147話 メルフ商会と黒装束の者達
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工場の中には一人の爺が何かを睨むように黙々と作業に没頭している。
工場の扉のガラス戸から、覗いている人間が居ても気にも留めない。そこに元気な女性の声が響く
「こら!あんた達サボってないで仕事しな!!」
「なんだよジェニーおばさん!俺たち今日の手伝いはきちんとできたよ!!」
「そーかいそーかい、だからって人の作業を盗み見るのは違うだろ。自分の家の親に教えを請いな!!」
元気に少年たちを追い返しその扉を勢い良く開ける。
「ガンさん!!あんたも食事しな!!シンちゃんが居ないと飯も食わないなんて、死ぬ気かい?まったく、そう言うのを自業自得って言うんだよ。自分で追い出しておいて」
白髪の爺は女性を睨みつけるとすぐに作業に戻った。
「まったく、ジーナさんに顔向けできないようなことはするんじゃないよ。あと、コレ。メルフ商会からの発注書。私がこの後ついでに届けるから今すぐ確認して納期を書きな!!」
その言葉を聞きバッと顔を上げる爺に、ひらひらと発注書を振るジェニーおばさん。
「貸せ」
手を出し早く寄越せと睨む爺に、ジェニーおばさんは呆れた顔をして発注書を渡した。爺は発注書を読み終わると、今まで動かなかった椅子から降りて、よたよたと棚上の見積書を取りだし書き始めた。
「ちゃんと余裕を持った納期にしなよ!倒れるからね。もう面倒見てくれる子は居ないんだよ!!」
爺はがりがりと見積書を書いている。書き終わって見積書をそのまま渡すので、封筒にぐらい入れなさいよ!と怒られ、しぶしぶ封筒を棚から探し、書類を入れてジェニーおばさんに渡した。
「お前もさっさと旦那の事なんか捨てて自分の人生を歩けば良いものを」
「何言ってんだい!あの人は寂しがりだからね。待っていてあげないと。子供みたいに泣いちゃあ、息子に示しがつかないでしょ。ふふふ」
「お前もたいがい阿呆だな」
「爺には言われたくないわね。ハイハイ、これメルフ商会に持って行っとくから。納期、無茶してないでしょうね!」
「うるさい。さっさと行け」
「まったく口の減らない爺だね、昼食ちゃんと食べるんだよ!!」
そう言いながら、ジェニーおばさんは部屋を出て行った。おばさんが部屋を出ると爺は発注書と共に渡された紙をおばさんが用意した昼食のトレーの上にある、水の入ったコップの中に突っ込んだ。紙がコップの水でふやけて半分溶けた状態になってから、爺はトレーにあったパンとシチューを食べ始めた。食べ終わるとコップに指を突っ込みかき回す。すると紙が完全に溶けて濁った水になった。それを確認して、その水を窓から外に捨て、爺はまた作業台に向かい、
「ワシはまだ諦めとらん…」
そう言葉をつぶやいて仕事を始めだした。
***
ガンゾウ工房を後にしたジェニーおばさんは、先ほど預かったメルフ商会の見積書を持ったまま、カナメたちが泊っている宿に着くと、
「あたしゃ魔道具工房ジェニストの者だけど、メルフ商会の人が滞在して居るって聞いたんだけど?」
と受付にやってきた。受付には白髭の立派な爺がにこやかに待っていた。
「メルフ商会の方から伺っております。すぐにご案内します。おーい、この方を個室の商談室にお連れして」
すぐに返事があり、ウサギ耳の獣人の女性がにこやかに案内をし始めた。
***
宿の外では、なぜか宿に入れずうろうろする男たちが居る事にジェニーおばさんは気づかない。親方様と呼ばれる宿の爺はそれを見て、
「こんな面倒事を、死に損ないの儂の様な老いぼれに任せるなど、ルフ様もお人が悪い」
そう、言葉を漏らすと指を”パチン”っと鳴らす。すると、黒ずくめの装束を着た数名が突然現れ男たちを捕縛し、そのまま連れ去ってしまった。
「最近の若いもんは歯ごたえがないのぉ、フォホホホホ」
そう言いながら爺は宿の中に消えて行った。




