144話 ウィルと召喚勇者の話
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宿に戻り、知り合いと食堂で食事して良いか聞くと、受付のお姉さんは少々お待ちくださいと奥に入って行った。そうしたら最初に受付してくれたお爺ちゃんが出てきて、
「商談などで使える個室の食事場所があるよ。あんたらはそっちの方が良いじゃろう」
と連れの二人を見て言われ、納得。ですよね…貴族だろうから(推定)普通の食堂は無理か。お礼を言ってそこに案内してもらう。受付の人にトーさんが帰って来たか聞くと、まだ戻っていないと言われたので、帰ってきたら個室に案内してもらうように頼んでおいた。
個室に入るとそこは和の空間だった。私と黒髪の女性は入口の障子張りの格子の横開き扉に、席が板張りの掘りごたつになってる所に、座布団にと感動してしまい二人で立ち尽くしてしまった。残念なのは畳でない事かな…イグサが要るんだっけ?畳の作り方は判らないな…残念。
「二人ともどうした?」
美丈夫から声をかけられ、はっとした私と黒髪女性は席に向かった。壁は優しい薄いクリーム色の漆喰、テーブルは木目が美しい一枚木の天板の座卓。6人ほどが座れる席に、一番奥に美丈夫とその横に黒髪女性、向かいに私とシンさんで着座した。
部屋は意外に広く、圧迫感を感じにくい造りになっている。窓も障子が外からの光を柔らかに遮ってくれる。
緑茶とお茶に合う菓子を4人分頼み、一先ずは落ち着いて話を始めることにする。
「この壁、漆喰かしら?」
黒髪の女性は壁に触れ懐かしそうに言葉を漏らす。あぁこの人はやはり…
「そうですね。この感触は漆喰か、それに似た物でしょうね」
私の言葉に女性はこちらを見る。私はニコリと笑い
「私、出身は異世界の日本と言う国から来ました。麻生 要と申します。そちらのお嬢さんもそうなんですよね?」
黒髪の女性は美丈夫に視線で確認を取りながら、嬉しそうに答えてくれた。
「私、漆原 紬木と申します。私も日本出身ですわ。撫子女学院3年で、18歳でこちらの世界に召喚され、3か月になります。同じ世界の方に会えて嬉しいです」
撫子女学院って名門のお嬢様学校じゃない…古風な言い回しはそれでか…紬木さんは頬を紅潮させ、目が潤んだ状態で私に微笑んだ。そんな紬木さんの手を優しく握る美丈夫。私は彼を見る。その視線に気づいたのか、彼は照れくさそうに微笑んで自己紹介をしてくれた。
「私は、ウィルフレッド・レミア・フリムスト、フリムスト王国の王太子だ。今はウィルと呼んでくれ」
「「は?」」
私とシンさんは、二人して目が点になった。フリムストの王太子が目の前に…私はシンさんの手を握りしめて首を横に振った。私たちのやり取りを見てウィルが目を伏せた…
「君たちが、先ほどの男たちに王宮に報告したと言ったのが聞こえてな。良ければイルグリットの王につなぎをとりたい」
私たちを真剣に見つめ頭を下げるウィル。その姿を見て紬木ちゃんも頭を下げる。
「このまま父の思うように動けば国が、民が、疲弊し死んでしまう。あんな馬鹿な勇者を呼んで人を殺させ…あの人は一体何をするつもりなのか」
苦しそうに、悔しそうに強く手を握りしめるウィル。私は、彼が発した言葉に眉根が寄る。
「勇者?召喚されたあのイカレ勇者?もしかしてあいつを旗頭にするつもりだったの?碌な事にならないと思うけど?」
「勇者を…知っているのか?」
ウィルは目を見開いてこちらを見てくる。その目は困惑に近い……もしかしてあの勇者…
「あの勇者ってもしかして喜んで子供を殺すタイプの奴だったの?」
私の質問に紬木ちゃんとウィルは神妙な顔になり、二人して頷いた。
「特に女児が被害にあった。女児は王宮にはそうそう出入りしないので王宮内なら制御できたんだ。死刑囚とか奴隷を父があてがっていた。…だが街に出た途端、年端も行かない幼い子供たちを襲い、止めに入った親までも被害にあった。奴はただの犯罪者だ…なのに父は…国王の判断で奴は国外に出された」
「あぁ、そう言う事…道理で笑いながら突然斬りつけてくるはずだ。本当にサイコヤローだったんだ」
みるみる青くなっていくウィルと紬木ちゃんに、苦笑いをしながら、
「多分彼に会う事は二度とないよ。大丈夫。トーさんが対処したから安心して」
「彼は曲がりなりにも召喚された勇者だ…その、一般人が彼に敵うとは…」
おずおずと言うセリフに、召喚勇者ってやっぱ強いんだなぁと感心しながらも、私は胸を張って、ドンと胸を叩き、堂々とドヤ顔で言い切った。
「一般人じゃ無いですよ。対処したのは私の、最高で最強のAランク冒険者のトーさんです」
「Aランクの冒険者なら奴をどうにか出来たのか……」
私はシンさんの方を見て首を傾げる。シンさんは私が何を言いたいのかよくわからないようだったけど、遠巻きに見ていたトーさんと少年の戦いぶりを思い出し、
「5分かかってニャかったですかニャ。実際アタシの目にはクロトは相手に触れてもいニャかったと思うけどニャァ~」
シンさんのセリフに王太子は愕然とした様子だったが…額を押さえ
「そ、そうか。あの者の対処、礼を言う。あれは王の庇護のもとやりたい放題だったのだ…国を出されてからは、奴が何をするかわからず不安だったんだ。これ以上の被害が出ない事が分かり安心した。感謝する、ありがとう」
王太子という身分にもかかわらず、ただの子供にこうも簡単に頭を下げられるなんて。本当に案じていたのが分かる様子に私は頬が緩んだ。




