状態を除いては。
手順や知識は学園始まって以来の成績だとお褒めいただき、成績優秀者で評価され手の卒業となった。
ただ、最初入った王都の薬師工房では作ったモノが異色だと、噂になって工房にめったに出てこない工房長に顔を顰められ、ため息をついて、何も弁明させて貰えず、「学園に苦情を入れておく」そう言って即首を言い渡された。
懐事情から、そのまま王都に居る事も出来ず、辺境に帰って来た。
そして家から通える薬師様に弟子入りして…3ヵ月。下積みを経てようやく師匠の前で技術を披露する事が出来たと思ったら、うちの調合した薬はおかしいと…またも首にされた…
実際問題、手順も何も問題ない状態で、なぜ皆と違うモノが出来上がるのか、自分でもわからない現状ではもうどうする事も出来ず、道路に投げ出されて途方に暮れている所に走り寄ってくれた人たち。それが今の師匠の錬金術師のクロト師匠と娘のカナメちゃん。ひとまず、うちを引き上げてくれて、土を払い、落ちたものを拾い、手を引かれ気づいたら教会へ行く坂道の手前にある紅茶の美味しい喫茶店のテラス席でお茶を出されていた。
クロト師匠と小さな幼児のコーくんは、うちらが席に着いたのを確認すると、納品にいってくると傍を離れ、カナメちゃんとぽつぽつと紅茶を飲みながら世間話をする事になり、気づいたら家族の事や、コンプレックスのそばかすの事迄話していた自分に驚いた。
うち案外自分の事話さないタイプなんだけど、カナメちゃんお子様なのに聞き上手の誉め上手でついつい話してしまったことがきっかけで、クロト師匠の元で助手をする事が決まった。仕事の大半はカナメちゃんが見出してくれた、うちのポーションを作る調薬と、少しばかりの師匠の助手。これで今までの給料の倍をもらってしまっている。好待遇過ぎて怖いくらいだ。
ただ、ポーションを発売してすぐに制作者のうちが誘拐されそうになり、一人行動が出来なくなったのは困った事態なんだけど、幼児のコーくんが、胸を張って「我が娘一人ぐらい守ってやろうぞ」そう言ってクロト師匠と、カナメちゃんを納得させていた時、頭の中が「?」でいっぱいになった。それからというモノ、常にコーくんが一緒に行動してくれるようになった。
可愛い幼児がいつも一緒は、ある意味癒される。嬉しい。
そんな日々が続いて居る時、再度誘拐事件が起きた。
その時に、コーくんが幼児じゃなくて、ドラゴンだって知った。ドラゴンに変化してうちを守ってくれたコーくんが、正体を知った私が怖がるのではないかと、うちの手を掴みながら上目遣い見てくる所があざと可愛くて尊死ぬ!!結婚は良いから子供は欲しい。そう思った瞬間だった。
カナメちゃんは、今の現状よりもより良く!!が、モットーな気質なのか、今回はこんなものが出来た!!良いじゃないか。で終わらず、次はこういうものが出来たらいいんじゃない?とさらに開発しようとする。その発想を笑顔で受け止め、カタチにしていく手伝いを師匠がしている。
今納品しているポーションも、さらなる開発!っと、薬草で作っているポーションを、甘い味で無臭にして、紅茶やコーヒーに入れれるようになったらもっと世界が広がるよね。そう言って開発している。もちろんうち以外の人間が濃縮タイプを作れるようにするのも並行して研究中。
たまに思う。師匠の頭の中と、カナメちゃんの頭の中どうなっているのか覗きたいと。そうしてうちも、今よりももっとみんなの役に立つものを作りたい。そう毎日思うようになった。
そんな感じで、クロト師匠の家で住み込みで助手業が楽しい毎日を過ごしている。 卒業後、立て続けに首になったのは、この幸せな生活を送るための布石だったのだと思う事にした。それ位今とっても充実しているのだ!!