140話 フリムストの王族とイルグリットの王族の違い
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【フリムスト王国】
謁見の間・玉座に座る王は侮りのある視線で足元に居る第一王子である王太子ウィルフレッドを見る。
「ドルマンの報告が正しければ彼の国は恐ろしい者と手を組んだと言う事です。そして魔道具の技師も数名捕らえられ、勇者も不在の状態。マルリシオの術式も破壊された今、現状での計画遂行は無謀と言うものです。お考え直しを陛下!!」
ウィルフレッドの言葉に、王は大きな溜め息を吐き、
「まだ重要な駒は揃っておる。それに、あの黒き悪魔をその化け物に嗾ければ、見事、共倒れになるやもしれぬぞ?うむ、むしろ上策ではないか? 国主である我が考えに、王太子であるお前が異を唱えるつもりか?愚か者が。もうよい。下がれ」
陛下は私の言葉に耳を傾けることなく、手を払い、まるで追い払うように王太子である私を退席させた。
私は謁見の間を出た廊下で、謁見の間の出入り口の扉を睨み拳に力が入る。
ダメだ、陛下は目先の欲に囚われすぎて守るべきものが何かを忘れてしまっている。そんな大きな戦いが起こったら民衆が…民の命が多く失われる…。マルリシオも狡猾なあのドルマンの監視下にある…
マルリシオのあの魔術の術式の才に気づいたドルマンの目には敬意を表したいが、奴は野心が強い。その野心が故に、王族たるマルリシオをさえ軽く見ることがある…あいつは信用ならない…何か大きな失敗でもしてくれればマルリシオの傍から引き離すことも出来るのだが…。
私は扉の前で止まっていた足を返し動き出す。この国の為に、迷惑をかけているフリムストの為に、私が動くしか、今のこの現状を変えることが出来ないのかも知れない。
***
【イルグリット王国 王城】
「陛下!!陛下!!大変でございます!!!!」
どたばたと大声で王を呼ぶ声が聞こえる。王は王妃とオーラシアン王国から贈られたバラ『オーラシアン』の名にふさわしい大輪の美しいピンク色のバラを愛でながら、庭園で仲睦まじくお茶を楽しんでいた。そんな中への、この大声である。
「あらあらまあまあ、宰相は今日も賑やかですね~ルフ様。」
「そうだのう、メルちゃん。宰相の血管は今日も額にくっきりじゃの。分かりやすいのう~ハハハハ」
そんな呑気な言葉を聞き、大声の主、宰相ラモンは青筋をぴくぴくさせながら、更に叫ぶ。
「私の事は今はどうでもよいのです!!そんなイチャラブしてお茶をしばきまわっている場合ではございません!!しっかり聞いてください陛下!!オーラシアンの使者が、陛下と話がしたいと突然訪れました!!この国を揺るがす火急の要件だと申しております!!!」
「あらあら、まあまあ。少し前にあちらの国から戻って来たばかりの私達に何かしら?」
「いやいや、春の夜会は大変スリリングで面白かったねメルちゃん。今度はどんな楽しいことが起こるのかな?楽しみだのぉ、フォフォフォ」
「余興じゃないんです!!火急の使者が既に来てるんです!!シャキッとしてください陛下!!」
「「宰相は今日も元気ですね~」」
呑気な王族二人の楽し気な声が重なり、庭園に響いた。
***
【クロト視点】
………俺を王のいる場所に案内しようとしていた従者が段々と青ざめ、こちらを申し訳なさそうに見ている……庭園だから丸聞こえだ…オーラシアンの王様もなかなかな狸様だったけど、この国の王はあれか?羊か?ハムスターか?花畑か?呑気だな…今、自国で何が起ころうとしているか気付いていないのか?
おろおろする従者を追い抜いて、王を呼びに来た男の後ろから声をかける。
「お初にお目にかかります、Aランク冒険者、クロトでございます。この度…」
「あらあらあら、使者様じゃないのですね?冒険者さん!ルフ様ルフ様♡面白いですわ。王城で冒険者が緊張も無くこんなに堂々としているなんて。うふふふふ」
俺の挨拶の最中に言葉をかぶせてきたのは、この国の王妃メルーガル様。元気いっぱい花いっぱいなお方の様だが、息子3人を育て上げた王妃様だ。年齢は永遠の19歳だそうだ…これ公式に出されているプロフィールだぞ…凄いだろ。
「そうだね。そうだねメルちゃん。冒険者なんてかっこいいね♡憧れるね」
うふふ、あははと花が飛び交う会話に俺は真顔になって宰相を見た。宰相は俺が見ていると気付いているくせに、こちらを見ようともしない。視線が合わない…俺は溜め息を吐いて、取り繕うのを止めた。
「ここにオーラシアン王国の国王の紹介状がある。俺はただのAランク冒険者だからな。しかも冒険者稼業は休職中だ。紹介状は何かあった時の為にと宰相がお守り代わりに持たせてくれたものだ。役に立ったようだが。ははははは」
俺が一切取り繕うのを辞めたからか、王が興味津々でこちらに声をかけてきた。
「ほうほう、そちらの宰相もなかなか気が利くね~そんな冒険者さんが我らに何用だい?」
「あぁ、この国な、祭りの最終日に魔獣が押し寄せて滅ぶようだが、このままで大丈夫か?」
俺の言葉に、流石に国王夫妻以外の人間も唖然として動きが止まった……最初に正気に戻ったのは宰相。流石。
「それは、何か根拠があるのかね?冒険者クロト」
俺はシンから預かった魔石を国王夫妻がお茶をしているテーブルに取り出す。
「見覚えがあるだろう、その魔石。癖のある魔石だ、気軽に触らない方が良い」
王と宰相は目を見開く。王はサッと取り出したモノクル型の鑑定鏡を掛け、確認を始める。
「こ…この魔石はフリムストの…しかも何か術式が細かく刻まれている…凄い技術だの」
細かい術式に感嘆の溜め息を漏らす王。
「魔道具の祭典のフィナーレで大きな幻影の花、魔道具「ゲンムノハナ」を夜空に上げると聞いた。その術式が王都の空に展開すれば、魔物が王都に入れなくなると。言わば魔道具を駆使した結界。間違いないか?」
俺がそう聞くと宰相は王に目線で確認する。王は大きく頷いた。それを見て俺は告げる。
「その魔道具の中央部分に使われる術式が組み込まれた魔石がそれだ」
流石に王城勤務の者はこの魔石について知っている者が多いようだ。王は呟くように声を漏らした。
「これは…しかし、この魔石は独特な魔石で、これでは効果が全く逆の物が…」
「それに気付いた魔道具技師の家族が、その魔石を持ち出したんだ。何者かに襲われている所に俺が出会し、その者を保護した。魔石も安全のため俺が預かっている。危ないからこれは回収するぞ」
俺がピンクの魔石の下に闇沼を発生させテーブルから収納すると、皆が息を呑む。深刻さが伝わった様で何よりだ。
「この国の魔道具技師の誰かに現場の図面を見てもらえば何を作っているのか、はっきりするだろう。今作られているのは全く別物の「ゲンムノトバリ」と言う魔道具だ。中心に設置された魔石の力で魔物を呼び寄せ惑わす誘因作用のある魔道具で、「ゲンムノハナ」とは真逆の効果の物だな。その魔道具にあの魔石を置くはずだった。その悪意が解るか?」
俺が、王や王妃、宰相の前で、悪役顔負けの意味深でニヒルな笑みをしたら、王妃が顔を真っ赤にして
「ルフ様ルフ様!!冒険者って!!ワイルドだわぁ~♡ !!不敵な笑みが素敵だわ!」
宰相が眉間を揉み込み耐えている……王は、
「分かるよ!!わかるよ!!メルちゃん。クロト氏かっこいいね!!ダーク・ヒーロー的な!!かっこいいね!」
俺は絶句して、宰相は頭を抱える。ホント宰相様よ、この国大丈夫か?
俺が遠い目をしていると、宰相がバッと立ち上がり震える手を握りしめ、
「さっさと気合い入れんかい!この、ほのぼの国王夫妻が!! 」
王宮の庭園に似つかわしくない怒声が響いたのだった。




